4 / 15
救出編
ある決意をした結婚初夜
しおりを挟む
「そうだよ、姉様。久しぶり」
にっこり微笑むウィルの笑顔は、やっぱり五年前と全く同じだった。ただ、前は私の方が身長が高かったのに、今はあっさり追い越されている。私の頭の上らへんにようやくウィルの首元があるくらいだ。
それに、なんだか昔は守ってあげなくちゃ、って思うほど細くて可愛くて、儚い印象だったのに、今はなんかかっこいい……? って、違うそんなことを考えてる暇じゃない。
「どうして貴方がここに? お父様は結婚式の連絡すらしなかったはずなのに」
ウィルの留学は、彼が十八になる四年後までの予定のはず。その間、お父様はウィルを帰国させるつもりは(私が逆らわなければ)ないと言っていたし、連絡もまともに寄越していないらしい。ウィルがここにいることは私にとって予想外だった。
「姉様を助けに来たんだ」
「助けに……?」
「そう。ねぇ姉様。本当にアレックスなんかと結婚するつもり?」
ウィルの問いかけに心臓がドクンと脈打つ。アレックス様との結婚。貴族の娘の責務を果たさないと。そう思って結婚式に挑んだ。
——でも。
『お姉様って、とーってもしぶといですよね!』
メアリーの言葉が、アレックス様が向けてくる殺気が忘れられない。このままじゃ本当に私は……。
「えぇ。それが貴族の娘の義務だもの」
けれど、口をついて出たのは綺麗な建前だった。恐怖はある。結婚だって本当はしたくない。だけど、もしここで結婚したくないって言って。それで何が変わる?
ウィルは優しい子だから、なんとかしようとしてくれるかもしれない。でもそれは、地獄から出て、留学して、自らの道を歩む準備をしているウィルの負担になる。
今だって、ウィルがお父様に隠して帰国してるのであろうことは明白だった。早く帰さないとバレてしまうかも……。
「本当に? あの家が姉様に何をしてくれた? あんな家のために姉様が苦しむ必要なんてない」
顔を歪ませて、声も震わせたウィルは、苦しげに呟いた。
「このままじゃ姉様は本当に死んでしまうかもしれない……!」
「ウィル……」
何を言ったらいいのか、全く思いつかなかった。だって、私も死んでしまうかもとは思ったし、義務なんて言って自分を鼓舞していても、結婚が怖いのも本当だから。
だけど、私はまだウィルに安全な場所にいて欲しかった。私の中ではやっぱりウィルは五年前のままの、私が守りたい唯一の弟だったから。
けれど、こんなに真剣なウィルに、『大丈夫だから、留学先に戻って』なんて嘘ばっかりの話をできる気がしなくて。
「僕は、ずっと守られてばっかりだ……! 五年前も、今も」
手をぎゅっと握りしめたウィルが、目に涙を浮かべたウィルが、記憶の中の苦い思い出と重なる。
「僕は姉様に死んでほしくない!」
——あぁ。五年前、泣いているこの子を見送った時と一緒だ。私はいつもそう。この子を守ろうとして、結果この子をこんなに泣かせてしまっている。守る守るなんて言って、一番この子を傷つけているのは私かもしれない。
ソフィー、貴方が一番大事なのは何? そっと自分に問いかける。家? お父様? アレックス様? 自分?
いいえ。全部違う。私が一番大切なのはウィル。なら——。
「ごめん……ごめんねウィル。私、やっぱり……」
続きの言葉を言おうとした瞬間。大きな音がして、部屋の扉が開けられたのがわかった。
にっこり微笑むウィルの笑顔は、やっぱり五年前と全く同じだった。ただ、前は私の方が身長が高かったのに、今はあっさり追い越されている。私の頭の上らへんにようやくウィルの首元があるくらいだ。
それに、なんだか昔は守ってあげなくちゃ、って思うほど細くて可愛くて、儚い印象だったのに、今はなんかかっこいい……? って、違うそんなことを考えてる暇じゃない。
「どうして貴方がここに? お父様は結婚式の連絡すらしなかったはずなのに」
ウィルの留学は、彼が十八になる四年後までの予定のはず。その間、お父様はウィルを帰国させるつもりは(私が逆らわなければ)ないと言っていたし、連絡もまともに寄越していないらしい。ウィルがここにいることは私にとって予想外だった。
「姉様を助けに来たんだ」
「助けに……?」
「そう。ねぇ姉様。本当にアレックスなんかと結婚するつもり?」
ウィルの問いかけに心臓がドクンと脈打つ。アレックス様との結婚。貴族の娘の責務を果たさないと。そう思って結婚式に挑んだ。
——でも。
『お姉様って、とーってもしぶといですよね!』
メアリーの言葉が、アレックス様が向けてくる殺気が忘れられない。このままじゃ本当に私は……。
「えぇ。それが貴族の娘の義務だもの」
けれど、口をついて出たのは綺麗な建前だった。恐怖はある。結婚だって本当はしたくない。だけど、もしここで結婚したくないって言って。それで何が変わる?
