幸運な家族

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新しい町

ガーデニング

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 翌朝、正志が会社へ行く準備をしていると、由里子が大黒柱横の棚で作業をしているのが見えた。

「その棚使うんだ」

 棚の上には写真立てと日焼け止めが、中には家の鍵など小物が置かれている。

「うん。使わないのももったいないでしょ」
「そうだな」

 由里子が玄関を振り返る。

「玄関から見えないのよね」
「丸見えよりいいんじゃないか。靴箱の上も物を置けるようになっているから、見えるところに置きたい物はそこに置いたらいいよ」
「そうね」

 写真立てだけそちらに移し、由里子は子どもたちの朝食を作り始めた。

 すでに正章はソファに座ってテレビを観ており、皿をテーブルに並べていると美結もリビングに入ってきた。

「おはよう。パパ、もう出かけるって」
「おはよ。いってらっしゃい」
「いってきます」

 正志が玄関のドアを開ける。今日が転勤して初めての出社だ。

「いただきまーす」

 正志以外の三人で朝食を食べ始める。食卓には昨日もらったトマトを使ったサラダが置かれている。

「ねぇねぇ、うちでもお野菜とか育てないの?」

 由里子がリビングの窓から見える庭を見遣った。

「せっかく広いお庭があるから、何か作ってみようか」
「やった」

 宮下家が購入した敷地は半分が庭で、特に塀などで仕切られてはいない。他に住宅も無いためどう贔屓目に見ても殺風景だ。

 小学校は明後日から始まるので、明日までは時間がある。何もすることがないとダラダラテレビを観たりゲームをしてしまうので、さっそく今日から畑作りをすることにした。

 軍手とスコップを手に、三人で外に出る。正章だけは暗い顔をしている。

「面倒……」
「美結なんておもちゃのスコップだよ。だから贅沢言わないで」
「そういうことじゃない」

 庭は土の部分と砂利の部分に分かれている。砂利が小山のように盛られているところを見る限り、家を建てる際邪魔な砂利を適当にずらしてそのまま放置したのだろう。砂利の中には石も混ざっていた。

「まずは畑の範囲を決めよう」

 後々車をもう一台購入して由里子が使うようになるかもしれない。そのため、二台分置けるスペースを確保し、それ以外を畑にすることにした。

「美結がお庭で遊ぶスペースも残しておいて」
「分かってるよ」

 自由にしていい土地をさらに半分に分け、片方を小石で四角く囲っていく。後ろの方から声がかかった。

「宮下さん」

 振り向くと、田中が笑顔で立っていた。

「お早う御座います」
「お早う御座いまぁす」

 挨拶をして由里子と美結が立ち上がると、田中が一歩前に出て両手をぽんと合わせる。

「皆さんでガーデニングですか。えいですね」
「はい。せっかくお庭が出来たので。子どもたちも明日まで学校が無くて時間が余っていますし」

「あ、種とかあります? 私、ガーデニングが趣味でいろいろ種持っちゅうがです。よかったら使わないのを差し上げます」
「あら、そんな悪いです」

「いいのいいの。ちょっと待っちょってください」由里子の遠慮を受け止めず、田中はさっさと橋へと向かっていった。

 小石を並べ終わり、土を耕しているところに田中が小走りで戻ってくる。

「これ、いろいろあるき、好きなの植えてください」
「わざわざ有難う御座います」
「えいえい、ご近所さんやき」

 由里子が続ける前に田中は帰ってしまった。慌ただしい彼女に由里子が眉を下げる。

「お茶の一杯でもと思ったんだけど、忙しいのかな」
「ママ。何の種もらったの?」

 美結がビニール袋を覗く。そこには種が入った袋がいくつかと、苗が二つ入っていた。

「あら、苗まで。有難いけど申し訳ないわ」
「使わないって言ってたから平気でしょ。秋に植えるやつってどれ?」
「ええとね」

 袋の後ろの説明書きを確認する。苗についてはスマートフォンで検索をした。

「この中だとほうれん草かな。あ、この苗はブロッコリーみたい。ほうれん草はちょう良い時期で、ブロッコリーもう少し早い時期が一番みたいだけど、まだ間に合うと思うわ」

「へえ~」

「ここはお野菜畑にして、家の入り口にはチューリップの球根植えようか。春に咲いてきっと綺麗よ」

「植える!」

 三人で畑を耕し、肥料を入れて種と苗を植えた。水をやるのも忘れない。いつの間にか太陽は真上に来ていた。
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