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救出編
ある決意をした結婚初夜
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「そうだよ、姉様。久しぶり」
にっこり微笑むウィルの笑顔は、やっぱり五年前と全く同じだった。ただ、前は私の方が身長が高かったのに、今はあっさり追い越されている。私の頭の上らへんにようやくウィルの首元があるくらいだ。
それに、なんだか昔は守ってあげなくちゃ、って思うほど細くて可愛くて、儚い印象だったのに、今はなんかかっこいい……? って、違うそんなことを考えてる暇じゃない。
「どうして貴方がここに? お父様は結婚式の連絡すらしなかったはずなのに」
ウィルの留学は、彼が十八になる四年後までの予定のはず。その間、お父様はウィルを帰国させるつもりは(私が逆らわなければ)ないと言っていたし、連絡もまともに寄越していないらしい。ウィルがここにいることは私にとって予想外だった。
「姉様を助けに来たんだ」
「助けに……?」
「そう。ねぇ姉様。本当にアレックスなんかと結婚するつもり?」
ウィルの問いかけに心臓がドクンと脈打つ。アレックス様との結婚。貴族の娘の責務を果たさないと。そう思って結婚式に挑んだ。
——でも。
『お姉様って、とーってもしぶといですよね!』
メアリーの言葉が、アレックス様が向けてくる殺気が忘れられない。このままじゃ本当に私は……。
「えぇ。それが貴族の娘の義務だもの」
けれど、口をついて出たのは綺麗な建前だった。恐怖はある。結婚だって本当はしたくない。だけど、もしここで結婚したくないって言って。それで何が変わる?
ウィルは優しい子だから、なんとかしようとしてくれるかもしれない。でもそれは、地獄から出て、留学して、自らの道を歩む準備をしているウィルの負担になる。
今だって、ウィルがお父様に隠して帰国してるのであろうことは明白だった。早く帰さないとバレてしまうかも……。
「本当に? あの家が姉様に何をしてくれた? あんな家のために姉様が苦しむ必要なんてない」
顔を歪ませて、声も震わせたウィルは、苦しげに呟いた。
「このままじゃ姉様は本当に死んでしまうかもしれない……!」
「ウィル……」
何を言ったらいいのか、全く思いつかなかった。だって、私も死んでしまうかもとは思ったし、義務なんて言って自分を鼓舞していても、結婚が怖いのも本当だから。
だけど、私はまだウィルに安全な場所にいて欲しかった。私の中ではやっぱりウィルは五年前のままの、私が守りたい唯一の弟だったから。
けれど、こんなに真剣なウィルに、『大丈夫だから、留学先に戻って』なんて嘘ばっかりの話をできる気がしなくて。
「僕は、ずっと守られてばっかりだ……! 五年前も、今も」
手をぎゅっと握りしめたウィルが、目に涙を浮かべたウィルが、記憶の中の苦い思い出と重なる。
「僕は姉様に死んでほしくない!」
——あぁ。五年前、泣いているこの子を見送った時と一緒だ。私はいつもそう。この子を守ろうとして、結果この子をこんなに泣かせてしまっている。守る守るなんて言って、一番この子を傷つけているのは私かもしれない。
ソフィー、貴方が一番大事なのは何? そっと自分に問いかける。家? お父様? アレックス様? 自分?
いいえ。全部違う。私が一番大切なのはウィル。なら——。
「ごめん……ごめんねウィル。私、やっぱり……」
続きの言葉を言おうとした瞬間。大きな音がして、部屋の扉が開けられたのがわかった。
にっこり微笑むウィルの笑顔は、やっぱり五年前と全く同じだった。ただ、前は私の方が身長が高かったのに、今はあっさり追い越されている。私の頭の上らへんにようやくウィルの首元があるくらいだ。
それに、なんだか昔は守ってあげなくちゃ、って思うほど細くて可愛くて、儚い印象だったのに、今はなんかかっこいい……? って、違うそんなことを考えてる暇じゃない。
「どうして貴方がここに? お父様は結婚式の連絡すらしなかったはずなのに」
ウィルの留学は、彼が十八になる四年後までの予定のはず。その間、お父様はウィルを帰国させるつもりは(私が逆らわなければ)ないと言っていたし、連絡もまともに寄越していないらしい。ウィルがここにいることは私にとって予想外だった。
「姉様を助けに来たんだ」
「助けに……?」
「そう。ねぇ姉様。本当にアレックスなんかと結婚するつもり?」
ウィルの問いかけに心臓がドクンと脈打つ。アレックス様との結婚。貴族の娘の責務を果たさないと。そう思って結婚式に挑んだ。
——でも。
『お姉様って、とーってもしぶといですよね!』
メアリーの言葉が、アレックス様が向けてくる殺気が忘れられない。このままじゃ本当に私は……。
「えぇ。それが貴族の娘の義務だもの」
けれど、口をついて出たのは綺麗な建前だった。恐怖はある。結婚だって本当はしたくない。だけど、もしここで結婚したくないって言って。それで何が変わる?
ウィルは優しい子だから、なんとかしようとしてくれるかもしれない。でもそれは、地獄から出て、留学して、自らの道を歩む準備をしているウィルの負担になる。
今だって、ウィルがお父様に隠して帰国してるのであろうことは明白だった。早く帰さないとバレてしまうかも……。
「本当に? あの家が姉様に何をしてくれた? あんな家のために姉様が苦しむ必要なんてない」
顔を歪ませて、声も震わせたウィルは、苦しげに呟いた。
「このままじゃ姉様は本当に死んでしまうかもしれない……!」
「ウィル……」
何を言ったらいいのか、全く思いつかなかった。だって、私も死んでしまうかもとは思ったし、義務なんて言って自分を鼓舞していても、結婚が怖いのも本当だから。
だけど、私はまだウィルに安全な場所にいて欲しかった。私の中ではやっぱりウィルは五年前のままの、私が守りたい唯一の弟だったから。
けれど、こんなに真剣なウィルに、『大丈夫だから、留学先に戻って』なんて嘘ばっかりの話をできる気がしなくて。
「僕は、ずっと守られてばっかりだ……! 五年前も、今も」
手をぎゅっと握りしめたウィルが、目に涙を浮かべたウィルが、記憶の中の苦い思い出と重なる。
「僕は姉様に死んでほしくない!」
——あぁ。五年前、泣いているこの子を見送った時と一緒だ。私はいつもそう。この子を守ろうとして、結果この子をこんなに泣かせてしまっている。守る守るなんて言って、一番この子を傷つけているのは私かもしれない。
ソフィー、貴方が一番大事なのは何? そっと自分に問いかける。家? お父様? アレックス様? 自分?
いいえ。全部違う。私が一番大切なのはウィル。なら——。
「ごめん……ごめんねウィル。私、やっぱり……」
続きの言葉を言おうとした瞬間。大きな音がして、部屋の扉が開けられたのがわかった。
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