幸運な家族

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助けて

三森の教え

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 巾着袋の中を覗き込む片山の向かいで、里原がほっとした表情を浮かべた。

「それは片山さんの方でお預かりいただけるがですか?」
「ええ、まあ、はい。というか、何故これを持ち回りで保管していたのですか?」

 片山が問い返すと、里原が俯き加減で頭を掻いて答えた。

「忘れないように、です」
「忘れないというのは、石のことですか」
「はい。石を宮下さんの家に置いたことを忘れないように」

 家の中がしんと静まり返る。そこへ急な機械音が耳に届いた。どうやら、時計が十一時を知らせたらしい。

「こりゃいかん。そろそろ妻が戻ってきますき、話は私の部屋にしましょうか」
「奥様はご存知ないのですか?」

 片山が尋ねると、里原が大きく腕を振った。

「いや、知っちゅうがです。たんに五月蠅いだけです」
「それなら、このままでも」
「いやいや、まっこと五月蠅いですき」

 こちらが遠慮するのを聞かず、里原はさっさと湯呑みと皿を盆に載せ、自身の自室へと案内した。

 テーブルに盆を置くと、程なくして玄関を開ける音がした。続いて、明るい声が奥のこの部屋まで響いてきた。

「ただいま。お父さん、誰か来ちゅうが?」
「お客さんだ。飲み物は出しちゅうき、何もせんでえい」
「たまるか! お菓子は? 美味しいの昨日もらったき、それを出さんと!」

 なるほど、納得したように由里子は控えめに笑って片山と目を合わせた。

 キッチンの方でがさがさビニール袋の音が聞こえたかと思うと、何か固い物が当たる音、そして最後に足音が近づいてきた。

「まあまあ、こんにちは。すみません、里原の妻です。主人がいつもお世話に……あらっ宮下さん」

「こんにちは、お邪魔しています」
「狭いとこですけんど、ゆっくりしてください」

 里原の言う通り彼女はよほどの話好きらしく、世間話を始めてしまった。里原が横から止めに入り、どうにか三人の空間に戻る。

「すみません、五月蠅いでしょう」
「いえ、全然。一度ご挨拶したことがありますが、いつも明るくて良いですね」
「いやいや」

 軽く右手を振った里原は、妻が出ていった襖がしっかりと閉めて座り直した。

「では、本題に戻りまして。ちょっと舟子を出させていただきます」

 慌てて里原が手を挙げる。

「あの、出してもこの家に影響はありませんか?」

「大丈夫です。今は落ち着いているみたいですし、巾着袋も清められたものではなく単なる袋のようです。今までも各家で保管していて問題無かったでしょう?」

「ええ、はい。横にお供え物をしておけば平気だと教えられました」

 了承を得て、ついに巾着袋が開けられた。由里子の喉が鳴る。右手が差し入れられ、やがて小さな日本人形が顔を出した。

 おかっぱの黒髪に素朴な目と口、色褪せた着物を着ている。由里子は無意識に腹を撫でていた。

「手作りの人形か。これは霊に好まれそうな」

 舟子をじっくり観察すると、手早く袋に仕舞い直した。封をしたところに札を巻き付けておく。

「やはり、よくないものが……?」

「ええ、一体憑いています。お舟さんの子どもではないですが。居心地の良い器を見つけて寄ってきた浮遊霊でしょう」

 そう言って、巾着袋を鞄に仕舞った。これで袋の管理者から完全に逃れられた。里原が鞄から視線を逸らす。

「そういえば、舟子の扱い方はどなたに教えてもらったんですか?」

「三森さんです。あの人は毎日倉の中を手入れして、石を大切にしちょった。今まで呪いの影響を受けなかったのはあの人のおかげです。我々は頭が上がりません」
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