ドドメ色の君~子作りのために召喚された私~

豆丸

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切ない気持ち

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 ベッドサイドに置かれた手拭いで精子で汚れた下半身をざっと拭き、もう一枚の手拭いを四角に折り、ナプキンのように入り口にあて、精子が垂れるのを防ぐ。心許ない紐パンを履く、やっぱりパンツは大きいのがいい。  
股間がじんじんし、痛い、がに股で歩くしかなく、もぞもぞ動きだすとドロッと精子が流れた。嫌がってたわりには精子量が多い、獣人はみんなそうなのかしら……   

「おい、待て。終わりか?部屋から出るなら目隠しとロープを外せ!」 
 ベッドをギシギシさせ、ラッセルが何か騒いでる気がするけど、きっと気のせいね。 

 私は領主ラッセルの部屋から退出する。すかさず部屋の前で待機していた獣人たちから声をかけられた。 
 
 
「なに?もう終わったのかい?それともやっぱり君じゃ勃たなかった?」 
 ニヤニヤ嫌みたらしく、前髪(羽)を掻き分け雉獣人ジャミが聞いてきた。 
 雉らしく派手な外見で目の回りが赤く、黄色の嘴がある。ヒョロと細長く、多分私より体重は軽そう、両手は翼になっていて鳥だから空を飛べる、貴重な伝令係だそうだ。    
 
「ジャミ止めなよ。ふんふん、ちゃんとラッセル様の精子の匂いする、たくさんべったりだ、ヤったんだよ!」 
 嬉しそうに、犬獣人カンタが黒い湿った鼻をひくつかせセクハラ発言をかましてきた。 
 カンタは全体的にもふもふな白い毛で覆われて、大きな耳と純情そうな真っ黒な濡れた瞳をしている。駄犬っぽい。
   
「うわー。濃い匂いー。いいな。甘いメスの匂いもするよーっ」 
 お尻の太いしっぽを上下にパタパタさせ、鼻をひくつかせながら、鼻息荒く近寄ってきた。 
「カンタさん、ちょっとキモいです」 
 3歩後ろに下がりあからさまに距離をおく。 
「えー。キモい?僕キモくないよ。酷いよー、ミサキ」カンタは耳を下げてクーンと鼻を鳴らす。 
 
 
「ふーん。枯れてないんだ?」またジャミが絡んでくる。 
「枯れるほど、年じゃないので」 
この嫌み鳥、焼き鳥にしてやりたいわ。 
「良かったね、君ごときが、領主殿にお情け貰えて……」   
 両腕を組み、フンっとあからさまに馬鹿にする言い方に腹が立つ。 
「お情けね?……盛大に精子出してたわよ」 
「な、調子に乗るなよ!人間が領主殿の手を煩わせるな!」  
はーっ!領主殿の手を煩わせるなって、くそ鳥め……………あ、手、忘れてた。   
「そうね………私ごときが領主様の手を煩わせるわにはいかないわ……だからね、手をベッドに縛らせてもらったの」にっこり笑顔で答えた。 
「な、馬鹿な!嘘だろう?」   
わなわな震えるジャミにとどめの一言。 
「うっかりして、外すの忘れちゃった」   
「――――――っっ!」 
「下半身丸出しで寒いかも。あ、ついでに目隠しも外すの忘れてた」 
「り、領主殿――――!」 
 真っ青な顔でラッセルの部屋に駆け込むジャミに溜飲が下がる。 
 尊敬する領主殿の情けない姿を見るがいいわ!
 
 
「あれ?ミサキ、ジャミあんなに急いでどうしたの?」カンタは愛くるしく小首をかしげる。 
 一緒に駆けつけなくていいのかしら?領主の護衛としたら失格なんだけど…。
 
 「ラッセルの側に行ったわよ。カンタさんは行かなくて大丈夫なの?」 
「僕?僕はラッセル様にミサキのお世話をするように勅命を受けたんだ!」 
 えっへんと効果音が聞こえそうなほど、カンタは胸を張り誇らしそう。 
「カ、カンタさんが世話をするの?私の?」 余計な仕事と私の心労が増えそうだけど。 
「うん!大船に乗ったつもりで任せてよ。案内する、お風呂。そうだ、閨後はいつもお風呂に連れて行くんだった。前の奥様も僕が運んだんだよ」 
「お風呂!入りたいわ。カンタさん案内よろしくね」前の奥様のことやらいろいろ聞きたいことはあるけど、まずは精子を流したい。 
「うん、うん。ミサキお風呂好き、僕も大好きだよ!それじゃ、行こう早く、僕運ぶよ」 
 興奮気味のカンタに軽々お姫様抱っこされ、視界が高くなる。 
 
