幸運な家族

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三森

小さな綻び

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 依頼の申し込みは都道府県と連絡先、困っている内容を入力して送ってある。その中で対応できるものについてはこちらからさらに詳細を聞くと説明書きがあった。

「そういえば、金額は? こういうのって高いのかしら」

「相場が分からないからなぁ。料金表は無かったけど、まずは調べるだけなら出張料のみだって。出張料は距離によって変わるって書いてあったよ。そこから解決させるならプラスでかかる感じ」

「距離ねぇ」

 片山事務所の住所は市外だが同じ県内だった。これなら大した額は取られないだろう。

「とにかく、家の様子を一度見てもらうってことでお願いするよ」
「そうね。それで正章が言うようなことと全然違うこと言ったり、変な水晶買わせようとしてきたら断ればいいわ」
「水晶か。それは分かりやすい」

 言いながら、家の住所を入力して返信した。すぐに確認したとのメールが返ってきて、今週の金曜日か土曜日を候補に上げられた。

「どうする?」正章が由里子に問いかける。

「正志君がいる時がいいわ。この人男の人でしょう。家に上げるのに私一人じゃ」由里子が眉を下げる。

「そうだね。じゃあ、今週のリモートを金曜日で調節しておくよ。三十分くらいなら時間が取れると思う」正志が返信し、片山が調べに来るのが金曜日に決まった。

 ひとまず、解決のチャンスは得られることができた。片山の能力がどれだけあるのか分からないが、素人だらけの討論よりは身のあるものになるはずだ。

「金曜日までは様子見か」

 正志が立ち上がる。由里子が手を叩いた。

「私、お守り買ってくる。近くにあった三森神社は潰れてて買えなかったから、次に近いところででも」

「三森神社?」

 神社の名前に正志が反応する。

「ごめん、そういえば言ってなかったわ。山の裏側にあった神社の名前が三森だったの。だから、ここを三森神社だと思って、間違えて来る人がいたんだと思う」

「へえ、そんなことが。最近は訪ねてくる人はいるの?」

 由里子が首を傾げて玄関のある方角を見遣る。

「最近はぱったり。なんでかしら」
「続けて来たのがたまたまだったんだろう。よかったね」
「うん」

 どんッ!

 その時、廊下から大きな物音がした。何か重い物が落ちた音だ。二人が急いで廊下に出ると、正章が驚いた表情で尻もちをついていた。

「正章!」

 由里子が抱き起こそうとしたところを正志が止め、正章に聞く。

「頭は打ってない?」
「うん」
「そうか、じゃあ、ゆっくり立ってみよう」

 今度こそ二人がかりで抱き起こす。正章が尻をさすった。

「階段から落ちたの? 痛いのはお尻だけ?」

 由里子の顔色が悪くなる。一方、正章はへらりと笑っていた。

「へへ、階段踏み外しちゃった。お尻がちょっと痛いだけだよ」
「もう……ッよかった。気を付けてね」

 正章から手を離すと、気まずそうにリビングへと入っていった。正志が由里子を見る。

「正章の階段を下りる音聞こえた?」
「ううん、どうして?」

「いや、踏み外すってことは急いでたのかと思ったけど、そうだったらドア越しでも足音が聞こえるだろう」
「確かに」

 階段を見上げて由里子が両腕をさすった。

 ことん。

「あ、また」

 転がった日焼け止めを手に取り、玄関横にある棚に置く。横の写真立てでは四人がこちらに微笑んでいた。

 リビングに戻ると、正章がケージを開けてきなこを撫でていた。しゃがみ込む体勢をしているが、特に痛がる様子は無い。

「俺は二階にいるから、何かあったら言って」
「分かったわ」

 由里子はキッチンで食器を洗う。奇妙な出来事は数度起きているが、致命的なものは起きていない。

──心配し過ぎなのかも。

 もしかしたら、専門家が来て、ただの気のせいですと言われるかもしれない。

──そうだったらいいのに。でも、そうしたら、今度は頭の心配をしなきゃいけなくなる。

 どう転んでも、すでに問題事は入り込んでいる。由里子は濡れた手を拭き、リビングのソファに座った。

「ん~」

 何気なく伸びをすると、正章がこちらを見ていた。由里子が伸ばしていた腕をぱっと戻す。

「何?」
「なんか疲れてそう」

 言われて、顔を触る。正章がきなこの方に体を戻した。

「そんな顔してた?」
「なんとなく。今日の水やり、僕がやるよ」
「ありがとう」

 礼を言うと、正章は視線を合わせずにそのまま外へ出ていった。リビングの窓から見守る。ぶっきらぼうな声色とは裏腹な丁寧な水やりに、自然と笑みが零れた。

「バスの時間でも確認しよう」

 スマートフォンで普段とは違う行先のバスの時刻表を確認する。最寄り駅へ向かうバスとは違い需要が無いからか、バスの本数はさらに寂しいものだった。

「あらぁ……ちゃんと時間内に用事を終わらせないと帰りがきついわね」

 一日に六本しか走っておらず、一番頻繁に走っている時間帯でも一時間は開いている。

「教習所でペーパー教習とか……うわぁ……」

 バスの不便さを痛感し意を決して教習所を検索してみたが、今度は市外の教習所しか出てこず、またもやがっくり肩を落とした。

「まずは敷地内で練習して、人気の無い道から始めるしかないか」

 幸い、宮下家の敷地外も空き地となっており、道路に出ずとも練習できる場所はある。

 それに、この先小学校からの急な呼び出しがあるかもしれない。由里子は正志がいる二階へと向かった。
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