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片山
身守神社
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──この人、三森ってことはあの三森神社の神主さんよね……。
庭で数度出くわした神主が頭を過る。彼は自身の神社で亡くなったという。
由里子は記事が書かれたページをコピーすることにした。新聞の場合、報道等の著作権が無いものであれば自由にコピーできると教えられた。これなら問題無いだろう。
受付に戻り、該当ページのコピーを依頼する。料金をその場で支払い、すぐにコピーされたものを渡された。
その記事の欄外に、五月七日四衣山工事開始とメモしておく。由里子は固まった腕を軽く回し、美結の待つ読書コーナーに向かった。
「おまたせ、良い本あった?」
「うん。これ」
見せられたのは動物のイラスト集だった。表紙から想像するに、子ども向けの可愛らしいものというよりは、大人向けの本格的なものだろう。
「面白い?」
「うん。動物の描き方とか、骨格がどうなってるとかすごい詳しいんだよ。美結もあんちゃんの絵描きたいから勉強したいの」
「それは良いね」
小学四年生といっても、もう自由に動物を描いて素直に喜ぶ年齢ではないのかもしれない。娘の成長に驚かされつつ、横に座り、由里子も目的の本を読み始めた。
「ねぇ、そろそろ帰ろ? あんちゃんが寂しくて泣いてるかも」
「そっか。美結はここでずっと待っててくれてたものね」
ほんの数分で読書タイムは終わりを迎えた。二人は立ち上がり、合わせて三冊をそれぞれのカードで借りた。
「返却期限は二週間です」
「分かりました」
期限が書かれた紙を渡され、持ってきたエコバッグに諸々入れて図書館を後にする。
「初めての図書館はどうだった?」
「なんかね、図書室より沢山本があって楽しかった。また行こうね」
「うん、行こう」
学校の図書室は対象年齢が小学生の本をメインで置いているうえ、場所が限られているので選択されなかった本は本屋で購入するか図書館に行かないと出会えない。
小学生らしく勉強を好ましく思わない美結だが、読書は積極的にしているので、これからも図書館に通おうと思った。
帰りも数十分歩き、帰宅した由里子はソファに倒れ込んでしまった。美結は自分の二冊を手に取り、元気にあんの元へ走っていった。
「慣れないことするとすぐ疲れちゃう。もうちょっとガーデニングの他に趣味見つけようかしら」
エコバッグを開けられないままテレビのリモコンに手を伸ばすと、リビングのドアが開いた。
「おかえり。疲れた?」
「ちょっとね。次は自転車にする」
「そうだね。本は借りられた?」
「うん、エコバッグの中に入ってる」
由里子の代わりに正志がエコバッグから本を取り出した。横に座り、本を開く。
「なになに、五町の歴史。五町ってなんだ?」
「多分、町の名前を合わせてだと思う。ここが三江木でしょ? 隣が二ヶ蜂で、後ろの山が四衣山。全部数字が入っているの。まだ読めてないけど、他にも一と五が出てくると思うわ」
「へぇ、全然知らなかった」
「私も」
由里子が本に顔を近づける。目次に一通り目を通し、四衣山と書かれた項目を指差す。
「これじゃない?」
「そうだね」
ぺらぺら捲り、太字で四衣山の文字が見えたところで手が止まる。
四衣山の成り立ちから始まり、読み進めていくと、三森神社の文字を見つけた。由里子が首を傾げる。身守神社(現在の三森神社)と書かれていたからだ。
「ねぇ、今と漢字が違うのね」
「あ、続きが書いてあるよ」
『三森神社は元々身守神社と呼ばれていたものが変化したものである。住民の身を守るために神社を犠牲にするところから名付けられたと推測される』
二人が顔を見合わせて無言になる。
「…………」
正志が頭を掻きつつ、次のページに移った。
四衣山の項目を読み終え、由里子が三森神社の方角を見つめる。
「ねぇ、三森神社って、江戸時代後期に出来たって書いてあったわね」
「うん」
言い淀んだ由里子だが、正志は黙って続きを待った。
「その……片山さんは、石の女性は江戸時代後期に亡くなったって言ってたから……」
ソファから立ち、リビングのドアの前で止まる。その先を見つめながら由里子が言った。
「石がどこかから持ち込まれたんじゃなくて、元々倉にあったものだと仮定すると、順序が逆だったんじゃないかしら」
「何の順序?」
「事情があって石が来て、それを見張るために神社が出来た、とか」
正志が瞠目する。遠くから美結の嬉しそうな声がした。
「三森神社は、石から住民を守るために出来たから「身守」ってことか……確かに矛盾はしていない」
「名字は江戸時代なら持ってない人もいたんでしょう? それなら、そういう力がある人を連れてきて三森と名乗り始めたと考えてもおかしくないわ」
正志が俯き、両手で頭を抱える。
「……とりあえず、このページを撮ってメールで送ろう」
「あ、新聞もコピーしてもらったの。三森神社の神主さんが亡くなった記事なんだけど」
「じゃあ、それも」
スマートフォンで撮影し、まとめて添付して片山に送信した。
「これで、あとは片山さんが調べてくれるよ。由里子ちゃんはもう気にしないで。お札の効果も出てるんだろ?」
「うん。正章も落ち着いてるし、これで上手くいくといいけど」
