幸運な家族

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片山

神主の言葉

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「お、着た着た」

 予想より早く三森神社に関する情報がメールで送られてきて、片山が声を上げて喜んだ。このような地元でしか手に入りにくい情報は貴重だ。インターネット上では拾いきれない上、どこまで正しいのか判断が付かない。

 パソコンの画面に画像を表示させ、丁寧に読み込んでいく。新聞の記事もあったのはもうけものだ。

「なるほど……」

 画面を睨みつけていた片山が納得したように呟いた。

「おかしいと思ったんだよね」

 廃神社を見た時、違和感で溢れていた。

 管理することができなくなり、取り壊すことはゼロではない。しかし、焦りを感じる雑な工事、さらに途中で不自然に中止されている。ここには何かあると言っているようなものだ。

「神主が亡くなったのが四月、工事開始が五月? いくら何でも急すぎる。町民にはいらないものを神主が持っていたから、それ来たと動き出したか……でも、工事は中断」

「ううん」片山が目を瞑って唸る。

 メール画面を開き、宮下に数日調べて連絡をする旨を伝える。

 例の家を調べた時、棚の部分だけが異常に霊気を帯びていた。鈴の鳴り方も尋常ではなかった。

 片山はスマートフォンの写真フォルダを開いた。そこには昨日撮った宮下宅の写真が収められている。外観、玄関、棚と順に見ていくが、何度確認しても棚の周りだけぼやけているのが見てとれた。

「ここだけが石の力を鎮めてくれるって気付いたんだろうな。恐らく、三森神社の最初の神主が」

 どこから石が持ち込まれたのか、今となっては調べる術が無い。しかしながら、状況を見る限り、石が元々ここにあったわけではないことは分かる。

 やはり、石の呪いを知った者の手がこの地に助けを求め、三森神社と、石を保管する倉を作ったのだ。

 それだけ石の力は強いということだ。ただ、倉があった頃は何も問題無く石が存在したわけで、それを探し出せば宮下家を救う手立てとなる。

 一つ懸念材料となるのは、神主がもういないというところだ。三森の名を持つ者たちには本物の力があり、それをもってして石を抑え込んでいたに違いない。

「とりあえず、神主がいないにしても、いた頃の状況に戻すことができれば最悪の状況は回避できる。それを探し出すのが最善だな」

 片山が腕組みをして、ぐるぐる部屋を歩き回る。鞄に取り付けてある鈴を振り、カレンダーの日付に人差し指を当てた。

「ちょっと調べてみて無理だったら、気が向かないけど最終手段を試すしかないか。それまでに町の中でヒントになるようなことが起きてくれたらいいんだけど」

 身支度を整え、帽子を目深に被る。今日の服装はツナギ姿で、先日のラフな私服姿とは違い、業者のような恰好だ。

「ええと、昨日札を貼ったから、次は一週間から十日後……この辺だな」

 カレンダーの十月二十八日に赤色のマジックでぐるぐる丸を描く。日付の右下には大安と書かれていた。

「さてと、行きますか」

 片山は車に乗り込み、三江木に向かった。

 三江木までは車で四十分とそこそこの距離はあるものの、県外の仕事も多い片山にとって楽な部類に入る。

 古い洋楽を流しながら、鼻歌混じりにハンドルを操作した。


 きっちり四十分して三江木に着いた片山は、四衣山の宮下家とは反対側に位置するところに停車させた。家も神社も見えないここは殺風景で、手入れもされていないため草が生え放題だった。

「うわッ虫よけスプレー付けてんのに」

 草の上を大げさに足を上げて歩き、砂利道に逃げる。そのまま山沿いに歩いていき、獣道のような小さな隙間を見つけ、山に入った。

 山の中は静かで、野生動物が横切る様子も無い。時折聞こえてくる鳥の声が、ここが現実なのだと教えてくれる。

「何の変哲もない山だ」

 鈴も未だ一度も鳴っていない。どうやら、山ではなく、本当にあそこだけが特別らしい。

「地蔵様はどこかね~」

 歩いても歩いても退屈な道が続く。これは持久戦になりそうだ。片山が大きなため息を吐いた。

「お……っと」

 目の前を何かが横切ったと思ったら鳥だった。上に上げた両手をぱっと下ろす。鳥が来た方向を見遣ると洞穴があった。

「あれか」

 鈴は全く鳴っていない。近づいて覗き込むと、送られてきた画像と同じものが転がっていた。

「罰当たりな業者め。まあ、何も憑いてないから、これで不幸にはなっていないだろうけど」

 すぐに観察を止めて歩き出す。少しすると、宮下宅の屋根が見えた。

 りん……。

 右を向くと林の中に神主が立っていた。

──あら~……気付かれたくないなぁ。

 壊れたロボットより遅く顔を前に戻す。片山はそこから動けなくなってしまった。仕方なく、神主の動向を横目で観察する。

 十中八九、この男が三森勝彦だ。彼が生きてさえいれば、全ては始まらなかったのに。彼がこの世を去ってから、神社は取り壊しが決まり、先だって倉が無くなり家が建った。しかし、石だけは動かせずその場に留まった。

──住民に知らせたくないから、棚で隠した。わざわざ隠すなら、最初から家を建てなきゃいいのに。再開発とかかねぇ。

 はたして、倉には石以外に何があったのだろう。まさに横にいる当人に尋ねれば答えが手に入る可能性はあるが、意思疎通ができなければ憑りつかれ、本来必要の無い仕事が増えてしまう。すでに厄介な案件を抱えているため、これ以上の労力は避けたいところだ。

「…………ふぅ」

 神社で出くわした時は何かを訴えていた。微かな望みを胸に、片山は耳を傾け続けた。

 鈴はずっと鳴っている。思わずそれを握りしめたが、鞄に仕舞うことはできず不格好な形で腕が曲がったまま固まるしかなかった。

『……い……』

 ずっと神主は何かを言っていた。

 ものを話せることを感心しながらも、聞き取れずもどかしさが募る。

──もう少し。

 風が止んだ瞬間、急に神主の声が近くで響いた。

『許さない。あれが無ければ、私は……』
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