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私は精進する

未経験者歓迎、明るい職場です!

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──お馬ちゃん。俺を今すぐのどかな田舎に連れていって!

 愛馬相手に現実逃避をしてみたが、万が一それが実現したら二度と宮廷に帰れなくなる。恐怖の巣が自宅というなんたる地獄。唯一自室のみゆっくり出来るので、いっそあそこに引きこもりたい。

 王都を出たところで東軍が止まる。胡威風が振り向いて指示した。

「小隊ごとに分かれて各自見回りなさい」
「はッ」

 王都内部は結界で守られている上、そこで魔力を放つものがあれば、近くにいる法術師が感知する。そのため、王都以外を見回ることになっている。

 馬を下り、それぞれ怪しいところがないか歩いて探す。新兵たちは馬の番だ。胡威風も兵士たちの動きに注視して回る。

「東将軍」
「なんだ」
「五番隊、異常無しです」
「分かった。休んでいなさい」

 次々に報告が上がり、結局法術は確認されなかった。どうにか命が繋がった。心の中で喜びの舞いを踊る。

 宮廷に戻ると、続々と他の軍も戻ってくる。幸いなことに、歪みは見つからなかった。これでとりあえずは安心だ。しかし今後のことを考え、王都以外の地方都市にも足を伸ばし、結界をそれぞれ張ることになった。

 地方に配属されている軍に、法術師はせいぜい一人しかいない。これは単純に人数の問題で、法術師が元々少ないため地方にまで配属出来ないのだ。

 法術師は志望したからといってそのままなれるものではない。まず、法術を使える資質が無ければいくら努力を重ねたとしても法術師にはなれない。

 また、法術の基礎を法術師の元で学んできた者のみが採用されるという条件も大きい。宮廷では常に即戦力を求められるので、法術師として迎え入れられたからには上司の術を見て学べる者でなければならないのだ。

 こういった理由で法術師がなかなか増えない。例えば法術師の学び舎でもあればいいのだが、それをする程の人数を欲していないのと、資質を持った人間を見極めるところから始めなければならないため時間も金もかかる。

──胡氏は法術師の家だから、そこで秀でた人間を宮廷軍に推薦してもらえたらいいなぁ。

 きっと過去の彼ならば、自分の背中を叩いてくるような優秀な法術師を歓迎することはないだろうが、今の胡威風は違う。

 自室に戻った胡威風はひとしきり考えた後、実家に手紙を送ることにした。もちろん、法術の手紙だ。これなら一刻もかからず相手に届く。

「上手いこと行きますように!」

 窓から手紙を投げながら、胡威風が両手を合わせて真剣に祈った。
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