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親戚

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 ある日、近所に住む半次郎の親戚であるふさが訪ねてきた。

「半次郎」
「おはよう、おばさん」
「おやまあ、その子は?」

 ふさは勘助を見て目を丸くさせた。

「家から追い出されちまって、ちょっと預かってるんだ」
「そうかい」

 じろじろと観察するが、当の本人は全く気が付かなかった。

「ところでどうしたんだい」
「ああ、いや、箪笥を動かすのが大変でね。ちょいと手伝ってくれないかと思って」
「分かった。じゃあ、勘助行こう」

 半次郎が勘助を手招きする。ふさが首を傾げた。

「留守番はできないの?」
「この前火事があったから心配なんだ」
「ふうん」

 二人の後ろからついていくふさが視線を逸らして息を吐いた。

 少し歩いた先の長屋がふさの家だ。そこではふさの娘であるちよが待っていた。ふさの夫は数年前に亡くなっているので、娘と二人暮らしなのだ。

「半次郎、久しぶり」
「ちよ、箪笥が動かせないって聞いたけど」
「うん。ごめんね、忙しいのに」

 ちよは半次郎の五歳年下で、母の手伝いをする良い娘である。半次郎は件の箪笥をひょいと持ち上げた。

「わあ、さすが」
「毎日屋台を引いているからこのくらいは朝飯前だ」

 ちよが手を叩いて喜ぶ横で、ふさが笑顔で頷いた。

「うん。半次郎は相変わらず力持ちで男らしい。ねえ、ちよ」
「そうだね」

 手伝った礼だと漬物をもらってふさの家を出た。勘助は勝手が分からず、箪笥を運んでいる間以外はずっと半次郎の傍を離れなかった。

 ふさが半次郎に耳打ちする。

「お前もそろそろ新しい人を探したらどうだい。子どもに構っていないで」
「いやまあ、俺にはおミツだけだから。ごめんね」
「気が変わったらすぐ報告しなよ」
「おう」

 ふさに手を振りそそくさと帰る。半次郎は一度も後ろを振り向かなかった。

「悪い人じゃねぇんだが、困ったもんだ」

 ぽりぽりと頭を掻く。勘助のことがなくても、半次郎は新しい女房を持つ気にはなれない。半次郎にとって、ミツが最初で最後の女房なのだ。右手の先の勘助を見遣る。

──俺には勘助がいる。それで今は十分。

「この漬物美味しい?」
「ああ。夕飯に出そう」
「やったぁ」

 左手を上に挙げる勘助だったが、不自然に拳が握られている。半次郎が尋ねた。

「なんで手を広げないんだ?」
「飴をもらったの」

 ゆっくり手を開くと、包まれた紙が出てきた。中に飴が入っているらしい。

「ちよがくれたのか」
「うん」
「お礼は言ったか?」
「うん」

 丸い頬がにっこりと笑う。半次郎もつられて笑った。

──悪い人たちじゃないんだよな。
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