貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

文字の大きさ
43 / 89
第三章

自分の意志

 浜辺に沿って歩いてみたが、小島だけあって、人の足でも一時間程で一周できる広さであった。浜辺の向こうは鬱蒼とした森が茂っている。中には先ほどの魔物やコウ、他にもいくつかの鳴き声がしたので、複数の魔物が生息しているのが分かっている。

 彼らの住処を全て奪うのは忍びないため、森は残しつつ、自分が楽しむ分とチョコが遊ぶ用の広場、そしてコウなどを捕らえておく場所を作ることにした。

「まずは魔物を傷つけないように、あまり生息していない場所を探さなくちゃ」

 魔物を一掃するなら簡単だ。しかし、無意味な殺生は避けたい。リルが音魔法で甲高い音を響かせた。

「キィィィッ」
「グォォ」

 辺りにいた魔物たちが驚いて逃げていく。これでリルから半径数十メートルの範囲を確保できた。

「オッケー、これでゆっくりできる」

 木の棒を円周沿いに差し、間にも板を貼っていく。あっという間にチョコの遊び場が出来上がった。端の方にはリルの休憩用の椅子も用意した。その上にはクッションを置いた。クッションの材料である綿が無いため、中には服を敷き詰めている。

「綿もどこかで調達した方がよさそう。クッションはいくらでもあっていいからね。私がいつでもどこでも休めるように」

 特にこだわりのないリルだが、体を休めるための家具は別だ。硬い床で眠れば体が痛くなるし、ペラペラの布団だとやはり長時間眠れない。そんなことを考えていたら、ふとあることに思い至った。

「あれ、もしかして、綿って植物なのでは……?」

 植物であれば、綿を大量生産して布団を休みたいところ全部に置くことができる。しかし、詳しく調べようとして手元にスマートフォンが無いことにも気が付いてしまった。

「ああッスマホで調べものができない! 今まで困ったことなかったんだけどなぁ。適当にのんびり生きていたから」

 結局綿花がどういう植物なのか分からず、暇な時に穴を観察して、偶然見つけたら採取しようということにした。

「お金は少しあるから、とりあえずはそれで買えばいいか。綿って安かったと思うし」

 チョコを出来立ての広場で遊ばせつつ、リルは椅子に腰かけ、穴を出現させて実家の近くをうろうろして観察した。

「お父さんは元気そう。なんか鶏飼いだしてる。あ、あっちはスイカの季節なんだ。いいなぁ、スイカ。でも、一人暮らしでスイカがいっぱい出来たら食べきれない」

 誰にも縛られず生きていたいが、誰のことも何のことも考えず好き勝手に生きたいということではない。フードロスだって最小限に留めたい。いつだって自分たちは世界という大きな家を借りているだけだ。

「あ、小玉スイカとか。それを一人で食べられる量を作る。これだ」

 残念ながら父はスイカを食べているだけで育てているわけではなかったので、近くを散策する。父の性格上、一人でスイカを丸ごと購入するとは考えにくい。おそらく、ご近所さんがおすそ分けした、もしくは父の育てた野菜とぶつぶつ交換をしたということだろう。ということは、スイカを育てている家が近くにあるはずだ。

「スイカをもらうのは泥棒だから、できれば種、無理なら葉っぱをもらおう。そこからこっちで育てればいい」

 魔法書を超え、いろいろな魔法を開発しているリルにスイカの葉から小玉スイカを育てることなど簡単なものだ。サイから早起きを強制されるのは大変だったが、あの四年間は本当に意義のあるものだった。今でも感謝している。

「はは、チョコ楽しそう」

 広場の中にはチョコが退屈しないよう、ジャンプ台や滑り台などの遊具も作ってみた。初めての場所だから、一匹でも高い声を上げて走り回ってみる。

「──師匠のところ行ってみようかな」

 こうして一人で冷静に考える時間が出来、ふとそんなことを思った。勢いで山を飛び出したが、サイはリルの才能を買ってくれているだけだった。本気で嫌がっていることを伝えれば、推薦状も取り消してくれるかもしれない。しっかりリルの意思を伝えることが四年間育ててくれた彼女への敬意となろう。

「そう上手くいくかは分からないけど、伝えるだけ伝えてみよう」

 今日か明日か、はたまた一週間後になるかは分からないが、リルはサイの山へ行くことを決めた。
感想 9

あなたにおすすめの小説

奪われ系令嬢になるのはごめんなので逃げて幸せになるぞ!

