幸運な家族

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新しい町

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「そろそろお昼作るから、二人ともおしまいにしましょ」
「美結、もうちょっと遊んでる」
「リビングの窓から見える位置にいてね」
「うん」

 さっさと家に入った正章とは違い、土いじりが気に入ったらしい美結はスコップを手放さなかった。近くに川はあるものの、美結は勝手に行くような年齢でもなく、リビングの大きな窓からは庭がよく見える。由里子は大して気にもせず、正章に続いて部屋に戻った。

「おうどんでいい?」
「うん」

 ソファで寝転がる正章に声をかける。窓の外には美結もいる。安心して鍋に水を入れていると、ふと美結のすぐ後ろに靄が見えた。

「ん?」

 目を擦ってみる。勘違いではないらしい。火をつける前に一度玄関の外に出てみた。

「どうしたの?」
「ううん、何でもない。お昼はおうどんだから」

 靄はすっかり消えていた。

 何だったのだろう。今日は晴れで、霧が出るという予報も出ていなかった。疲れているのかもしれない。

 三十分程して昼食となった。三人とも体を動かしたので、いつも以上に勢いがいい。

「ブロッコリーはいいけど、ほうれん草はちょっと嫌い」
「自分で育てたものなら美味しいかもよ」
「ううん……」

 美結が顔を顰めながら悩むのを由里子が微笑ましく見守る。その横で正章が立ち上がった。

「ごちそうさま」
「食器シンクに置いといて」
「うん」

 由里子が食べ終わり、両腕を伸ばす。

「ん~……さて、午後もお庭をちょっと片付けようかな」
「美結は疲れちゃった」
「そうね、ママも少しやるだけだから休んでていいわよ」

 食器を洗い、ソファで三十分程寛いだ後、由里子は再度庭に出た。始めに敷地内をぐるりと一回りしてみたが、人影も太陽を遮るものも何も無かった。

「気のせいね」

 短く息を吐き、隅に置いていたスコップを手に取った。半分はすでに植え終わったが、まだ半分畑が余っている。ガーデニングの経験が無いので、今のところはこのくらいの規模で十分だろう。慣れてきたらここにも何かを植えて、一年、二年と長く楽しめたらいい。

 次の機会のため残りも耕して今日の作業が終了した。由里子がゆっくり立ち上がる。昼寝でもしたいところだが、引っ越してきたばかりでまだ掃除らしい掃除をしていない。

「正章? 美結?」

 玄関で声をかけるが、どちらの声も返ってこない。どうやら二人とも自室にいるらしい。

 二階まで上がることなく、廊下で充電していた掃除機を手に取り、リビングから順にかけていった。

 新しい家は全部で五個部屋がある。一階はリビングと夫婦の寝室、それに風呂とトイレ。二階は部屋が三つあり、その二つを子ども部屋として使っている。余っている一つは仮に正志の書斎としたが、使う予定が無いので開けられていない段ボール置き場となっている。

 由里子も書斎を使用してもいいと言われたが、個人で所有するパソコンは無く、用事は全てリビングと寝室で事足りるため使うことはないだろう。

 一階の掃除が終わり、階段を一段一段掃除機をかけ二階へ上がった。子ども部屋は両方ドアが閉まっている。

「よしよし、美結もドアを閉めてるわ」

 まず書斎を掃除し、続いて美結の部屋のドアをノックする。返事が無いまま開き、中に入る。美結はベッドに転がってゲームに夢中だった。思ったより整理されていてほっと息を吐くが、やけに荷物が少ない気がしてクローゼットを覗こうとすると、美結に止められた。

「だめ、プライバシーだよ」
「そうなの。まだお片付け終わってないのあったらしちゃってね」
「分かってるよ」

 それ以上言うことはなく、由里子は部屋を出た。

 最後、正章の部屋のドアをノックする。こちらは返事があるまで待つ。もう一度叩くと、ようやく了承の声がした。

「掃除するよ」
「うん」

 こちらは多少散らかっていたが、荷物は全部出されているようだった。手早く掃除機をかけ、クローゼットには手を付けず終わらせる。

「ふう、疲れた」

 午前中から庭いじりをしたため、掃除機をかけるのも一苦労だ。やや猫背になりながら階段を下り、掃除機を充電器に取り付けた。ソファに座り、深呼吸をする。

 カレンダーを見遣る。明後日から十月で、小学校が始まる。もう少しゆっくりできるだろう。

「あ、買い物、はいらないんだ」

 いつもの癖で買い物に行く準備をしようとしたが、引っ越しをして気楽に買い物をすることができなくなったことを思い出す。バスに乗れば買い物はできるが、多い時でも一時間に二本しか走っていないため、気楽にとはとても言えない。

 買いだめしたものを確認し、今日の夕食を考える。最近、美結の偏食が目立ってきて困っていたが、気軽に新しい献立を立てられない現状を理解してくれれば、それも解決するかもしれない。

「少し不便だけど、その中で楽しみを見つければいいわ」
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