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無い
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そうと決まればあとはすることはない。残りの授業を惰性で終え、二人はまっすぐ小原宅に向かった。
「今日は水曜日でよかった」
二人が通う守北高校は、ほとんどの部活が水曜日に活動していない。理由は知らないが、教師の都合だろうと納得している。自転車を走らせて三十分、遼の家が見えてきた。バスも近くまで走っているけれども、一時間に二本しか来ないため自転車で帰った方がずっと早い。
「ただいま」
「おかえり。光太郎君も」
「おじゃまします」
小学生だった頃は光太郎ももっと騒がしく幼馴染の家を訪れたものだが、中学の途中からはこうしておとなしく上がることを覚えた。母に促されてしっかり手洗いうがいをし、自室に入る。
「ああ、緊張した」
「秘密があるき」
「そういうこと」
光太郎が笑いつつ、声を潜めて言った。
「じいちゃんおる?」
「おるで。靴があった」
「おお、そうか……」
正座したばかりの足の先をもぞもぞと動かし、遼が光太郎を見る。
「行こう」
「……よし。俺が蹴ったき、俺が謝る」
「僕も同罪ちや。一緒に謝ろう」
祖父の部屋は一階の一番奥にある。遼たちはそっと階段を下り、廊下をゆっくり歩いて祖父の部屋の前で立ち止まった。一瞬迷ってから襖越しに声をかける。
「じいちゃん、入る」
「遼か」
襖を開けると、祖父の康雄がテレビを観ながら新聞を読んでいた。光太郎の姿を見とめ、そちらに体を向ける。
「おかえり」
「ただいま」
「光太郎か、珍しいことよ」
眼鏡の奥の鋭い眼光に光太郎が体を硬直させる。遼が襖を閉め、光太郎の背中をちょんとつついた。
「あー、ええと、遼のじいちゃんお久しぶりです」
「ほがなかしこまらんでえい」
それでも光太郎は背筋を伸ばし、遼とともに祖父の目の前まで歩いていって正座をした。
「遼のじいちゃんごめんなさい! 庭の祠にサッカーボールぶつけて壊してしまいました! 今は石を元の位置に戻しています!」
「僕もボール受け止められなくて壊してしまいました。ごめんなさい」
二人で正座をして頭を下げる。康雄が目を丸くさせて答えた。
「祠?」
「はい」
「庭の祠言うたか?」
次に何を言われるのか。康雄の眼光の鋭さに、二人の体がさらに縮こまる。やがて、悩んだ風の彼がはてと首を傾げた。
「うちに祠なんて無い」
「え?」
遼と光太郎が同時に顔を上げた。康雄が冗談を言っているようにはとうてい見えない。そもそも、彼が冗談を言うところを一度も見たことがない。
「庭に転がっちゅう石でも引っかけたがか?」
「いや、ほがなことは……」
遼の声がどんどん萎んでいく。二人して祠が壊れ、その下から人の腕が出てくるところを目撃したのだ。ここまできて勘違いで終わるはずがない。康雄が「よっこらせ」と立ち会がある。
「どれ、見に行こう」
「あ、うん」
康雄の後ろをとぼとぼついていく。遼は幼い頃の記憶を体中ぐるぐると巡らせていた。
「今日は水曜日でよかった」
二人が通う守北高校は、ほとんどの部活が水曜日に活動していない。理由は知らないが、教師の都合だろうと納得している。自転車を走らせて三十分、遼の家が見えてきた。バスも近くまで走っているけれども、一時間に二本しか来ないため自転車で帰った方がずっと早い。
「ただいま」
「おかえり。光太郎君も」
「おじゃまします」
小学生だった頃は光太郎ももっと騒がしく幼馴染の家を訪れたものだが、中学の途中からはこうしておとなしく上がることを覚えた。母に促されてしっかり手洗いうがいをし、自室に入る。
「ああ、緊張した」
「秘密があるき」
「そういうこと」
光太郎が笑いつつ、声を潜めて言った。
「じいちゃんおる?」
「おるで。靴があった」
「おお、そうか……」
正座したばかりの足の先をもぞもぞと動かし、遼が光太郎を見る。
「行こう」
「……よし。俺が蹴ったき、俺が謝る」
「僕も同罪ちや。一緒に謝ろう」
祖父の部屋は一階の一番奥にある。遼たちはそっと階段を下り、廊下をゆっくり歩いて祖父の部屋の前で立ち止まった。一瞬迷ってから襖越しに声をかける。
「じいちゃん、入る」
「遼か」
襖を開けると、祖父の康雄がテレビを観ながら新聞を読んでいた。光太郎の姿を見とめ、そちらに体を向ける。
「おかえり」
「ただいま」
「光太郎か、珍しいことよ」
眼鏡の奥の鋭い眼光に光太郎が体を硬直させる。遼が襖を閉め、光太郎の背中をちょんとつついた。
「あー、ええと、遼のじいちゃんお久しぶりです」
「ほがなかしこまらんでえい」
それでも光太郎は背筋を伸ばし、遼とともに祖父の目の前まで歩いていって正座をした。
「遼のじいちゃんごめんなさい! 庭の祠にサッカーボールぶつけて壊してしまいました! 今は石を元の位置に戻しています!」
「僕もボール受け止められなくて壊してしまいました。ごめんなさい」
二人で正座をして頭を下げる。康雄が目を丸くさせて答えた。
「祠?」
「はい」
「庭の祠言うたか?」
次に何を言われるのか。康雄の眼光の鋭さに、二人の体がさらに縮こまる。やがて、悩んだ風の彼がはてと首を傾げた。
「うちに祠なんて無い」
「え?」
遼と光太郎が同時に顔を上げた。康雄が冗談を言っているようにはとうてい見えない。そもそも、彼が冗談を言うところを一度も見たことがない。
「庭に転がっちゅう石でも引っかけたがか?」
「いや、ほがなことは……」
遼の声がどんどん萎んでいく。二人して祠が壊れ、その下から人の腕が出てくるところを目撃したのだ。ここまできて勘違いで終わるはずがない。康雄が「よっこらせ」と立ち会がある。
「どれ、見に行こう」
「あ、うん」
康雄の後ろをとぼとぼついていく。遼は幼い頃の記憶を体中ぐるぐると巡らせていた。
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