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第四章
頑張る兄
悲しい答えを聞いて妙に安心してしまった。父はリルをいないものとして扱っていたが、それがリルに対してだけではなく全てであり、リルが恨まれていたわけではないと分かったからだ。
父の性分なのだろうか、それとも何かきっかけがあったのか。前者ならいいと思う。
「申し訳ありません。私はカラット兄様のことを誤解していました。話しかけられないので興味はないものだと」
カラットはまだ耳を赤くさせながら、小さく首を振った。この反応からするに、リルのことを怒ってはいなさそうだ。今までの心配が杞憂に終わり、リルはほっと胸を撫で下ろした。
「リル」
「はい」
「…………」
家族にさえ人見知りをするのはなかなかに生きにくい。根気よく続きを待つ。カラットはやや俯きがちに目を見開きながら、そしてリルを睨みつけた。おそらく見つめているだけだろうが、どこからどう見ても睨んでいるようにしか見えない。
「私は、緊張しいなのだ。誤解させて、申し訳ない。私はリルのことを、生まれた時からずっと、大切に想っていた」
「カラット兄様……」
ずっと空気のように扱われていたと思っていた。違っていた。実の家族で一人でもリルのことを想ってくれている者がいて、リルは救われた気持ちになった。何故この世界に転生したのかは分からない。たった独りぼっちだと思っていた。いくら気の置ける仲間や家族のように世話をしてくれる人が現れても、心のどこかで孤独を飼っていた。しかし違っていた。
──違っていた。
なんだかスキップしたくなってきた。目の前の兄に抱き着きたくなってきた。ただ、それをしたら今度こそ眼球が零れ落ちてしまうかもしれない。兄妹のスキンシップはある程度の距離を保って我慢しておこう。
ともかく、山に住むことを拒否されることなく済みそうで安心した。交渉用に万能薬も持参したが使わずに終わった。
「お忙しいところ有難う御座いました。王都に来ることはなかなかないですが、お会いしましたらよろしくお願いいたします」
今まで交流ゼロだったのでこれからもそうである可能性の方が高いが、兄が妹のことを嫌っていないことが分かったので、当たり障りのない言葉を贈る。兄が嫌がっておらずとも父はああなので、あの屋敷に帰ることもないだろう。しかし、カラットはそうはいかなかった。
「リル、また会ってくれ」
「はい」
「私は王宮に住んでいる。王宮に来た時は顔を見せてくれ」
「……はい」
わだかまりが消えてもリルからしたら兄はよく知らない人のまま。わざわざ顔を見せるのは気恥ずかしいというか少々面倒であるが、そのくらいは勝手に家出した償いとしてさせていただこう。リルが頷くと、カラットは真顔をほんの一ミリだけ解いて頷いた。
──これが笑顔、なのかな?
はっきり言ってリルからしたら今のカラットも真顔だ。彼の精一杯の笑顔なのだろう。妹として兄の努力を汲むことにした。
父の性分なのだろうか、それとも何かきっかけがあったのか。前者ならいいと思う。
「申し訳ありません。私はカラット兄様のことを誤解していました。話しかけられないので興味はないものだと」
カラットはまだ耳を赤くさせながら、小さく首を振った。この反応からするに、リルのことを怒ってはいなさそうだ。今までの心配が杞憂に終わり、リルはほっと胸を撫で下ろした。
「リル」
「はい」
「…………」
家族にさえ人見知りをするのはなかなかに生きにくい。根気よく続きを待つ。カラットはやや俯きがちに目を見開きながら、そしてリルを睨みつけた。おそらく見つめているだけだろうが、どこからどう見ても睨んでいるようにしか見えない。
「私は、緊張しいなのだ。誤解させて、申し訳ない。私はリルのことを、生まれた時からずっと、大切に想っていた」
「カラット兄様……」
ずっと空気のように扱われていたと思っていた。違っていた。実の家族で一人でもリルのことを想ってくれている者がいて、リルは救われた気持ちになった。何故この世界に転生したのかは分からない。たった独りぼっちだと思っていた。いくら気の置ける仲間や家族のように世話をしてくれる人が現れても、心のどこかで孤独を飼っていた。しかし違っていた。
──違っていた。
なんだかスキップしたくなってきた。目の前の兄に抱き着きたくなってきた。ただ、それをしたら今度こそ眼球が零れ落ちてしまうかもしれない。兄妹のスキンシップはある程度の距離を保って我慢しておこう。
ともかく、山に住むことを拒否されることなく済みそうで安心した。交渉用に万能薬も持参したが使わずに終わった。
「お忙しいところ有難う御座いました。王都に来ることはなかなかないですが、お会いしましたらよろしくお願いいたします」
今まで交流ゼロだったのでこれからもそうである可能性の方が高いが、兄が妹のことを嫌っていないことが分かったので、当たり障りのない言葉を贈る。兄が嫌がっておらずとも父はああなので、あの屋敷に帰ることもないだろう。しかし、カラットはそうはいかなかった。
「リル、また会ってくれ」
「はい」
「私は王宮に住んでいる。王宮に来た時は顔を見せてくれ」
「……はい」
わだかまりが消えてもリルからしたら兄はよく知らない人のまま。わざわざ顔を見せるのは気恥ずかしいというか少々面倒であるが、そのくらいは勝手に家出した償いとしてさせていただこう。リルが頷くと、カラットは真顔をほんの一ミリだけ解いて頷いた。
──これが笑顔、なのかな?
はっきり言ってリルからしたら今のカラットも真顔だ。彼の精一杯の笑顔なのだろう。妹として兄の努力を汲むことにした。
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