僕の家の祠の下

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祠はあそこに

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 玄関を出て右に歩いて角を曲がる。昨日サッカーをして遊んでいた場所に着いた。その奥に、昨日見た祠は無かった。夢でも見ている気分になった。

「どこでボールをぶつけたが?」
「あ、あこで……」

 光太郎が祠のあった場所を差し示すが、そこには大きな石すら落ちていなかった。康雄が厳しい顔で二人を見つめるが、それに応じる気力すら残されていなかった。

「狐にでも騙されたか」
「狐ェ?」

 思いがけない言葉に遼が声を裏返らせる。康雄が笑った。

「ほれ、あこの五代山|《ごたいさん》。狐が出る言われちゅう」
「へぇ~」
「知らんかった」

 ここから一キロ程行ったところに五代山がある。あの山も子どもだけでは入ってはいけないと言われているため、一度も入山したことがない。狐が出ることも今初めて知った。

「うーん……」

 まだ納得のいかない顔をしている遼に、康雄が塀の向こう側を指差した。

「祠なら、あこにあるがよ」
「え! 祠!?」
「うそ!」

 二人して塀から顔を出して隣の空き地を見る。そこは草が生い茂る誰も足を踏み入れない場所だった。草の影に石らしきものが確認できる。

「あれだよじいちゃん。僕が見た祠」
「空き地でサッカーをしたがか?」
「ううん、庭」
「空き地は入っちゃいかんぞ。祠を壊したらいかんき」

──やっぱり、これを昔も言われたことがある。

 康雄に背中を軽く叩かれ、結局謎が増えただけで二人の告白は終了した。廊下で祖父と別れ、自室に戻る。光太郎が眉間に皺を寄せて言った。

「どう思う?」
「どうって……庭に無かったのは確かだった」
「けんど、庭にあったのも確かだった」
「うん」

 何が起きているのかさっぱり分からない。万が一祠の件が勘違いだったとしたら、鈴や見えない訪問者について説明がつかなくなる。

「結局、じいちゃんに呪いの解き方聞けんかった」

 光太郎が頭を抱えて叫ぶ。

「あ~~~何も分からん!」

 すると、隣から壁を強く叩かれた。隣には妹の美波がいる。光太郎がベッドのシーツを強く掴んだ。

「美波、いつの間に怖くなったが? 前までは「光太郎く~ん」って言っちょったのに」
「何年前の話よ」
「美波がこんくらいのこんまい時」

 光太郎が親指と人差し指で長さを説明するので、あまりの小ささに遼が腹を抱えて笑う。もう一発壁ドンが来た。光太郎が口を大きく開けて遼を見た。遼は目を閉じてゆっくり首を振った。

「まあ、鈴の件はまた明日考えよう。神社行く?」
「この辺神社無いで。汽車で三十分は行かんと」
「そりゃ遠い……とりあえず家にあるお守り持って登校する」
「俺も家にあるか探す」

 今のところ、直接何かをされたわけではない。家の中にも入ってきていない。こちらがこれ以上刺激しなければ、何も起こらない可能性もある。

「何かあったらすぐ連絡する」
「うん、僕も」
「帰る前に、ちっくと隣の祠観察してみよう」
「うん」

 幸い、遼の部屋は空き地に面していて、部屋から覗くだけで祠を見下ろすことができた。

「たしかに、ある」
「けんど、全然気付かんかった」
「俺たち、空き地でサッカーしたことない。昨日は絶対庭でした」

 光太郎に頷く遼だったが、見れば見るほど昨日の祠と全く同じだ。何故こんなことになったのか、庭から空き地に祠が勝手に移動したとでも言うのか。

「祠の下、掘り返した跡があるか見える?」
「いや、近くで見ないとよう分からん」
「けんど、近付いたら鈴のやつが来るかも」

 前にも後ろにも進めず、二人は途方に暮れた。遼がスマートフォンを手に取る。

「検索で何か引っかかったりするかも」
「それだ!」

 地名や鈴、幽霊など思いついた言葉を組み合わせて検索していく。しかし、出てくるのは創作ばかりで、ここと関係がありそうなページは発見できなかった。

「役に立たんネットじゃ」
「仕方ない。じいちゃん、にはもう聞きにくいき、誰かお年寄りに聞いてみよう」
「俺のばあちゃんは? 今日聞けたら聞いてみる」
「ありがとう。お願い」

 光太郎と一緒に一階に下り、玄関を慎重に開けて外へと出る。門まで見送り、光太郎が何事もなく角を曲がるまで見送った。

 家に戻ろうと振り返ったところで、視界の端に黒い靄が見えた。遼は慌てて走って玄関の中に入り、鍵を閉めた。

「……視えた」

 やはり、得体のしれないナニカがこの家の庭をうろついている。まだ中に入られていないが、それも時間の問題かもしれない。

 中に入ったものの、あの靄が気になって自室に戻ることができず、遼はじっと玄関を見つめていた。

 すると、玄関の磨りガラス越しに、何かを模ったような黒いモノが、ゆらりゆらりと右から左へ移動した。遼は唾を飲み込んだ。

「……」

 決して言葉は発さず、しかし一秒足りとも見逃さないという様子で前を睨み続ける。

 りん……。

 その時、遠くからあの音が届いた。

──鈴だ!
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