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私は精進する

当たっちゃった

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 かなり慎重に扱わなければならない話題のため、胡威風は自室に陳雷を招き入れた。こちらまで緊張が伝わってくる。それだけで申し訳ないのだが、これからもっと申し訳ない質問をしなければならない。

「こんなところですまない。実は陳雷の母君について聞きたいのだ」
「母、ですか」

 明らかに陳雷の顔色が曇る。

──あ~~~~ッ君を悲しませたくないのに、こんなこと聞いてくる上司で本当にごめんなさい! 後で美味しいお菓子あげるね!!

「そう固くならなくてよい。もし言いづらければ言わなくてもよいから」
「お気遣い恐縮です」

 迷っていたらどんどん聞きづらくなる。思い切って直球の質問を投げかけた。

「母君は、もしかして恨国に住んでいらっしゃるのではないか」
「何故それを……!」

──陳雷、嘘吐けないイイコ……軍での評価が下がらないよう誤魔化してもいいところなのに、そのまま言っちゃうんだね。聞いたのが俺だけでよかった。

「私が歪みを見つけたのは知っているだろう。それを一度試してみたら恨国に繋がって、そこでお前に似た顔の女性を見かけたのだ」
「ほ、本当ですか!」

 思わず胡威風の服を掴もうとした陳雷が、寸でで自分のしでかそうとしている事実に気が付き一歩後ずさる。

「失礼しました。母とは私が幼少の頃に生き別れていて、一度でいいから会いたいと思っていたものですから……」
「そうだったのか」

 陳雷の肩にそっと手を置きつつ、胡威風は途方に暮れていた。

 彼女が陳雷の母であることは極めて濃厚になった。つまり、再度恨国に潜入しなければならないということだ。

──今すぐにということはないけど、陳雷のことを思うとなるはやだよね……。

「分かった。何の理由も無く恨国に潜入して見つかった場合、最悪戦闘になる。私が必ず行く機会を見つけるから、それまで待っていてくれるか?」
「はい、それはもちろん。いつも助けて頂き有難う御座います……!」

 涙ぐむ陳雷にお菓子を持たせて退室してもらう。胡威風は精神的疲労から寝台にごろんと寝転がった。

 ティロリロリロリ~~~~~~ン!

「うおッ」

[胡威風
 レベル:400
 法術師レベル:630
 聖人レベル:-490000
 悪人レベル:80000
 装備:剣「清洗」、突殺 ]

 鳴り出した音と現れたステータスに絶望した。

 今回、聖人レベルが9000も上がっている。つまりこれはそういうことである。

「恨国潜入がそれだけ危険ってことか……最悪」

 そして、たった今自分自身でフラグを立ててしまった。もう腹を括るしかない。
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