28 / 32
第28話 塊のノイズ
しおりを挟む
女はステージに向かって、何やらお経のような物を唱えていた。
俺は言われたとおりに黙って、固唾を飲みながらその様子を眺めていた。
女はしばらく唱え続けながら、テーブルの上に塩と思われる白い粒子を使って文様でも書くような動作を繰り返した。
俺は何をしているのか覗こうと体を横にずらした。
「動かないで!」
女が声をあげたので俺は慌てて体を戻した。
こちらに背を向けているにも関わらず俺の動きを察知したので、驚くと共に神妙な気持ちになった。
俺はじっと待つしかなかった。
女は手を止めると、今度はテーブルの上に並べてあったと思われる、木製の短い棒を両手で額のあたりに掲げ、より一層大きな声で唱え続けた。
すると、不思議とスピーカーがそれに反応するように再び高いハウリング音を響かせたので、今度はそれに張り合うように女が声を張り上げていった。
どうなってしまうのか……
不安な気持ちが肥大していき、鼓膜は限界に達しそうで、頭がおかしくなりそうだった。
女は声を張り上げ続けていた。
俺は、動くなと言われていたので迷ったが、そっと両手を上げて耳を塞いだ。こうしてしまうと女の声もあまり聞こえなくなったが、その背中の様子から特に注意をされてはいないようだった。
実際の音なのか先程のハウリング音の残響なのか分からなかったが、耳を塞いでいても耳の中で高い音が糸のように一定に流れているのを感じた。
その時だった。
俺の左側、アンプが置いてあるあたりで何かが落ちる音がした。
いや、実際に音が聞こえたわけではなかったのだが、何かそういう気配を感じたのだ。
思わず左を振り返った。
見ると、床にはフォトフレームが写真面を伏せた状態で落ちていて、周囲には割れたガラスが散らばっていた。
俺は逃げ出したくなるのを我慢して再び女の方を見ると、女がこちらに向かって何か叫び訴えているところだった。
俺は何だろうと思い、耳を塞いでいた手を離した。
ハウリング音はもう聞こえなかった。
その時、左耳に苦しそうに呻くような呼吸音が流れ込んできて、思わず俺は再び左側を振り向いた。
極めて黒に近い灰色で塗りつぶされたような、人型をした塊が目の前に立っていた。
その塊の輪郭はチラチラとずれるノイズ映像のように揺れていて、頭部らしき部分の中にかろうじて分かる目らしき位置の二つの黒い穴が、俺をじっと見ていた。
美樹……?
感覚的にそう思った。
これは美樹だ――と……
次の瞬間、俺の視界は黒いノイズで塗りつぶされた。
俺は言われたとおりに黙って、固唾を飲みながらその様子を眺めていた。
女はしばらく唱え続けながら、テーブルの上に塩と思われる白い粒子を使って文様でも書くような動作を繰り返した。
俺は何をしているのか覗こうと体を横にずらした。
「動かないで!」
女が声をあげたので俺は慌てて体を戻した。
こちらに背を向けているにも関わらず俺の動きを察知したので、驚くと共に神妙な気持ちになった。
俺はじっと待つしかなかった。
女は手を止めると、今度はテーブルの上に並べてあったと思われる、木製の短い棒を両手で額のあたりに掲げ、より一層大きな声で唱え続けた。
すると、不思議とスピーカーがそれに反応するように再び高いハウリング音を響かせたので、今度はそれに張り合うように女が声を張り上げていった。
どうなってしまうのか……
不安な気持ちが肥大していき、鼓膜は限界に達しそうで、頭がおかしくなりそうだった。
女は声を張り上げ続けていた。
俺は、動くなと言われていたので迷ったが、そっと両手を上げて耳を塞いだ。こうしてしまうと女の声もあまり聞こえなくなったが、その背中の様子から特に注意をされてはいないようだった。
実際の音なのか先程のハウリング音の残響なのか分からなかったが、耳を塞いでいても耳の中で高い音が糸のように一定に流れているのを感じた。
その時だった。
俺の左側、アンプが置いてあるあたりで何かが落ちる音がした。
いや、実際に音が聞こえたわけではなかったのだが、何かそういう気配を感じたのだ。
思わず左を振り返った。
見ると、床にはフォトフレームが写真面を伏せた状態で落ちていて、周囲には割れたガラスが散らばっていた。
俺は逃げ出したくなるのを我慢して再び女の方を見ると、女がこちらに向かって何か叫び訴えているところだった。
俺は何だろうと思い、耳を塞いでいた手を離した。
ハウリング音はもう聞こえなかった。
その時、左耳に苦しそうに呻くような呼吸音が流れ込んできて、思わず俺は再び左側を振り向いた。
極めて黒に近い灰色で塗りつぶされたような、人型をした塊が目の前に立っていた。
その塊の輪郭はチラチラとずれるノイズ映像のように揺れていて、頭部らしき部分の中にかろうじて分かる目らしき位置の二つの黒い穴が、俺をじっと見ていた。
美樹……?
感覚的にそう思った。
これは美樹だ――と……
次の瞬間、俺の視界は黒いノイズで塗りつぶされた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる