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片山
町民が隠しているのは
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内心笑いながら、距離を縮めていく。来たのは年配の女性で、右手に巾着袋が握られていた。
──あれからか。
「すみません」あと数メートルというところで、片山が女性を呼び止めた。
「はい?」女性は不愛想に答えた。
愛想笑いを浮かべ、スマートフォンの黒い画面を見せる。
「スマホの充電が切れて時間が分からなくなっちゃって。今、何時か分かりますか?」
「ああ、分かりますよ」
右手首にはめられている腕時計で確認する。腕を上げたことで、巾着袋が左右に揺れた。薄い水色を泳ぐ赤い金魚模様は、随分可愛らしい印象だ。
「十四時五十分です」
「有難う御座います。可愛らしい巾着ですね」
「え? ああ。ちょっと急ぎますき」
「お手間取らせてすいません」
そそくさ去っていく様は、まるで何かから逃げる犯人のようだった。女性が通り過ぎる瞬間、鈴が何度も鳴った。
片山が振り返り、女性の行く先を見守る。すぐ近くの家のインターフォンを鳴らしていた。女性がちらりとこちらを気にしたため、顔を戻して歩き出す。後ろから「田中です」という声がしたかと思うと、その家のドアが開く音がした。
片山が鏡を持ち、さり気なく自分の体からずらして後ろを映す。田中と名乗った女性がその家の女性に巾着袋を渡していた。
──なんであんなものを。分かって渡してるのか?
せっかく情報を集めようと歩き回っていたのに、謎が増えてしまった。しかし、石と巾着袋、人間が手にしてはいけないものがこのような小さな町に二つも存在すること自体おかしなことだ。きっと何かある。片山は不敵に笑った。
「まずは、石がどこから宮下家に来たのかだ」
インターネットである程度のことは調べてきた。あの廃神社が三森神社、倉の表札も三森というところまでは分かっている。この町内に三森という名字が多いというわけでなければ、神社が倉を管理していたと考えていいだろう。
「ああ……そうか」
神社が管理しているとしたら、何故、倉を神社とは離れた場所に作ったのかずっと疑問だった。それを今、片山はようやく理解した。ヒントは宮下家で掴んでいた。
「あの場所じゃないといけなかったんだ」
「ん~……なるほど」
町内には無かったが、市内で市立図書館を見つけた片山は利用登録の注意事項を熟読していた。貸出ができるようになるには利用登録が必要であり、市内に住んでいるか通勤、通学していることが前提だという。
ただし、館内の利用は誰でも可能と書かれていたので、遠慮なく中に入る。
館内は平日午後ということで閑散としていた。二十歳前後の男性が一人、年配の男性が一人いるだけだった。
一人だけの受付を素通りし、天井から吊るされているカテゴリーの看板を見て回る。
「なんだろう、歴史? 地元について書かれたものだから、郷土か?」
いまいち場所が分からず彷徨い歩く。すると、入口の方でがやがや音が騒ぎ出した。
「やっべ」
時間を見ると十五時を過ぎていて、どうやら地元の小学生たちが入ってきたらしい。たいした調べものもできず、早足で図書館を後にする。
「危ない。子どもって誰彼構わず話しかけたりするから」
かといって、このまま帰るには往復の時間を考えるともったいない。片山はスマートフォンをタップし、宮下家にメールを送った。
『地元の図書館などで、三森神社について調べてみてください』
「よし、これでいい」
車を走らせ、再度宮下家の近くまで戻って駐車した。外に出た片山は、真っすぐある家を目指す。田中と名乗った女性が訪ねたあの家だ。
表札には小松と書かれている。
ピンポン。
インターフォンを押すと、通話ボタンが押されることなく玄関が開けられた。
「はいはい、どなた?」
見慣れぬ人間に、小松が片山のことをじろじろと観察しながら言った。片山がにっこりと笑みを携えて答える。
「突然すみません。ちょっと点検作業で伺ったのです。巾着の件で困ったことはないかと思いまして」
小松の片眉がぴくりと動いた。
「ああ、あれはね。大丈夫です。ちゃんと言われた通りしちゅうき。けんど、いつ終わりが来るんか分からんのがねぇ」
明らかに嫌悪しているのが分かる表情ながら、小松が早口で説明をした。片山がそれを聞き何度も頷く。
「そうですかそうですか、なら安心です。でも不安ですよね、手元に置いておくのは。私どもの方で巾着を預かれないか、今度聞いてみますので」
「頼みますよ」
丁寧にお辞儀をして小松と別れた。車に戻る道のりでも、誰ともすれ違わなかった。
運転席に乗り込み、メールチェックをすると宮下家から了承の返信が届いていた。
「なるほど、あれは誰かに言われて回されているんだ。しかも、中身がどういうものか理解している。それなのに断れない状況下にある、と」
鞄古めかしい革の手帳を取り出し、思いついたことをメモしていく。段々輪郭を帯びてきた謎に、片山は深い息を吐いた。
「一見、雰囲気は全然閉ざされた町って感じじゃないのに、人がどうにもきな臭いんだよねぇ。誰かが先導している。何かの為に、何かを隠したい、とか?」
いったい何を何重にも包んで懐に仕舞っているのだろう。
「うう~ん……あれに話しかけ、いや、一旦帰って宮下さんの連絡を待とう。あれを貼っておけば数週間は持つはず」
──あれからか。
「すみません」あと数メートルというところで、片山が女性を呼び止めた。
「はい?」女性は不愛想に答えた。
愛想笑いを浮かべ、スマートフォンの黒い画面を見せる。
「スマホの充電が切れて時間が分からなくなっちゃって。今、何時か分かりますか?」
「ああ、分かりますよ」
右手首にはめられている腕時計で確認する。腕を上げたことで、巾着袋が左右に揺れた。薄い水色を泳ぐ赤い金魚模様は、随分可愛らしい印象だ。
「十四時五十分です」
「有難う御座います。可愛らしい巾着ですね」
「え? ああ。ちょっと急ぎますき」
「お手間取らせてすいません」
そそくさ去っていく様は、まるで何かから逃げる犯人のようだった。女性が通り過ぎる瞬間、鈴が何度も鳴った。
片山が振り返り、女性の行く先を見守る。すぐ近くの家のインターフォンを鳴らしていた。女性がちらりとこちらを気にしたため、顔を戻して歩き出す。後ろから「田中です」という声がしたかと思うと、その家のドアが開く音がした。
片山が鏡を持ち、さり気なく自分の体からずらして後ろを映す。田中と名乗った女性がその家の女性に巾着袋を渡していた。
──なんであんなものを。分かって渡してるのか?
