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片山
約束事
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正志がドアを開ける。美結には、今日家関連の業者が来るから部屋を片付けるようにと伝えていた。綺麗とはいかないが、床に落ちているおもちゃは無く、及第点といったところだ。学習机だけが存在感を示していたが、由里子は見ない振りをした。
片山がきょろきょろ見渡し、何度か頷く。
「今はいないですが、石の影響は確実に受けています。息子さんが視たのもあの女性でしょう」
「何故、石から離れている二階に?」
「真上からしたら一階も二階もたいして変わりありませんから。それに、彼女は高いところに吊るされていたようです」
「ちょ、ちょっと待ってください。その方はここで亡くなったわけではないんですよね?」
「そうですよ。恐らく、石に彼女の呪いが引き継がれたといったところでしょう。土地や物、人、様々な何かに念や呪いは引き継がれますから」
正志が一歩下がり、背中が壁に当たった。右手で頭を掻く。
「ということは、新築だと言っても、瑕疵物件ではない中古でも、安心はできないということですか」
「ということです」
「なんてことだ。それじゃあ、回避する方法は無いじゃないですか」
「はい。素人目ですと、残念ながら住むまでは」
その時、あんがケージの中で元気良く動き出した。片山がしゃがみ、あんを眺める。
「可愛いウサギですね」
「ええ、最近飼い始めたんです」
あんを褒める後ろで、正志は両手を腰に当て、大きく息を吐いた。
「ウサギが暴れたことはありますか?」
突然の問いに、由里子が目を丸くさせる。
「暴れるという程ではないですが、一度だけ足をこう、ダンッと蹴って主張してきたことはあります」
「なるほど。この子には分かったのかもしれないですね。きっとその時いたんです、彼女が」
「えっ」
あの時、美結はあんが怒ったと言っていたが、もしかしたら構ってほしいわけではなく本当に怒っていたのかもしれない。つまり、由里子は吊るされている女性と隣り合っていたかもしれないのだ。
「動物は敏感ですからね。突然騒ぎ出したらいるんだなと思ってください」
「あの、リビングには犬がいるのですが、たまに廊下に向かって吠えることがあるんです。それも……?」
「でしょう」
言いきられて由里子は眩暈がした。代わりに正志が続ける。
「ペットに対して対策した方がいいですか。敏感だから体調を崩すとかあったら心配で」
「うーん、それがですね。全く問題無さそうなんですよ。それが私にも疑問で」
片山が立ち上がり、鞄から地図を取り出す。
「方角……いや、そんなことはないな。もしかして……ちょっと失礼」
右手を前に差し出して、正志と由里子の間を通り抜ける。二人が続いて廊下に出ると、すでに片山は階段を半分下りていた。
片山は真っすぐ棚に向かい、迷いなく底板を外した。正志たちが階段の前でそれを見守る。
「うん……なるほど。一つ宜しいですか」
「はい」
「この家で、誰かが怪我をしたり、原因不明の病気になったことはありますか?」
正志が由里子を見遣る。由里子が首を振った。
「ないです。あ、息子が階段で滑って転んだことはありますけど、怪我はしませんでした。あれは単純に踏み外しただけだと思います。そのくらいだよね?」
「ええ、特に怪我や病気はありません」
「なるほどなるほど」
片山が納得したように頷いた。
「それはよかったです。このくらいの強い呪いを放つ物であれば、触らずとも住む人間に悪い影響を与えます。それこそ、申し上げたように怪我や病気、下手すると命を落としたり。しかし、貴方方は全くです。幸運と言いますか、この立地に関係しているようです」
「立地ですか」
宮下家がこの家を見つけた時、転勤のため現地に行く時間が無く、担当者との電話やインターネット上で家や周囲の状況を確認して決定した。
正志は石を目の前にして、幸運だと言われても喜んでいいのか悲しんでいいのか分からなくなった。
「さて、石ですが、見たところここにあることで効果が半減しています。石の周りがぼやけているのが証拠です。分かりますか?」
片山が体をずらし、中の石を見せてくる。正志と由里子が少しだけ体を伸ばして観察した。
「言われれば、なんとなくぼやけているような……」
「そうね……」
そこで、由里子があることに気が付いた。
「ということは、この石を動かすのは」
「現状、厳しいです。少なくとも、この呪いを受けられる場所を見つけるまでは」
「そんな」
由里子が言葉にならず、正志を見上げる。正志も何も言い出せず、厳しい顔で棚を見つめるのみだ。
「ご安心ください。今のところ、石を動かさなければ大した被害は出ません。ただ、段々呪いが漏れ出してくる可能性が高いので、先ほど申し上げた通り、石の効果を抑えるものをご用意します」
「よかったです」
「石との相性もありますので、すぐにとは行きませんが、気休めに私が清めた札を置いておきます。底板に貼っても宜しいですか?」
「もちろんです。有難う御座います」
「あと、念のため手袋も新しいものを置いておきますね。万が一動かさなければならない時はお使いください。ただし、短時間であること。できれば、この棚以外のところに置かないこと。この二つを守ってください」
札を貼りながら、片山がゆっくり説明する。二人とも熱心に聞き入った。
「はい。片山さんの指示が無い限り動かしません」
立ち上がった片山が、方位磁石や鏡を取り出し、廊下をうろうろし始める。しかし、首を傾げて戻ってきた。
