貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

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第三章

開拓

 耳に増幅魔法をかけ、魔物の鳴き声を探る。いくつかの声の中に、コウ特有の「マ~」という声が聞こえた。

「やった、ビンゴ。島のどこかにはいるみたい。さっきの魔物も食べられるかもしれないし、食料は大丈夫そう」

 リルは森の端、海がよく見える場所の地面を魔法で平らにさせた。そこに魔法袋から取り出した板と並べていく。

「袋があれば木の運搬もらくちん。魔法様様だ」

 せっせと別荘を建てていくが、無人島なのでたまに魔物の気配がするだけで人の声は無い。静かな時間に家造りが捗る。

「これこれ、これを求めていた。でも、おひとり様がしたいだけで人と関わりたくないわけじゃないから、たまには誰かと会話するくらいならありかな。アミル様、私のこと友だちだって思ってくれているみたいだし。ルッツ様は……まあ、たまになら許そう」

 ルッツはやたらと声が大きいだけで、粗暴な振る舞いは無かった。魔法士の件だって、彼が本気になれば無理やりリルを連れて行くことだってできたはずだ。それをしなかったのは彼の優しさあってのことだろう。

 一人で生きていきたい気持ちは今も変わらない。魔法士と呼ばれるのはいいが、王宮魔法士にはならない。しかし、せっかく生まれ変わったのだ。周囲の人間と関わりを持ってたまには笑い合うのもいい。

「何をするのも自分の自由。これが一番」

 家の枠組みと屋根まで出来上がったところで、部屋のど真ん中に寝転んだ。一人と一匹用の別荘なので、ワンルームの小さなものだ。そこがまた秘密基地みたいで良い。

「トイレは消滅魔法でいい。泊まる予定は無いから、お風呂も無し。あとはドアと窓、ベッドだけ用意すれば完璧。最高」

 何も無い、誰もいない小島に一人。そしてこじんまりとした部屋。まだ完成してもいないというのにどんどん気分が高揚していく。このままここで寝続けたい。

「いやいや、ダメだ。さすがに」

 今寝てしまうと、さきほどの魔物が現れたら一撃で家が壊されてしまう。この島はいつもの山と違って狂暴な魔物がいるのだから。

 あのような魔物を目の前にすると、異世界で暮らしている実感が今さらながら湧いてくる。ウォルフを最初に手懐けたため、魔物は可愛らしいものという認識が心のどこかで根付いていた。

「せっかくだから、この島を開拓してみようかな」

 別荘だけでも満足だが、誰もいないのなら島自体を自分の家にしたい。もしも権利関係で契約に金がいるのなら、その時はアミルからもらった宝石をありがたく使わせてもらおう。リルはドアと窓を完成させ、鼻歌を歌いながら別荘を出た。

「ここは暖かいなぁ。半袖でも暑いくらい。山も別に寒くないけど、南へ行くとこんなに気温が違うんだ」

 サイと住んでいた山も今の山も、年間を通して前世よりやや涼しい。はっきりした四季はなく、肌寒い時期とやや暖かい時期が交互にやってくる。それはそれで過ごしやすいのだが、野菜や果物などを育てるには難しいことも多いだろう。

 そこで役立つのが魔法だ。魔法士が豊富な街であれば、農業も捗るにちがいない。小さな範囲での温度を操る魔法であれば、初級魔法士でも可能だ。魔法石に熱や氷を閉じ込めることもできる。それらが一般に売られているのかは定かではないが。

「ルッツ様たち曰く、王都は野菜が豊富とは言えないんだよね。単純に農業が盛んじゃないのかなぁ。それとも、そもそもこの世界の食物の数が多くないとか」

 十五年の人生の中、世の中を旅した経験も無く、今リルに圧倒的に足りないのはこの世界の知識だった。引きこもりスローライフを楽しむだけならそこまで必要無いかもしれないが、いったいいつまでそれを行えるのか分からない。いつかの時のために知識を得ておくのも手だ。

「とりあえずは地図。それがあれば、新しい土地を探す時に飛び回らなくて済む。島の開拓が終わったら地図を買いに行こう」
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