54 / 63
助けて
三森の教え
しおりを挟む
巾着袋の中を覗き込む片山の向かいで、里原がほっとした表情を浮かべた。
「それは片山さんの方でお預かりいただけるがですか?」
「ええ、まあ、はい。というか、何故これを持ち回りで保管していたのですか?」
片山が問い返すと、里原が俯き加減で頭を掻いて答えた。
「忘れないように、です」
「忘れないというのは、石のことですか」
「はい。石を宮下さんの家に置いたことを忘れないように」
家の中がしんと静まり返る。そこへ急な機械音が耳に届いた。どうやら、時計が十一時を知らせたらしい。
「こりゃいかん。そろそろ妻が戻ってきますき、話は私の部屋にしましょうか」
「奥様はご存知ないのですか?」
片山が尋ねると、里原が大きく腕を振った。
「いや、知っちゅうがです。たんに五月蠅いだけです」
「それなら、このままでも」
「いやいや、まっこと五月蠅いですき」
こちらが遠慮するのを聞かず、里原はさっさと湯呑みと皿を盆に載せ、自身の自室へと案内した。
テーブルに盆を置くと、程なくして玄関を開ける音がした。続いて、明るい声が奥のこの部屋まで響いてきた。
「ただいま。お父さん、誰か来ちゅうが?」
「お客さんだ。飲み物は出しちゅうき、何もせんでえい」
「たまるか! お菓子は? 美味しいの昨日もらったき、それを出さんと!」
なるほど、納得したように由里子は控えめに笑って片山と目を合わせた。
キッチンの方でがさがさビニール袋の音が聞こえたかと思うと、何か固い物が当たる音、そして最後に足音が近づいてきた。
「まあまあ、こんにちは。すみません、里原の妻です。主人がいつもお世話に……あらっ宮下さん」
「こんにちは、お邪魔しています」
「狭いとこですけんど、ゆっくりしてください」
里原の言う通り彼女はよほどの話好きらしく、世間話を始めてしまった。里原が横から止めに入り、どうにか三人の空間に戻る。
「すみません、五月蠅いでしょう」
「いえ、全然。一度ご挨拶したことがありますが、いつも明るくて良いですね」
「いやいや」
軽く右手を振った里原は、妻が出ていった襖がしっかりと閉めて座り直した。
「では、本題に戻りまして。ちょっと舟子を出させていただきます」
慌てて里原が手を挙げる。
「あの、出してもこの家に影響はありませんか?」
「大丈夫です。今は落ち着いているみたいですし、巾着袋も清められたものではなく単なる袋のようです。今までも各家で保管していて問題無かったでしょう?」
「ええ、はい。横にお供え物をしておけば平気だと教えられました」
了承を得て、ついに巾着袋が開けられた。由里子の喉が鳴る。右手が差し入れられ、やがて小さな日本人形が顔を出した。
おかっぱの黒髪に素朴な目と口、色褪せた着物を着ている。由里子は無意識に腹を撫でていた。
「手作りの人形か。これは霊に好まれそうな」
舟子をじっくり観察すると、手早く袋に仕舞い直した。封をしたところに札を巻き付けておく。
「やはり、よくないものが……?」
「ええ、一体憑いています。お舟さんの子どもではないですが。居心地の良い器を見つけて寄ってきた浮遊霊でしょう」
そう言って、巾着袋を鞄に仕舞った。これで袋の管理者から完全に逃れられた。里原が鞄から視線を逸らす。
「そういえば、舟子の扱い方はどなたに教えてもらったんですか?」
「三森さんです。あの人は毎日倉の中を手入れして、石を大切にしちょった。今まで呪いの影響を受けなかったのはあの人のおかげです。我々は頭が上がりません」
「それは片山さんの方でお預かりいただけるがですか?」
「ええ、まあ、はい。というか、何故これを持ち回りで保管していたのですか?」
片山が問い返すと、里原が俯き加減で頭を掻いて答えた。
「忘れないように、です」
「忘れないというのは、石のことですか」
「はい。石を宮下さんの家に置いたことを忘れないように」
家の中がしんと静まり返る。そこへ急な機械音が耳に届いた。どうやら、時計が十一時を知らせたらしい。
「こりゃいかん。そろそろ妻が戻ってきますき、話は私の部屋にしましょうか」
「奥様はご存知ないのですか?」
片山が尋ねると、里原が大きく腕を振った。
「いや、知っちゅうがです。たんに五月蠅いだけです」
「それなら、このままでも」
「いやいや、まっこと五月蠅いですき」
こちらが遠慮するのを聞かず、里原はさっさと湯呑みと皿を盆に載せ、自身の自室へと案内した。
テーブルに盆を置くと、程なくして玄関を開ける音がした。続いて、明るい声が奥のこの部屋まで響いてきた。
「ただいま。お父さん、誰か来ちゅうが?」
「お客さんだ。飲み物は出しちゅうき、何もせんでえい」
「たまるか! お菓子は? 美味しいの昨日もらったき、それを出さんと!」
なるほど、納得したように由里子は控えめに笑って片山と目を合わせた。
キッチンの方でがさがさビニール袋の音が聞こえたかと思うと、何か固い物が当たる音、そして最後に足音が近づいてきた。
「まあまあ、こんにちは。すみません、里原の妻です。主人がいつもお世話に……あらっ宮下さん」
「こんにちは、お邪魔しています」
「狭いとこですけんど、ゆっくりしてください」
里原の言う通り彼女はよほどの話好きらしく、世間話を始めてしまった。里原が横から止めに入り、どうにか三人の空間に戻る。
「すみません、五月蠅いでしょう」
「いえ、全然。一度ご挨拶したことがありますが、いつも明るくて良いですね」
「いやいや」
軽く右手を振った里原は、妻が出ていった襖がしっかりと閉めて座り直した。
「では、本題に戻りまして。ちょっと舟子を出させていただきます」
慌てて里原が手を挙げる。
「あの、出してもこの家に影響はありませんか?」
「大丈夫です。今は落ち着いているみたいですし、巾着袋も清められたものではなく単なる袋のようです。今までも各家で保管していて問題無かったでしょう?」
「ええ、はい。横にお供え物をしておけば平気だと教えられました」
了承を得て、ついに巾着袋が開けられた。由里子の喉が鳴る。右手が差し入れられ、やがて小さな日本人形が顔を出した。
おかっぱの黒髪に素朴な目と口、色褪せた着物を着ている。由里子は無意識に腹を撫でていた。
「手作りの人形か。これは霊に好まれそうな」
舟子をじっくり観察すると、手早く袋に仕舞い直した。封をしたところに札を巻き付けておく。
「やはり、よくないものが……?」
「ええ、一体憑いています。お舟さんの子どもではないですが。居心地の良い器を見つけて寄ってきた浮遊霊でしょう」
そう言って、巾着袋を鞄に仕舞った。これで袋の管理者から完全に逃れられた。里原が鞄から視線を逸らす。
「そういえば、舟子の扱い方はどなたに教えてもらったんですか?」
「三森さんです。あの人は毎日倉の中を手入れして、石を大切にしちょった。今まで呪いの影響を受けなかったのはあの人のおかげです。我々は頭が上がりません」
0
あなたにおすすめの小説
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる