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片山
幸せな家族
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「ただいま!」
正章の元気な声が家中に響いた。由里子が目を丸くさせた後、正章を穏やかに出迎える。
「おかえり。どう?」
言われた正章はくんくん鼻を動かして廊下を歩き回った。その後、そっと薄目で天井を見上げる。
「匂いはちょっとだけするけど、足は視えないよ」
「あらッよかったね。よく効くお札を貼ってもらったの。ママが買ったのも正しい場所に貼り直したし、これでしばらくは大丈夫ね」
「しばらく? これで終わりじゃないの?」
せっかくの平穏が永遠ではないことを知り、正章が肩を落とす。
「かなり複雑みたいですぐにとはいかないけど、とても信頼できる人にお願いできたから、いずれは完全に良くなるわ。もう少し待ってて」
「うん。朝よりずっと良くなってるし、待てるよ。ありがと」
リビングできなこに報告する正章を見て、ようやく効果を実感した。元々、息子の笑顔の為だった。それが、石を発見したことでどうにももやもやした気分が拭えずにいたが、久々に本音の笑顔に出会え、由里子も石の謎と向き合う覚悟ができた。
「美結は?」
「宿題半分やって二階行っちゃった。明日部屋であんちゃんをお部屋でお散歩させるから準備するんだって」
「ふうん」
手洗いを終え、きなこをケージから出す。尻尾を激しく振って正章に抱き着くので、正章が声を上げて笑い出した。
──きなこの機嫌も良さそう。これで上手くいけばいいけど。
先ほど片山から着たメールを思い出す。スマートフォンで調べたところ、日曜日以外は開館しているらしかった。
「正章、明日図書館行くけど一緒に行く?」
「ううん、いい」
「そう」
由里子は二階に上がった。美結の部屋をノックして中に入る。美結が部屋を掃除していた。
「あらっえらい」
「でしょ。あんちゃんが転んだら大変だもん」
散らかっていた物を全て学習机の上に置いているため、そこだけこんもりと山が出来上がっている。
「ウサギってジャンプするから、ベッドから机の上に上っちゃうかもよ」
「は……ッ」
美結が大きな口を開けて固まった。慌てて山盛りの教科書やおもちゃを片付け出す。そんな飼い主をよそに、あんは牧草を頬張っていた。
あんは基本的に大人しい。掃除機をかけても暴れたりはしない。先日の足ダンは結局不明だが、これからは彼女にストレスが溜まらなければいいと思う。
「あのね、ママ。今日の夜からお部屋に出してもいい?」
「うん、いいよ。あんちゃんもすっかり慣れたみたいだし」
そう言うと、美結が飛び上がって喜んだ。
「ね、明日図書館に行く予定だけど、美結も行く?」
「え~どうしようかな」
ちらちらあんを見遣る。由里子が提案した。
「じゃあ、午前中はあんちゃんと遊んで、午後行くのは? 隣町にあるけど、そこまで遠くないし」
「じゃあ、そうする。美結ねぇ、読みたい本があるの」
美結がケージにすり寄りながら言った。由里子もしゃがんで、ケージからはみ出している毛を撫でる。
「あるといいね。利用登録すれば借りてここで読めるよ」
「する」
「そうだ。夜、あんちゃんを出してもいいけど、それまでに宿題終わらせちゃってね」
「今やろうとしたところなの!」
由里子に言われて、美結が少し片付いた学習机に飛びついた。手を振られ、由里子が退散する。
「美結は相変わらずで安心ね」
階段を下りているところでふと立ち止まる。口元に手を当て由里子が振り返った。
「大変。神主さんのことを伝えるのを忘れていたわ……。でも、お札をもらったし、あれから出ていないから平気かしら。きっと、石のことを教えようとしてくれていたのね」
神主の霊には沢山の恐怖を与えられたが、こうして原因が分かれば彼の熱心さに感心する。死してなお己の使命を全うする姿に、由里子は尊敬に似た念を覚えた。
由里子が階段を下りても、廊下を通っても、夕食を作っても何も起きなかった。正章は始終上機嫌で、今日がまるで引っ越し初日であった。
「きなこ、お散歩行きたいって」
窓を見ながら尻尾を振るきなこの代弁をする正章に由里子が首を振る。
「もう十八時近いよ。暗くなってるから明日ね。それに、今朝お散歩したから」
「なんだ。きなこ、もう今日はしたんだって?」
