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貴族に出世
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「清麻呂さんは何を買いに来たんですか?」
ここにいるということは買い物に来たということだ。本来の目的を思い出してもらって、早々に別れる作戦に出た。
「いや、特に無い。買い物は家の者がしておるから、その辺を回っていたところだ」
しかし、清仁は失敗した。
「従者さんが探しているのでは?」
「終われば見つけてくれる。ちょうど暇をしていたのだ、清仁がいてよかった」
しまった。暇を持て余した中年の暇つぶしに巻き込まれてしまった。清仁は諦めた。
逆に考えれば、市場にしょっちゅう出入りしている人間に案内してもらえるわけだ。便利な案内人だと思おう。
「清仁こそ、何を買いたいんだ?」
言われて初めて考えた。居候の身であり、仮の姿で生活しているので、これといって欲しい物を考えたことがなかった。腕を組んで唸り出した清仁に清麻呂が助け船を出す。
「それなら、美味い肉なんてどうだ」
「あれ、貴族は肉食しないって聞きましたけど」
以前、肉食が禁止されていると国守が言っていた。狩猟した肉はよかったり、庶民には浸透していないから普段から食べられているというガバガバな政策らしいが。
「美味しいんだから仕方がないだろう。それに、私はちゃんと狩猟したものを食べている」
「そうなんだ。じゃあ、ここに売ってるのも」
「それは知らんが、狩猟したって言われれば平気だ」
「やっぱガバガバだ」
ちなみに国守宅では、仙が狩ってきたという肉がたまに出る。
「うーん。肉は食べられるし」
「あれなんかどうだ。兎肉」
「兎はダメ!!」
「美味いのに」
おはぎに聞かせたくない科白だった。心なしかおはぎの顔がしょんぼりしているように見える。おはぎの耳に手を当てて耳栓をしてみたが、すでに聞いた後なので遅い。
「そうだ。おもちゃがいいです。小動物が遊べるような、もしくはブランケット、いや、小さい布団とか」
「なんだ、家畜を飼い出したのか」
「家畜じゃなくてペットです。可愛がるんです」
清麻呂はペットを飼っていないらしく、可愛がり方がいまいち理解出来なかったようだが、とりあえず小さい子どもの遊び道具を見せてもらうことにした。
「子どもの玩具でいいか?」
「はい」
「それなら、この辺だ」
食料品を扱う店を過ぎると、日用品や工芸品が溢れていた。
「おお~すごい」
「清仁、清仁」
清麻呂がある店の前で止まる。清仁もそこにある商品を眺める。
「石名取玉や独楽が人気だと聞くぞ」
「石名取玉?」
独楽は分かる。今でも昔の遊びとして伝わっているし、形も似ている。しかし、もう一方は初めて聞く名前だった。
「こうして遊ぶんです」
店の主人が見本を丁寧に見せてくれる。貴族の男たちだから、子どもの相手をしたことがないと思われたのかもしれない。玉を投げる様子を見物し、清仁はようやく合点がいった。
「なるほど、お手玉か」
今のお手玉とは材質が違うものの、遊び方でピンときた。子どもの遊びというものは現代まで長く続いていることを知った。
──子ども用の娯楽ってこんな昔からあったんだな。
新しい発見に清仁が感動する。長岡京まで来た甲斐があった。来たくて来たわけではないが。
「両方もらおうかな。清麻呂さん、お金これで足りますか?」
「足りる。店主、これで頼む」
「有難う御座います」
金額に見合った金を見繕って清麻呂が会計を済ませてくれる。初めての買い物はこうして成功に終わった。
ここにいるということは買い物に来たということだ。本来の目的を思い出してもらって、早々に別れる作戦に出た。
「いや、特に無い。買い物は家の者がしておるから、その辺を回っていたところだ」
しかし、清仁は失敗した。
「従者さんが探しているのでは?」
「終われば見つけてくれる。ちょうど暇をしていたのだ、清仁がいてよかった」
しまった。暇を持て余した中年の暇つぶしに巻き込まれてしまった。清仁は諦めた。
逆に考えれば、市場にしょっちゅう出入りしている人間に案内してもらえるわけだ。便利な案内人だと思おう。
「清仁こそ、何を買いたいんだ?」
言われて初めて考えた。居候の身であり、仮の姿で生活しているので、これといって欲しい物を考えたことがなかった。腕を組んで唸り出した清仁に清麻呂が助け船を出す。
「それなら、美味い肉なんてどうだ」
「あれ、貴族は肉食しないって聞きましたけど」
以前、肉食が禁止されていると国守が言っていた。狩猟した肉はよかったり、庶民には浸透していないから普段から食べられているというガバガバな政策らしいが。
「美味しいんだから仕方がないだろう。それに、私はちゃんと狩猟したものを食べている」
「そうなんだ。じゃあ、ここに売ってるのも」
「それは知らんが、狩猟したって言われれば平気だ」
「やっぱガバガバだ」
ちなみに国守宅では、仙が狩ってきたという肉がたまに出る。
「うーん。肉は食べられるし」
「あれなんかどうだ。兎肉」
「兎はダメ!!」
「美味いのに」
おはぎに聞かせたくない科白だった。心なしかおはぎの顔がしょんぼりしているように見える。おはぎの耳に手を当てて耳栓をしてみたが、すでに聞いた後なので遅い。
「そうだ。おもちゃがいいです。小動物が遊べるような、もしくはブランケット、いや、小さい布団とか」
「なんだ、家畜を飼い出したのか」
「家畜じゃなくてペットです。可愛がるんです」
清麻呂はペットを飼っていないらしく、可愛がり方がいまいち理解出来なかったようだが、とりあえず小さい子どもの遊び道具を見せてもらうことにした。
「子どもの玩具でいいか?」
「はい」
「それなら、この辺だ」
食料品を扱う店を過ぎると、日用品や工芸品が溢れていた。
「おお~すごい」
「清仁、清仁」
清麻呂がある店の前で止まる。清仁もそこにある商品を眺める。
「石名取玉や独楽が人気だと聞くぞ」
「石名取玉?」
独楽は分かる。今でも昔の遊びとして伝わっているし、形も似ている。しかし、もう一方は初めて聞く名前だった。
「こうして遊ぶんです」
店の主人が見本を丁寧に見せてくれる。貴族の男たちだから、子どもの相手をしたことがないと思われたのかもしれない。玉を投げる様子を見物し、清仁はようやく合点がいった。
「なるほど、お手玉か」
今のお手玉とは材質が違うものの、遊び方でピンときた。子どもの遊びというものは現代まで長く続いていることを知った。
──子ども用の娯楽ってこんな昔からあったんだな。
新しい発見に清仁が感動する。長岡京まで来た甲斐があった。来たくて来たわけではないが。
「両方もらおうかな。清麻呂さん、お金これで足りますか?」
「足りる。店主、これで頼む」
「有難う御座います」
金額に見合った金を見繕って清麻呂が会計を済ませてくれる。初めての買い物はこうして成功に終わった。
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