ドドメ色の君~子作りのために召喚された私~

豆丸

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子ども改革と女子会

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 ラッセルの鋭い問いに、竜神の金色の瞳が大きく見開かれ潤む。泣きそうな笑い出しそうな哀れで切なくなる表情。清浄な気が陽炎のように揺れた。 
 
「………必然だよ。バンローグ領主ラッセル………。1000年前私と聖女を召喚した人間の魔術師達は私に呪いをかけていたんだ……黒ダニは呪い、人間達の悪意の塊。毎年繁殖期に凶暴化し、私の体を蝕もうとする害虫………どこかを犠牲にしないとならば、失っても一番損害の少ない領地。すなわち……増加の見込みのない、子どもの数の少ない領地になる………仕方がないことなんだよ」
 
「……仕方ないって、黒ダニに襲われたら、領地もだけど、住んでる獣人はどうなるの?」 
 
「………最悪、犠牲になるね」 
 
「犠牲って、呪いをなくす方法はないの?」 
 
「ないのだろう?あったら1000年間、何も手を講じぬ訳がない。竜尾が黒ダニに浸食され、獣人の住めぬ土地になるわけもなかろう?」私の問いにラッセルが口を挟む。 
 
「そうだよ、ラッセル。竜尾は、領地ガナルハントは子どもの増加が絶望的だった。だから、100年前の春、全ての黒ダニを一ヶ所に集めたんだよ」 

「それが、100年前の大厄災の真実か……」ラッセルの眉間の皺が更に深くなる。 
 
「酷いわ……知ってて、わざと襲わせるなんて!獣人を燃料だと思ってるから平気で見捨てられるのよ!」 
 
「平気じゃないよ!!―――私だって聖女だって、獣人をただの燃料だなんて、犠牲にしたいなんて、これっぽっちも思っていない!!」 
 
慟哭―――竜神は泣いていた。金色の瞳から美しい宝石のような涙を止めどなく流して。身を切られるように切々と語る。   
  
「………味方だったんだ唯一の!人間の奴隷だったのに、腕を折られて、目を潰されても……を召喚した人間の盾になってくれたんだ。最後は僕と聖女を牢屋から解放してくれた………本当は、燃料なんかにしたくなかった……友達で恩人で尊敬してたんだ。僕は一人でおうち安息の地を目指すつもりだったんだ。自分が力尽きるところまで………でも『俺達も安息の土地に連れていけ!運賃は燃料エネルギーとして払う。だから、背中に居座るぞ』って笑って言ってくれたんだ」 

 
 僕?透けた聖女の体にもう一人小さな男の子がダブって見えた。金色に発光する体を震わせ、顔をくしゃくしゃにして、大泣きしている。あれが本当のはくなの?  
 
 
 ああ、聖女と同じ、子ども……なんだわ、1000年経っても。 
  
「―――僕は、イヤだよ。ずっとずっと――1000年も友達を犠牲にして、飛んでるんだ」イヤイヤするように頭を降る。白い空間に嗚咽が木霊した。 

 なんて、悲しいんだろう?私だって生き物の命を頂き、ご飯を食べてる。白の場合それが友達の獣人のエネルギーだった。それを彼自身が一番罪悪感を感じているんだわ……。
  
胸がぎゅっと締め付けられ、切なくなる。 
 
「泣かないで……友達はきっと犠牲になったなんて思ってないから、あなたの事が好きだったのね…」 
  
 私は透明な体を抱き締めた。触れるなんて思っていなかったけど。体温も心音も感じないけど、包み込む事が出来た。 
  
 白は、驚き体を一瞬硬直させ私を見上げる。私がにっこり微笑むとおずおずと私の胸に顔を埋めた。優しく背中を擦ると震えながら啜り泣いた、小さな男の子に甘えられてるみたい。泣かないで欲しいって強く思った。きっと……始まりの獣人たちと同じ気持ち。  
  
 すりすりと頬を擦り寄せられて、ぎゅんと母性本能を鷲掴まれる。 
 そっと金色の頭を撫でた。サラサラと絹のような素晴らしい感触。 
 何故か後ろからラッセルの唸り声が聞こえる………竜神を威嚇するのは、どうかと思うわ領主様。  

「……ラッセル、泣いている子に唸らないでよ」ジト目で責めると、ラッセルはこれ見よがしにため息を付く。大人げない……。 
 
 
「……ありがとう。今回の孕み人は、かか様お母さんみたいだね」 
  
 暫く、泣いていた白がはにかみながら顔を上げた。それを待っていたようにラッセルが話始める。   
 
「………竜神よ。罪悪感をもたんでくれ。俺達獣人が竜の背に住めたことは幸いなのだ……俺たちは住処にエネルギーと言う税金を納めているようなものだ。税の分、獣人のより良い生活を補償する義務も招じるがな……竜神と獣人、お互い協力態勢を整え黒ダニ退治と子ども増加をめざそうではないか!」 
 
「……………領主ラッセル。僕を認めてくれて、協力すると言ってくれて……感謝するよ」 
 
「ああ!共に精進していこうぞ」
 慰めながら、諌めることも忘れていない。補償する義務に税金……ふふ、真面目なラッセルらしい表現かも……。 
 
税金か―――――そうだわ! 
 