せっかく情報を集めようと歩き回っていたのに、謎が増えてしまった。しかし、石と巾着袋、人間が手にしてはいけないものがこのような小さな町に二つも存在すること自体おかしなことだ。きっと何かある。片山は不敵に笑った。
「まずは、石がどこから宮下家に来たのかだ」
インターネットである程度のことは調べてきた。あの廃神社が三森神社、倉の表札も三森というところまでは分かっている。この町内に三森という名字が多いというわけでなければ、神社が倉を管理していたと考えていいだろう。
「ああ……そうか」
神社が管理しているとしたら、何故、倉を神社とは離れた場所に作ったのかずっと疑問だった。それを今、片山はようやく理解した。ヒントは宮下家で掴んでいた。
「あの場所じゃないといけなかったんだ」
「ん~……なるほど」
町内には無かったが、市内で市立図書館を見つけた片山は利用登録の注意事項を熟読していた。貸出ができるようになるには利用登録が必要であり、市内に住んでいるか通勤、通学していることが前提だという。
ただし、館内の利用は誰でも可能と書かれていたので、遠慮なく中に入る。
館内は平日午後ということで閑散としていた。二十歳前後の男性が一人、年配の男性が一人いるだけだった。
一人だけの受付を素通りし、天井から吊るされているカテゴリーの看板を見て回る。
「なんだろう、歴史? 地元について書かれたものだから、郷土か?」
いまいち場所が分からず彷徨い歩く。すると、入口の方でがやがや音が騒ぎ出した。
「やっべ」
時間を見ると十五時を過ぎていて、どうやら地元の小学生たちが入ってきたらしい。たいした調べものもできず、早足で図書館を後にする。
「危ない。子どもって誰彼構わず話しかけたりするから」
かといって、このまま帰るには往復の時間を考えるともったいない。片山はスマートフォンをタップし、宮下家にメールを送った。
『地元の図書館などで、三森神社について調べてみてください』
「よし、これでいい」
車を走らせ、再度宮下家の近くまで戻って駐車した。外に出た片山は、真っすぐある家を目指す。田中と名乗った女性が訪ねたあの家だ。
表札には小松と書かれている。
ピンポン。
インターフォンを押すと、通話ボタンが押されることなく玄関が開けられた。
「はいはい、どなた?」
見慣れぬ人間に、小松が片山のことをじろじろと観察しながら言った。片山がにっこりと笑みを携えて答える。
「突然すみません。ちょっと点検作業で伺ったのです。巾着の件で困ったことはないかと思いまして」
小松の片眉がぴくりと動いた。
「ああ、あれはね。大丈夫です。ちゃんと言われた通りしちゅうき。けんど、いつ終わりが来るんか分からんのがねぇ」
明らかに嫌悪しているのが分かる表情ながら、小松が早口で説明をした。片山がそれを聞き何度も頷く。
「そうですかそうですか、なら安心です。でも不安ですよね、手元に置いておくのは。私どもの方で巾着を預かれないか、今度聞いてみますので」
「頼みますよ」
丁寧にお辞儀をして小松と別れた。車に戻る道のりでも、誰ともすれ違わなかった。
運転席に乗り込み、メールチェックをすると宮下家から了承の返信が届いていた。
「なるほど、あれは誰かに言われて回されているんだ。しかも、中身がどういうものか理解している。それなのに断れない状況下にある、と」
鞄古めかしい革の手帳を取り出し、思いついたことをメモしていく。段々輪郭を帯びてきた謎に、片山は深い息を吐いた。
「一見、雰囲気は全然閉ざされた町って感じじゃないのに、人がどうにもきな臭いんだよねぇ。誰かが先導している。何かの為に、何かを隠したい、とか?」
いったい何を何重にも包んで懐に仕舞っているのだろう。
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