僕の家の祠の下

文字の大きさ
6 / 7

無い

しおりを挟む
 そうと決まればあとはすることはない。残りの授業を惰性で終え、二人はまっすぐ小原宅に向かった。

「今日は水曜日でよかった」

 二人が通う守北高校は、ほとんどの部活が水曜日に活動していない。理由は知らないが、教師の都合だろうと納得している。自転車を走らせて三十分、遼の家が見えてきた。バスも近くまで走っているけれども、一時間に二本しか来ないため自転車で帰った方がずっと早い。

「ただいま」
「おかえり。光太郎君も」
「おじゃまします」

 小学生だった頃は光太郎ももっと騒がしく幼馴染の家を訪れたものだが、中学の途中からはこうしておとなしく上がることを覚えた。母に促されてしっかり手洗いうがいをし、自室に入る。

「ああ、緊張した」
「秘密があるき」
「そういうこと」

 光太郎が笑いつつ、声を潜めて言った。

「じいちゃんおる?」
「おるで。靴があった」
「おお、そうか……」

 正座したばかりの足の先をもぞもぞと動かし、遼が光太郎を見る。

「行こう」
「……よし。俺が蹴ったき、俺が謝る」
「僕も同罪ちや。一緒に謝ろう」

 祖父の部屋は一階の一番奥にある。遼たちはそっと階段を下り、廊下をゆっくり歩いて祖父の部屋の前で立ち止まった。一瞬迷ってから襖越しに声をかける。

「じいちゃん、入る」
「遼か」

 襖を開けると、祖父の康雄がテレビを観ながら新聞を読んでいた。光太郎の姿を見とめ、そちらに体を向ける。

「おかえり」
「ただいま」
「光太郎か、珍しいことよ」

 眼鏡の奥の鋭い眼光に光太郎が体を硬直させる。遼が襖を閉め、光太郎の背中をちょんとつついた。

「あー、ええと、遼のじいちゃんお久しぶりです」
「ほがなかしこまらんでえい」

 それでも光太郎は背筋を伸ばし、遼とともに祖父の目の前まで歩いていって正座をした。

「遼のじいちゃんごめんなさい! 庭の祠にサッカーボールぶつけて壊してしまいました! 今は石を元の位置に戻しています!」

「僕もボール受け止められなくて壊してしまいました。ごめんなさい」
 二人で正座をして頭を下げる。康雄が目を丸くさせて答えた。

「祠?」
「はい」
「庭の祠言うたか?」

 次に何を言われるのか。康雄の眼光の鋭さに、二人の体がさらに縮こまる。やがて、悩んだ風の彼がはてと首を傾げた。

「うちに祠なんて無い」

「え?」

 遼と光太郎が同時に顔を上げた。康雄が冗談を言っているようにはとうてい見えない。そもそも、彼が冗談を言うところを一度も見たことがない。

「庭に転がっちゅう石でも引っかけたがか?」
「いや、ほがなことは……」

 遼の声がどんどん萎んでいく。二人して祠が壊れ、その下から人の腕が出てくるところを目撃したのだ。ここまできて勘違いで終わるはずがない。康雄が「よっこらせ」と立ち会がある。

「どれ、見に行こう」
「あ、うん」

 康雄の後ろをとぼとぼついていく。遼は幼い頃の記憶を体中ぐるぐると巡らせていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【短編集】こども病院の日常

moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。 18歳以下の子供が通う病院、 診療科はたくさんあります。 内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc… ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。 恋愛要素などは一切ありません。 密着病院24時!的な感じです。 人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。 ※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。 歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

とある男の包〇治療体験記

moz34
エッセイ・ノンフィクション
手術の体験記

ナースコール

wawabubu
大衆娯楽
腹膜炎で緊急手術になったおれ。若い看護師さんに剃毛されるが…

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

漆黒の闇から

一宮 沙耶
ホラー
邪悪な霊が引き起こす事件の数々 若い頃から霊が見え、精神を病んでいた私が事件を解決していく ただ、自分も黄泉の世界に巻き込まれてしまう

処理中です...