「ねえ、提案なんだけど税金エネルギーは、稼ぎの良い獣人から多く取れば良いんじゃない?………私の住んでた国は、稼ぎによって税金が違ったわ!私とラッセルじゃ、基本的な体力エネルギーが違うでしょう?同じように税金エネルギー取られたら弱ってしまうわよ!体の弱い女の獣人からは取らない、もしくは少なく。ラッセルみたいに若く体力の有り余ってる男の獣人からは、沢山納めて貰うの!……そしたら、女の人凄~く助かると思うわ」 
  
 二回目の閨でラッセルに抱き潰されたのを思い出し、チラッとラッセルを盗み見る。体力有りすぎよ!意味が解った様子で、ばつが悪そうに頬を掻くラッセル。 

「エネルギー搾取量を個別に変えるのか……理には叶っているが……竜神よ調整は可能なのか?」 
  
「うーん。最初は、調整に時間が掛かるけど出来なくはないよ………でも、エネルギーの総摂取量が減少し過ぎると僕の高度は保てず、堕ちてしまう。子どもの増加が必須条件になるよ」 
  
「女性がエネルギーを取られず余裕があれば、外に出て活動出来るし、そしたら自ずと体力も増える。今の竜の背は女性に過保護過ぎるし、体力がつけば好きなことも出来るわ。好きな事が出来れば、体も心も健やかに元気になると思う……弱い体じゃなくなれば子も孕みやすくなるわよ!」 
  
 正直に言えば、直ぐに子どもの数が増えるとは思えない。でも、今の閉鎖的で子どもを産むのが全ての竜の背の状況は良くないわ。少しでも女の人が生きやすくなって欲しい。 
 
「竜神よ!ミサキも子作りに協力すると言っている!孕み人と俺の、強健な子が多く居れば大丈夫だろう?」ラッセルが私の肩に手を置き、豪胆に言い切った。 
   
ちょっとラッセル!私たちの子どもありきなの? 
白は私をじっと見つめると息を吐いた。 
    
「……君たち二人に言われたら何とかなりそうな気がするよ………了解した。ミサキの提案通り試してみるよ」 
 
「ありがとう、白!!」 
 
 嬉しくて、白の両手を掴んで握れば、物凄い速さでラッセルに手を引き離された。驚く白の手をラッセルが握りしめ「任せろ!」とブンブン振り回してた。


  
◇◇◇
  
   
 まだ解決していない問題、黒ダニ。ラッセルが重い口を開いた。 

「………竜神よ、協力してほしい………来春、白熊獣人ルカの領地アルメシアは黒ダニの急襲に耐えきれず蹂躙されるだろう。ルカの父親とは俺の父親の代から懇意だった。アルメシアを助けたいのだ………今でさえ半壊で回復まで経過が必要だ。更に子どもの増加は望めない。アルメシアを襲う黒ダニを全て我が領地バンローグで迎え撃ち殲滅させる!黒ダニを一ヶ所に集められるのだろう?領地と兵士の犠牲を最小限にし、黒ダニの討伐をしたいのだ」 
 
「領主ラッセル……アルメシアの身代わりになるつもりなのか?」 
 
「アルメシアをガナルハントの二の舞にしたくないのだ!アルメシアが墜ちれば次は俺の領地だろう、先手必勝だ!」ラッセルは好戦的にニヤリと笑う。 

「ラッセル、大丈夫なの?勝機はあるの?」 黒ダニを見たことのない私は不安でいっぱいだ。ラッセル勝てるの? 