「片山さんに任せよう」
正志が由里子の肩に手を置き、優しく微笑んだ。
庭で数度出くわした神主が頭を過る。彼は自身の神社で亡くなったという。
由里子は記事が書かれたページをコピーすることにした。新聞の場合、報道等の著作権が無いものであれば自由にコピーできると教えられた。これなら問題無いだろう。
受付に戻り、該当ページのコピーを依頼する。料金をその場で支払い、すぐにコピーされたものを渡された。
その記事の欄外に、五月七日四衣山工事開始とメモしておく。由里子は固まった腕を軽く回し、美結の待つ読書コーナーに向かった。
「おまたせ、良い本あった?」
「うん。これ」
見せられたのは動物のイラスト集だった。表紙から想像するに、子ども向けの可愛らしいものというよりは、大人向けの本格的なものだろう。
「面白い?」
「うん。動物の描き方とか、骨格がどうなってるとかすごい詳しいんだよ。美結もあんちゃんの絵描きたいから勉強したいの」
「それは良いね」
小学四年生といっても、もう自由に動物を描いて素直に喜ぶ年齢ではないのかもしれない。娘の成長に驚かされつつ、横に座り、由里子も目的の本を読み始めた。
「ねぇ、そろそろ帰ろ? あんちゃんが寂しくて泣いてるかも」
「そっか。美結はここでずっと待っててくれてたものね」
ほんの数分で読書タイムは終わりを迎えた。二人は立ち上がり、合わせて三冊をそれぞれのカードで借りた。
「返却期限は二週間です」
「分かりました」
期限が書かれた紙を渡され、持ってきたエコバッグに諸々入れて図書館を後にする。
「初めての図書館はどうだった?」
「なんかね、図書室より沢山本があって楽しかった。また行こうね」
「うん、行こう」
学校の図書室は対象年齢が小学生の本をメインで置いているうえ、場所が限られているので選択されなかった本は本屋で購入するか図書館に行かないと出会えない。
小学生らしく勉強を好ましく思わない美結だが、読書は積極的にしているので、これからも図書館に通おうと思った。
帰りも数十分歩き、帰宅した由里子はソファに倒れ込んでしまった。美結は自分の二冊を手に取り、元気にあんの元へ走っていった。
「慣れないことするとすぐ疲れちゃう。もうちょっとガーデニングの他に趣味見つけようかしら」
エコバッグを開けられないままテレビのリモコンに手を伸ばすと、リビングのドアが開いた。
「おかえり。疲れた?」
「ちょっとね。次は自転車にする」
「そうだね。本は借りられた?」
「うん、エコバッグの中に入ってる」
由里子の代わりに正志がエコバッグから本を取り出した。横に座り、本を開く。
「なになに、五町の歴史。五町ってなんだ?」
「多分、町の名前を合わせてだと思う。ここが三江木でしょ? 隣が二ヶ蜂で、後ろの山が四衣山。全部数字が入っているの。まだ読めてないけど、他にも一と五が出てくると思うわ」
「へぇ、全然知らなかった」
「私も」
由里子が本に顔を近づける。目次に一通り目を通し、四衣山と書かれた項目を指差す。
「これじゃない?」
「そうだね」
ぺらぺら捲り、太字で四衣山の文字が見えたところで手が止まる。
四衣山の成り立ちから始まり、読み進めていくと、三森神社の文字を見つけた。由里子が首を傾げる。身守神社(現在の三森神社)と書かれていたからだ。
「ねぇ、今と漢字が違うのね」
「あ、続きが書いてあるよ」
『三森神社は元々身守神社と呼ばれていたものが変化したものである。住民の身を守るために神社を犠牲にするところから名付けられたと推測される』
二人が顔を見合わせて無言になる。
「…………」
正志が頭を掻きつつ、次のページに移った。
四衣山の項目を読み終え、由里子が三森神社の方角を見つめる。
「ねぇ、三森神社って、江戸時代後期に出来たって書いてあったわね」
「うん」
言い淀んだ由里子だが、正志は黙って続きを待った。
「その……片山さんは、石の女性は江戸時代後期に亡くなったって言ってたから……」
ソファから立ち、リビングのドアの前で止まる。その先を見つめながら由里子が言った。
「石がどこかから持ち込まれたんじゃなくて、元々倉にあったものだと仮定すると、順序が逆だったんじゃないかしら」
「何の順序?」
「事情があって石が来て、それを見張るために神社が出来た、とか」
正志が瞠目する。遠くから美結の嬉しそうな声がした。
「三森神社は、石から住民を守るために出来たから「身守」ってことか……確かに矛盾はしていない」
「名字は江戸時代なら持ってない人もいたんでしょう? それなら、そういう力がある人を連れてきて三森と名乗り始めたと考えてもおかしくないわ」
正志が俯き、両手で頭を抱える。
「……とりあえず、このページを撮ってメールで送ろう」
「あ、新聞もコピーしてもらったの。三森神社の神主さんが亡くなった記事なんだけど」
「じゃあ、それも」
スマートフォンで撮影し、まとめて添付して片山に送信した。
「これで、あとは片山さんが調べてくれるよ。由里子ちゃんはもう気にしないで。お札の効果も出てるんだろ?」
「うん。正章も落ち着いてるし、これで上手くいくといいけど」
「片山さんに任せよう」
正志が由里子の肩に手を置き、優しく微笑んだ。
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