幸運な家族

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片山

鈴が見つけたもの

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 正志と由里子に見送られた片山が宮下家を出る。振り返ると、まだお辞儀をしていた。ゆっくり前に向き直り歩き出す。

 宮下家の敷地は他の家より広い。元々倉しかなく土地が有り余っていたから、管理者が適当に割り振ったのかもしれない。橋の向こう側と見比べる。

「こっちはもう家が建たないのかね。あっちみたいにするならもっと敷地を狭くして、すでに次の家を建ててるだろうし」

 橋は渡らず、宮下は山に沿って続く道を進んだ。この山には何かある。そう感じたからだ。

「そういえば、ここであの女性は亡くなってないけど、誰も亡くなってないわけじゃないんだよね。まあ今は特にいないし、言う程ではないか」

 依頼されれば動く。しかし、依頼されないものは手を付けない。善の心からでも勝手に動くと、後で面倒なことを言われることがある。依頼主にその分を請求できなくなる場合もある。そのため、常にそのスタンスでやってきた。

「はぁ~、結構な山だ」

 てっきり小さい山とばかり思って眺めていたが、歩いても歩いても見える山の風景があまり変わらず感嘆する。

「おっと、ここか」

 目的の場所を見つけ、そのまま石段を上った。

 鳥居の前で立ち止まる。袴の男が鳥居の奥でこちらを見つめていた。

「おっと」

 片山が空を見上げて黙り込む。やがてまた前に目を向けるが、男は微動だにせず立ったままだ。

「どうしたもんかな」

 負の感情が溢れているものの、こちらに対する敵意は感じない。悩んだ末、片山は鳥居の手前から廃神社を眺めるに留まった。

『オ゛、オ゛ォォ……』
「…………」

──何か話そうとしている。力のある神主だったんだな。しかも最近死んでる。

 神主がすぐ目の前まで近づいてくるが、片山は話しかけず、全く視えていない素振りで境内を観察して神社を後にした。下りたところでスマートフォンが震える。画面には宮下のと表示されている。

「はい、片山です」
『宮下です。先ほどは有難う御座いました』
「どうかしましたか?」

『実はお見せしようと思っていた写真があったのですが、忘れていて。メールに添付してお送りして宜しいですか? 何か関係があるかもしれないので』

「分かりました。確認するので送ってください」

 通話を終わらせ、石段の上を見つめる。神主はいない。ここまでは追ってこないらしい。

 すぐにメールが送られてきた。添付ファイルを開くと、穴の中にごろごろ転がる地蔵の写真だった。口元を少しだけ歪める。

「おーおー趣味が悪い。誰がやったんだ?」

 本文には「山の中にある洞穴の写真です」とある。つまり、片山が背にしているこの山ということだ。

「明らかに人間の仕業。怪異はこんなことしないからな」

 拡大しても、地蔵以外何も無い。

「意図して地蔵を処分した。遠ざけたい何かがあったか、単純にいらなくなったか。地蔵に枕元立たれるぞ、罰当たりな」

 写真の段階では何を意味しているのか分からないものの、元々これらがあった場所は検討がついていた。

「ま、この神社にあったんだろうな」

 境内に入って詳しく調べたわけではないが、あちこちが何者かによって掘り起こされていたのを確認している。

「大方、神社を管理する人がいなくなって、何らかの事情で取り壊し決定。地蔵の処分に困ってここに……ってところか」

 ただ、見たところ取り壊しは途中で中止になっているらしい。しかもあの様子だと、ここ最近のことではない。

「倉の後に家が建ったのが一年前とすると、神主が死んだのはその前。工事は数か月から一年くらい進展無し、と。関係、ありそうだね」


 十分程して、宮下家の近くにある橋に差し掛かった。片山は山の中は広く散策することを一旦諦め、橋を渡る。ここから先はどこにでもある田舎の風景だ。サングラスを外し、代わりに鞄から黒縁眼鏡を取り出して掛けた。

「鈴ちゃん、よろしく頼みますよ」

 鳴らない鈴を鞄のストラップ部分に括り付け、歩いていく。片山自身、異変に敏感だという自負はあるが、全てのものに反応できるわけではない。そういう時、一人で行動する片山の相棒役になってくれるのがこの鈴だ。

 通行人の少ない道を十分歩けば自然と欠伸が出てきた。想像していたが、それ以上に人がいない。

 今まで一人しかすれ違っておらず、何か聞き出そうにも「ケンちゃんようふとったねぇ」と誰かと勘違いされて終わってしまった。

「どうすっかな」

 依頼を受けて報酬をもらうのだから、きちんと調査をしなければならない。さらに言えば、解決しなければならない。

──まあ、解決できるものだったら、だけど。

 単純な話ではないことはすでに理解していた。ただの呪いの石が家に悪さをしている、そうであればどんなによかったことか。しかし、乗りかかった船だ。すでに契約も済ませている。片山はなかなか出会わない案件に、背筋を伸ばし歩く速度を速めた。

 ちりん。

 小さな音が片山の耳を掠めた。遠くから誰かが歩いてくる。この距離では、まだ片山のアンテナには引っかからなかった。

──鈴ちゃん、ナイス。
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