「ちょっとカンタさん。自分で歩けるわよ」 
「あれ?ミサキ歩けるの?前の奥様、ぐったりしてたよ。閨すると、2日は寝込むんだ。」 
 
「そう、体弱かったのね……」 
      
 ラッセルの前の奥様を思い切なくなる。赤ちゃん出来なくて離縁したと聞いた。領主の妻として情けなくて、苦しかったに違いない―――それなのに寄り添うことをせず離縁したラッセルに怒りが沸く。セックスしろと言われても優しく出来るはずもない。 
 不妊の原因を全部女性のせいにして、半分は男性側の問題もあるのに。ラッセルが種無しかもしれないじゃないの! 
もっとぐるぐるに縛りつけとけば良かったわ。 
   
「ミサキ?大丈夫?顔怖いよ」 
「ごめん、カンタさん大丈夫よ」 
「うん。それよりミサキ重いね。体のお肉ぷにぷに柔らかいね。ちょっと食べたいな~。だめ?」

 
――やっぱり駄犬だったわ。 
はあ。なんでこんなに世界に来ちゃたんだろう。
 
  
 

 ◇◇◇◇ 
 
 
 
 私、神崎美咲。不妊外来で働く臨床検査技師。18歳の子持ち。父の紹介でお見合い結婚した旦那さんは私より8歳上、会社員で穏やかな良いパパさんだった。男として愛しているというより、人として尊敬してる。 
      
  
 どしゃ降りの雨の中、仕事の帰り道。車が橋の真ん中で鉄砲水に流された。車体がぐるぐる回り、水が車内に侵入してきて、もうダメだって思った。鼻に口に水が入り苦しくて、もがいて、手を必死に動かす。 
 その両手を誰か、力強い腕が掴んで引き上げてくれた。空気に触れ、ごぶごぶと肺から水を吐き呼吸した。苦しい、大きな手が優しく背中を擦ってくれ、その暖かさに安心した私は意識を手放した。
  
 
 
  
「あ、大丈夫ですか?」 
目を醒ますと目の前に兎の耳が揺れる。ふわふわ茶色の耳は青年の頭から生えていて、同じく茶色のサラサラな髪を後で一つに縛っていた。目の色はガラス玉みたいに綺麗な翡翠色。顔立ちも整っていて外国映画の俳優さんみたい、頬の薄いそばかすが彼によく似合う。
  
 顔の輪郭にそってふわふわ茶色の毛が生えて、鼻と口の形は兎。鼻は小さく、スンスン動いている。体つきは人間そのもので、180センチは越えるだろう身長にヒョロッと長い手足。指は五本あり、指先の方まで兎の毛に覆われて手のひらにぷにぷにしたピンク色の肉球ぽいものが見えた。白い着物のような服、前衣は大きくはだけて、茶色の胸毛がふさふさ見えた。
 
(うわ、兎…人間?…すんごい精巧なコスプレ?どっち?)

「初めてまして、僕は医者のハリー・ファイン、兎獣人です。」
「兎獣人?」 
「はい!あなたの世界には存在しない生き物ですよ。ここはあなたがいた地球ではありません。白竜の背、六つに区切られた領土の一つバンローグです」 
「な、何を言ってるの?嘘ですよね?」 
ひきつり笑いを浮かべる私を哀れむようにハリーは窓の外を指差した。 
「信じられませんよね?外を見て下さい」 
 
 薄いガラスの窓を開けると、そこに広がる一面の蒼。巨大な蒼い葉っぱが地面に刺さっていた。一枚一枚が私の身長ほどの大きさで先が鋭く尖っていた。 
 葉っぱの森を越えると奥に巨大な湖が見えた、湖の真ん中に白い柱が天高くそびえ、塔の先は雲で見えなかった。 
 
「あの森は鱗の森です。危険なので入らないように。湖の真ん中にある白い塔は竜の瞳様がいらっしゃいます」いつの間にか後ろに来たハリーが説明してくれたが、何一つ入ってこない。 
 
「あんな塔、日本にない…風も空気の匂いも重さも違う……本当に日本じゃない……うそ…」泣くことも喚くことも出来ず、ただその場にぺったんと座りこんだ。 
 
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