「あるぞ!バンローグに巨大な穴を掘り、竜神の力で黒ダニを穴に集結させる……集結した黒ダニに聖水を直接浴びせてやるのだ。ダメージは与えられんが活動は停滞する。その時を狙い俺たちで一網打尽にしてやる!」 
  
 数多の魔物や黒ダニを屠ってきたんだろう、豪傑なラッセルが大変な意気込みだわ。 
黒ダニきっと大丈夫、何とかなりそう……いや、なって欲しいわ。 

「ラッセル………貴方は強いよ、逃げないんだね?……僕も出来る限り協力させてもらう。詳しい発生時期や数が解り次第、書簡を飛ばすよ。ラッセルも黒ダニを迎え撃つ、詳しい場所を教えてよ!僕も頑張って体を振るわせてダニを寄せるからね」 
  
 白は、キラキラの尊敬の目をラッセルに向けて、子どもみたいに無邪気に笑う。強い男は何時だって男の子の憧れなのね。
     

 
 
 ◇◇◇
 


「……そんで、佐藤くんに告白されて、ほら私って可愛いじゃん!こら、ミサキ聞いてるの?」 
 
「あ、聞いてるわよ!えっと、それで何て、告白されたの?」盛り上げるように聞くと聖女小娘はにんまりと笑い「ミサキの欲しがり~!!」とのたまう。はは、顔がひきつりそう。会社の接待みたいよ……。 
  
 白が聖女の体から去った後、聖女は不貞腐れまくっていた。「私の出番ないし、除け者にして作戦会議して狡いじゃん!」と喚く。 
 
 ご機嫌とりか、ラッセルが貢ぎ物を差し出した。バンローグでとれた食料や沢山のお酒やその他小物。聖女は、可愛い花模様の白い陶器が気に入りいそいそと部屋に運んでたわ。 
  
 慣れた手付きでラッセルが貢ぎ物を並べ出したので私も手伝う。食料が並ぶと聖女は嬉しそうに座り、ラッセルが白い小さな杯にお酒を注ぐ。 
 成る程、神の目様である聖女をもてなす仕来たりなのね! 聖女の許しを得て、私とラッセルもお相伴に預かる。久しぶりに飲むお酒は本当に美味しい。カッと焼くような喉越しが堪らないわ。 
 
 そういえば、バンローグでは一度も出なかったわね?神様の飲み物か何かで獣人は飲まないのかしら?  
 
「聖女よ、頼まれた蛇酒は今飲むのか?蛇獣人が好む強い酒だが大丈夫か?」 
   
「ダメダメダメ!後で部屋で飲むから貸して!」 
 ラッセルから奪い取るようにして部屋に運んで行く。ラッセルの視線は聖女に縫い止められたまま。 
 
「聖女が一人で飲むとは考えられんな……蛇領主が来るのかもしれん」  
    
 先ほど、白に獣人が燃料だと知る領主をラッセルは尋ねていた。亀領主マロヌスと蛇領主ザギヴだと言う。 
 
「確か、蛇領地は子どもの数が一番多いのよね……私、ジャミに教わったのよ」 
 
「…………そうだったな…やはり……そうなのか?」ラッセルは深く考え込んだ。領主の顔、お仕事モードのラッセルだわ。 
 
「ラッセル、何よー!辛気くさい顔してさ、もっと飲んでよ!!」部屋から戻った聖女がグイグイお酒をラッセルに勧める。   
 
「せ、聖女様!せっかくだから二人で、女子会しましょう!」 
 
「女子会って、ミサキおばさんじゃん?」 
1000歳越えてるくせにと、言いたいけど、ぐっと飲み込む。 
   
「聖女様、可愛いからモテたでしょ?恋バナ聞きたいな~!ね?お願い!」 
 
「うーん。まあ、ミサキがそこまで私の話、聞きたいなら良いわ!女子会しましょう!ラッセルはもう、客間に帰って良いわよ!」 
 シッシと手を振り、ラッセルを追い払う。ラッセルは私に目配せを送り客間に引っ込んだ。  


 聖女様は、人と話すのに飢えていた。幼稚園の頃から切々と自伝を語られる。 
 白が言ってた通りに魔術師たちに召喚され大変だったみたいだけど、そこらは辛いのか、話したがらない。 
  
 召喚される前の生活、家族や学校、友達、恋人の事。とりとめない普通にあった、当たり前だった生活を嬉しそうに語る聖女様。生意気な口調だけど可愛いらしい彼女は娘に重なる。       
   
 お酒は美味しく、甘口で飲みやすい。ついつい飲み過ぎてお互いに呂律が回らなくなり、ふらふらな聖女を部屋に送ると私も客間に向かった。 
  
 部屋の天井が歪み、千鳥足で大きな白いダブルベッドまでたどり着くとベッドの端を、大きな黒い抱き枕が占拠していた。 
 
「はへ~。抱きたくら、おっきー」 
 私は何も考えられない。汗がくっつき不快な服を脱ぎすて、ショーツ一枚になるとそのふかふかな抱き枕を抱え込み休んだ。
 


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