「今の時点では情報が足りなくて、何故ここの立地が良いのか説明できません。少々聞き込みをしたり、この地域のことを調べてみます。あ、私が宮下さんの依頼で動いていることは誰にも言いませんのでご心配無く」
「是非、よろしくお願いします」
片山がきょろきょろ見渡し、何度か頷く。
「今はいないですが、石の影響は確実に受けています。息子さんが視たのもあの女性でしょう」
「何故、石から離れている二階に?」
「真上からしたら一階も二階もたいして変わりありませんから。それに、彼女は高いところに吊るされていたようです」
「ちょ、ちょっと待ってください。その方はここで亡くなったわけではないんですよね?」
「そうですよ。恐らく、石に彼女の呪いが引き継がれたといったところでしょう。土地や物、人、様々な何かに念や呪いは引き継がれますから」
正志が一歩下がり、背中が壁に当たった。右手で頭を掻く。
「ということは、新築だと言っても、瑕疵物件ではない中古でも、安心はできないということですか」
「ということです」
「なんてことだ。それじゃあ、回避する方法は無いじゃないですか」
「はい。素人目ですと、残念ながら住むまでは」
その時、あんがケージの中で元気良く動き出した。片山がしゃがみ、あんを眺める。
「可愛いウサギですね」
「ええ、最近飼い始めたんです」
あんを褒める後ろで、正志は両手を腰に当て、大きく息を吐いた。
「ウサギが暴れたことはありますか?」
突然の問いに、由里子が目を丸くさせる。
「暴れるという程ではないですが、一度だけ足をこう、ダンッと蹴って主張してきたことはあります」
「なるほど。この子には分かったのかもしれないですね。きっとその時いたんです、彼女が」
「えっ」
あの時、美結はあんが怒ったと言っていたが、もしかしたら構ってほしいわけではなく本当に怒っていたのかもしれない。つまり、由里子は吊るされている女性と隣り合っていたかもしれないのだ。
「動物は敏感ですからね。突然騒ぎ出したらいるんだなと思ってください」
「あの、リビングには犬がいるのですが、たまに廊下に向かって吠えることがあるんです。それも……?」
「でしょう」
言いきられて由里子は眩暈がした。代わりに正志が続ける。
「ペットに対して対策した方がいいですか。敏感だから体調を崩すとかあったら心配で」
「うーん、それがですね。全く問題無さそうなんですよ。それが私にも疑問で」
片山が立ち上がり、鞄から地図を取り出す。
「方角……いや、そんなことはないな。もしかして……ちょっと失礼」
右手を前に差し出して、正志と由里子の間を通り抜ける。二人が続いて廊下に出ると、すでに片山は階段を半分下りていた。
片山は真っすぐ棚に向かい、迷いなく底板を外した。正志たちが階段の前でそれを見守る。
「うん……なるほど。一つ宜しいですか」
「はい」
「この家で、誰かが怪我をしたり、原因不明の病気になったことはありますか?」
正志が由里子を見遣る。由里子が首を振った。
「ないです。あ、息子が階段で滑って転んだことはありますけど、怪我はしませんでした。あれは単純に踏み外しただけだと思います。そのくらいだよね?」
「ええ、特に怪我や病気はありません」
「なるほどなるほど」
片山が納得したように頷いた。
「それはよかったです。このくらいの強い呪いを放つ物であれば、触らずとも住む人間に悪い影響を与えます。それこそ、申し上げたように怪我や病気、下手すると命を落としたり。しかし、貴方方は全くです。幸運と言いますか、この立地に関係しているようです」
「立地ですか」
宮下家がこの家を見つけた時、転勤のため現地に行く時間が無く、担当者との電話やインターネット上で家や周囲の状況を確認して決定した。
正志は石を目の前にして、幸運だと言われても喜んでいいのか悲しんでいいのか分からなくなった。
「さて、石ですが、見たところここにあることで効果が半減しています。石の周りがぼやけているのが証拠です。分かりますか?」
片山が体をずらし、中の石を見せてくる。正志と由里子が少しだけ体を伸ばして観察した。
「言われれば、なんとなくぼやけているような……」
「そうね……」
そこで、由里子があることに気が付いた。
「ということは、この石を動かすのは」
「現状、厳しいです。少なくとも、この呪いを受けられる場所を見つけるまでは」
「そんな」
由里子が言葉にならず、正志を見上げる。正志も何も言い出せず、厳しい顔で棚を見つめるのみだ。
「ご安心ください。今のところ、石を動かさなければ大した被害は出ません。ただ、段々呪いが漏れ出してくる可能性が高いので、先ほど申し上げた通り、石の効果を抑えるものをご用意します」
「よかったです」
「石との相性もありますので、すぐにとは行きませんが、気休めに私が清めた札を置いておきます。底板に貼っても宜しいですか?」
「もちろんです。有難う御座います」
「あと、念のため手袋も新しいものを置いておきますね。万が一動かさなければならない時はお使いください。ただし、短時間であること。できれば、この棚以外のところに置かないこと。この二つを守ってください」
札を貼りながら、片山がゆっくり説明する。二人とも熱心に聞き入った。
「はい。片山さんの指示が無い限り動かしません」
立ち上がった片山が、方位磁石や鏡を取り出し、廊下をうろうろし始める。しかし、首を傾げて戻ってきた。
「今の時点では情報が足りなくて、何故ここの立地が良いのか説明できません。少々聞き込みをしたり、この地域のことを調べてみます。あ、私が宮下さんの依頼で動いていることは誰にも言いませんのでご心配無く」
「是非、よろしくお願いします」
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