「くぅん」
「きなこはまだ小さいから分からないか。明日一緒に行こう」
小さくて、丸くて暖かいきなこを抱きしめて正章が提案した。
正章の元気な声が家中に響いた。由里子が目を丸くさせた後、正章を穏やかに出迎える。
「おかえり。どう?」
言われた正章はくんくん鼻を動かして廊下を歩き回った。その後、そっと薄目で天井を見上げる。
「匂いはちょっとだけするけど、足は視えないよ」
「あらッよかったね。よく効くお札を貼ってもらったの。ママが買ったのも正しい場所に貼り直したし、これでしばらくは大丈夫ね」
「しばらく? これで終わりじゃないの?」
せっかくの平穏が永遠ではないことを知り、正章が肩を落とす。
「かなり複雑みたいですぐにとはいかないけど、とても信頼できる人にお願いできたから、いずれは完全に良くなるわ。もう少し待ってて」
「うん。朝よりずっと良くなってるし、待てるよ。ありがと」
リビングできなこに報告する正章を見て、ようやく効果を実感した。元々、息子の笑顔の為だった。それが、石を発見したことでどうにももやもやした気分が拭えずにいたが、久々に本音の笑顔に出会え、由里子も石の謎と向き合う覚悟ができた。
「美結は?」
「宿題半分やって二階行っちゃった。明日部屋であんちゃんをお部屋でお散歩させるから準備するんだって」
「ふうん」
手洗いを終え、きなこをケージから出す。尻尾を激しく振って正章に抱き着くので、正章が声を上げて笑い出した。
──きなこの機嫌も良さそう。これで上手くいけばいいけど。
先ほど片山から着たメールを思い出す。スマートフォンで調べたところ、日曜日以外は開館しているらしかった。
「正章、明日図書館行くけど一緒に行く?」
「ううん、いい」
「そう」
由里子は二階に上がった。美結の部屋をノックして中に入る。美結が部屋を掃除していた。
「あらっえらい」
「でしょ。あんちゃんが転んだら大変だもん」
散らかっていた物を全て学習机の上に置いているため、そこだけこんもりと山が出来上がっている。
「ウサギってジャンプするから、ベッドから机の上に上っちゃうかもよ」
「は……ッ」
美結が大きな口を開けて固まった。慌てて山盛りの教科書やおもちゃを片付け出す。そんな飼い主をよそに、あんは牧草を頬張っていた。
あんは基本的に大人しい。掃除機をかけても暴れたりはしない。先日の足ダンは結局不明だが、これからは彼女にストレスが溜まらなければいいと思う。
「あのね、ママ。今日の夜からお部屋に出してもいい?」
「うん、いいよ。あんちゃんもすっかり慣れたみたいだし」
そう言うと、美結が飛び上がって喜んだ。
「ね、明日図書館に行く予定だけど、美結も行く?」
「え~どうしようかな」
ちらちらあんを見遣る。由里子が提案した。
「じゃあ、午前中はあんちゃんと遊んで、午後行くのは? 隣町にあるけど、そこまで遠くないし」
「じゃあ、そうする。美結ねぇ、読みたい本があるの」
美結がケージにすり寄りながら言った。由里子もしゃがんで、ケージからはみ出している毛を撫でる。
「あるといいね。利用登録すれば借りてここで読めるよ」
「する」
「そうだ。夜、あんちゃんを出してもいいけど、それまでに宿題終わらせちゃってね」
「今やろうとしたところなの!」
由里子に言われて、美結が少し片付いた学習机に飛びついた。手を振られ、由里子が退散する。
「美結は相変わらずで安心ね」
階段を下りているところでふと立ち止まる。口元に手を当て由里子が振り返った。
「大変。神主さんのことを伝えるのを忘れていたわ……。でも、お札をもらったし、あれから出ていないから平気かしら。きっと、石のことを教えようとしてくれていたのね」
神主の霊には沢山の恐怖を与えられたが、こうして原因が分かれば彼の熱心さに感心する。死してなお己の使命を全うする姿に、由里子は尊敬に似た念を覚えた。
由里子が階段を下りても、廊下を通っても、夕食を作っても何も起きなかった。正章は始終上機嫌で、今日がまるで引っ越し初日であった。
「きなこ、お散歩行きたいって」
窓を見ながら尻尾を振るきなこの代弁をする正章に由里子が首を振る。
「もう十八時近いよ。暗くなってるから明日ね。それに、今朝お散歩したから」
「なんだ。きなこ、もう今日はしたんだって?」
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