よもぎ
ファンタジー
とある伯爵家の令嬢アリサは転生者である。薄々察していたヤバい未来が現実になる前に逃げおおせ、好き勝手生きる決意をキメていた彼女は家を追放されても想定通りという顔で旅立つのだった。

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

昭和生まれお局様は、異世界転生いたしましたとさ

蒼あかり
ファンタジー
局田舞子(つぼたまいこ)43歳、独身。 とある事故をきっかけに、彼女は異世界へと転生することになった。 どうしてこんなことになったのか、訳もわからぬままに彼女は異世界に一人放り込まれ、辛い日々を過ごしながら苦悩する毎日......。 など送ることもなく、なんとなく順応しながら、それなりの日々を送って行くのでありました。 そんな彼女の異世界生活と、ほんの少しのラブロマンスっぽい何かを織り交ぜながらすすむ、そんな彼女の生活を覗いてみませんか? 毎日投稿はできないと思います。気長に更新をお待ちください。

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!

珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。 3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。 高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。 これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!! 転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!

「通訳など辞書で足りる」と追放された令嬢——三国会談で、婚約者は一言も話せなくなった

歩人
ファンタジー
宮廷通訳官エレノーラは五つの言語を操り、婚約者クラウスの外交を陰で支えてきた。 だがクラウスは言った。「通訳など辞書で足りる。お前は要らない」 追放されたエレノーラは隣国で新たな道を歩み始める。 一方、クラウスは三国会談の場で辞書片手に立ち往生。 誤訳が外交問題に発展し、窮地に陥ったその場に、隣国の通訳官として現れたのは——。 「その言葉は、もう翻訳できません」

お言葉ですが今さらです

MIRICO
ファンタジー
アンリエットは祖父であるスファルツ国王に呼び出されると、いきなり用無しになったから出て行けと言われた。 次の王となるはずだった伯父が行方不明となり後継者がいなくなってしまったため、隣国に嫁いだ母親の反対を押し切りアンリエットに後継者となるべく多くを押し付けてきたのに、今更用無しだとは。 しかも、幼い頃に婚約者となったエダンとの婚約破棄も決まっていた。呆然としたアンリエットの後ろで、エダンが女性をエスコートしてやってきた。 アンリエットに継承権がなくなり用無しになれば、エダンに利などない。あれだけ早く結婚したいと言っていたのに、本物の王女が見つかれば、アンリエットとの婚約など簡単に解消してしまうのだ。 失意の中、アンリエットは一人両親のいる国に戻り、アンリエットは新しい生活を過ごすことになる。 そんな中、悪漢に襲われそうになったアンリエットを助ける男がいた。その男がこの国の王子だとは。その上、王子のもとで働くことになり。 お気に入り、ご感想等ありがとうございます。ネタバレ等ありますので、返信控えさせていただく場合があります。 内容が恋愛よりファンタジー多めになったので、ファンタジーに変更しました。 他社サイト様投稿済み。

この優しさには絶対に裏がある!~激甘待遇に転生幼女は混乱中~

たちばな立花
ファンタジー
処刑された魔女が目を覚ますと、敵国の王女レティシアに逆行転生していた。 しかも自分は――愛され王女!? 前世とは違う扱いに戸惑うレティシア。 「この人たちが私に優しくするのは絶対に何か裏があるはず!」 いつも優しい両親や兄。 戸惑いながらも、心は少しずつ溶けていく。 これは罠? それとも本物の“家族の愛”? 愛を知らないレティシアは、家族の無償の愛に翻弄されながらも成長していく。 疑り深い転生幼女が、初めて“幸せ”と出会う―― じんわり心あたたまる、愛されファンタジー。 他サイトでも掲載しています。