ウィルは優しい子だから、なんとかしようとしてくれるかもしれない。でもそれは、地獄から出て、留学して、自らの道を歩む準備をしているウィルの負担になる。
今だって、ウィルがお父様に隠して帰国してるのであろうことは明白だった。早く帰さないとバレてしまうかも……。
「本当に? あの家が姉様に何をしてくれた? あんな家のために姉様が苦しむ必要なんてない」
顔を歪ませて、声も震わせたウィルは、苦しげに呟いた。
「このままじゃ姉様は本当に死んでしまうかもしれない……!」
「ウィル……」
何を言ったらいいのか、全く思いつかなかった。だって、私も死んでしまうかもとは思ったし、義務なんて言って自分を鼓舞していても、結婚が怖いのも本当だから。
だけど、私はまだウィルに安全な場所にいて欲しかった。私の中ではやっぱりウィルは五年前のままの、私が守りたい唯一の弟だったから。
けれど、こんなに真剣なウィルに、『大丈夫だから、留学先に戻って』なんて嘘ばっかりの話をできる気がしなくて。
「僕は、ずっと守られてばっかりだ……! 五年前も、今も」
手をぎゅっと握りしめたウィルが、目に涙を浮かべたウィルが、記憶の中の苦い思い出と重なる。
「僕は姉様に死んでほしくない!」
——あぁ。五年前、泣いているこの子を見送った時と一緒だ。私はいつもそう。この子を守ろうとして、結果この子をこんなに泣かせてしまっている。守る守るなんて言って、一番この子を傷つけているのは私かもしれない。
ソフィー、貴方が一番大事なのは何? そっと自分に問いかける。家? お父様? アレックス様? 自分?
いいえ。全部違う。私が一番大切なのはウィル。なら——。
「ごめん……ごめんねウィル。私、やっぱり……」
続きの言葉を言おうとした瞬間。大きな音がして、部屋の扉が開けられたのがわかった。
2
あなたにおすすめの小説
実家を追い出され、薬草売りをして糊口をしのいでいた私は、薬草摘みが趣味の公爵様に見初められ、毎日二人でハーブティーを楽しんでいます
さら
恋愛
実家を追い出され、わずかな薬草を売って糊口をしのいでいた私。
生きるだけで精一杯だったはずが――ある日、薬草摘みが趣味という変わり者の公爵様に出会ってしまいました。
「君の草は、人を救う力を持っている」
そう言って見初められた私は、公爵様の屋敷で毎日一緒に薬草を摘み、ハーブティーを淹れる日々を送ることに。
不思議と気持ちが通じ合い、いつしか心も温められていく……。
華やかな社交界も、危険な戦いもないけれど、
薬草の香りに包まれて、ゆるやかに育まれるふたりの時間。
町の人々や子どもたちとの出会いを重ね、気づけば「薬草師リオナ」の名は、遠い土地へと広がっていき――。
『有能すぎる王太子秘書官、馬鹿がいいと言われ婚約破棄されましたが、国を賢者にして去ります』
しおしお
恋愛
王太子の秘書官として、陰で国政を支えてきたアヴェンタドール。
どれほど杜撰な政策案でも整え、形にし、成果へ導いてきたのは彼女だった。
しかし王太子エリシオンは、その功績に気づくことなく、
「女は馬鹿なくらいがいい」
という傲慢な理由で婚約破棄を言い渡す。
出しゃばりすぎる女は、妃に相応しくない――
そう断じられ、王宮から追い出された彼女を待っていたのは、
さらに危険な第二王子の婚約話と、国家を揺るがす陰謀だった。
王太子は無能さを露呈し、
第二王子は野心のために手段を選ばない。
そして隣国と帝国の影が、静かに国を包囲していく。
ならば――
関わらないために、関わるしかない。
アヴェンタドールは王国を救うため、
政治の最前線に立つことを選ぶ。
だがそれは、権力を欲したからではない。
国を“賢く”して、
自分がいなくても回るようにするため。
有能すぎたがゆえに切り捨てられた一人の女性が、
ざまぁの先で選んだのは、復讐でも栄光でもない、
静かな勝利だった。
---
【完結】姉を追い出して当主になった悪女ですが、何か?
