漆黒の騎士と紅蓮の皇帝

太白

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騎士サイドⅦ 拝命

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 夜会の日。
 自分の弱さを突きつけられた日。
 何も変われてなどいない己を思い知った日。
 そして、陛下の人間らしい一面を見た日。

 ただただ、悔しさに身を焦がした。縋って泣いた。

「弱さから目を逸らすな。刮目しろ。己を見据えろ。飼い慣らせ。そうする以外に、貴様に道はない」

 翌日、泣きじゃくったせいで腫らした目を見た先生は、私にそう言った。
 何があったかは察しているはずなのに、先生はそれだけを私に言った。

 一年半。
 先生の言葉を胸の奥深くに刻んで、ここまで研鑽を積んできた。
 その集大成が、今日試される。
 騎士への昇格試験。
 形式は、先生との試合である。
 そして上座には、我が皇帝陛下。試験の結果を、見届けてくださるそうだ。

「それでは、候補生の騎士昇格試験を始める。ヨーデル、よろしく頼むぞ。そして候補生よ。このチャンスを逃せば、次は半年後にしか試験を受けることはできない。心してかかるように」
「承知致しました。陛下」
 自分の声が、硬く聞こえた。

 先生と、正面から相対する。
 先生が剣を構える。私も、構える。懐には、左手用のナイフを仕込んである。
 お互いの呼吸がかち合った瞬間、試合は始まった。
 鋭い突き。初めて先生の剣を受けたときのことを思い出した。
 あの時は避けるだけ、否、死なないようにするだけで精一杯だった。
 今は。
ガツンッ。
 充分に余裕を持って受けられる。受けられるし、攻勢に転じることだって。
ガツッ。ガンッ。ガガガン。
 突き、払い、薙ぐ。
 それでもやはり先生は男。純粋な体格差や力量差は埋まらない。
 ならば。
 懐から左手用のナイフを取り出そうとするが、流石先生。そう甘くはないか。
 取り出すだけの隙を作れない。
 先生の剣戟が激しさを増す。
 このままでは押し切られるのは自明の理だった。
 自然と口角が上がることが分かる。
 笑え。こんな時こそ、凄絶に笑え。
 私の笑みを見た先生に、ほんの少しだけ、本当にほんの少しだけ隙が出来た。
 レイピアのグリップの持ち方を変える。中央部分を持っていた状態から、ポメル、柄頭のほうを持つ。そして、空いている左手でレイピアを押し込むように。
 少しだけ長くなったリーチ。レイピアの切っ先は、真っ直ぐに先生の眉間へと吸い込まれる。

「そこまで」

 陛下のお声が響き渡った。
 切っ先は先生の眉間を貫かず、直前で停止する。
 詰めていた息をふっと吐き出す。
 剣を引き、鞘へ納める。

「候補生よ。ヨーデルの弱点を見事見破ったな。ときにその戦い方はヨーデルとて、教えなかったはず。どうして知って」
「簡単なことです、陛下。先生は剣捌きの中でも、今の持ち方だけは教えてくださらなかった。あとは、今日この日まで、この技を使わなかっただけのこと。それほど難しいことではございませんでした」
 艶然と笑う私に対して、陛下が困惑されていることが、手に取るように分かる。
 それもそうでしょう、陛下。何故ならこの技は。

「そうか……。まあよい。本日をもって其方を騎士に任命する。騎士の色は……」
「黒薔薇に決まっているでしょう、陛下」
 先生が、ため息混じりに進言した。
 騎士の序列は、白薔薇、青薔薇、そして黒薔薇。最高位は黒薔薇だ。
「そうだな、黒薔薇がよかろう」
「ありがとうございます、陛下。謹んで、お受け致します」
 陛下の御前へ、跪き、頭を垂れる。
「黒薔薇の任命と共に、其方に『シュバリエ・ロゼルタ』の名を与える。これからはシュバリエと名乗るがよい」

 名前。私の、名前。
「シュバリエ・ロゼルタ」。
 頭の中で、その名を転がす。
 垂れた頭のその口元が弧を描く。

「かしこまりました、陛下。ありがたき幸せ」

 つけていただいた黒薔薇の紋章を胸に、私は陛下と先生に背を向け、部屋から立ち去る。

 くすり。

 その笑みは果たして私が発したのか、それとも、私の中の獣が発したのか、どちらともつかなかった。
 黄緑の眼が、薄暗い廊下に爛々と輝いていた。
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