堀多 ボルダ
恋愛
「お姉様、このマクレディ伯爵家は私が後を継ぎます。お姉様は邪魔なので今すぐこの家から出ていってください」
両親の急逝後、伯爵家を切り盛りしていた姉を強引に追い出して妹ダリアは当主となった。しかし、それが原因で社交界からは稀代の悪女として嫌われるようになった。
そんな彼女の元を訪ねたのは、婿に来てほしい男ナンバーワンと噂される、社交界で人気の高い幼馴染だった……。
◆架空の世界にある架空の国が舞台の架空のお話です。
◆カクヨムにも掲載しています。
婚約者を妹に奪われた私は、呪われた忌子王子様の元へ
秋月乃衣
恋愛
幼くして母を亡くしたティアリーゼの元に、父公爵が新しい家族を連れて来た。
自分とは二つしか歳の変わらない異母妹、マリータの存在を知り父には別の家庭があったのだと悟る。
忙しい公爵の代わりに屋敷を任された継母ミランダに疎まれ、ティアリーゼは日々疎外感を感じるようになっていった。
ある日ティアリーゼの婚約者である王子と、マリータが思い合っているのではと言った噂が広まってしまう。そして国から王子の婚約者を妹に変更すると告げられ……。
※他サイト様でも掲載しております。
厄介者扱いされ隣国に人質に出されたけど、冷血王子に溺愛された
今川幸乃
恋愛
オールディス王国の王女ヘレンは幼いころから家族に疎まれて育った。
オールディス王国が隣国スタンレット王国に戦争で敗北すると、国王や王妃ら家族はこれ幸いとばかりにヘレンを隣国の人質に送ることに決める。
しかも隣国の王子マイルズは”冷血王子”と呼ばれ、数々の恐ろしい噂が流れる人物であった。
恐怖と不安にさいなまれながら隣国に赴いたヘレンだが、
「ようやく君を手に入れることが出来たよ、ヘレン」
「え?」
マイルズの反応はヘレンの予想とは全く違うものであった。
貧乏子爵令嬢ですが、愛人にならないなら家を潰すと脅されました。それは困る!
よーこ
恋愛
図書室での読書が大好きな子爵令嬢。
ところが最近、図書室で騒ぐ令嬢が現れた。
その令嬢の目的は一人の見目の良い伯爵令息で……。
短編です。
聖女だけど婚約破棄されたので、「ざまぁリスト」片手に隣国へ行きます
もちもちのごはん
恋愛
セレフィア王国の伯爵令嬢クラリスは、王太子との婚約を突然破棄され、社交界の嘲笑の的に。だが彼女は静かに微笑む――「ざまぁリスト、更新完了」。実は聖女の血を引くクラリスは、隣国の第二王子ユリウスに見出され、溺愛と共に新たな人生を歩み始める。
妹の婚約者自慢がウザいので、私の婚約者を紹介したいと思います~妹はただ私から大切な人を奪っただけ~
マルローネ
恋愛
侯爵令嬢のアメリア・リンバークは妹のカリファに婚約者のラニッツ・ポドールイ公爵を奪われた。
だが、アメリアはその後に第一王子殿下のゼラスト・ファーブセンと婚約することになる。
しかし、その事実を知らなかったカリファはアメリアに対して、ラニッツを自慢するようになり──。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる