ドドメ色の君~子作りのために召喚された私~

豆丸

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捨てる sideザキウ

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 英雄タナトスは禁を犯した。 
  
 個体数が極端に少ないラッセル達黒豹獣人に許される兄弟姉妹婚は、蛇獣人では禁忌だ。
  
 領民に知れ渡れば彼の輝かし功績は地に堕ち、狂い判断力の乏しい妹を孕ませた、鬼畜と謗られる。 
 タナトスからか、母からか……どちらから手を出したのかは、問題ではない。タナトスも唯の男だったと言うことか。 
  
 いや……始めから母が欲しくて、前領主ダナウから救出したのだろうか? 
 少なからずタナトスを尊敬していた俺は僅かに動揺した。 
 
 俺はタナトスに選択肢を与えた。今すぐ愛しいラナごと腹の子を殺し、権力と名声を守るか……。 
  
 それとも引退しラナと僻地で暮らし、産まれた子供を俺の子と偽り次期領主として育て、ラナと子供を守るか……と。 
 
 タナトスは俺の提案に理解出来ないという顔をした。 
「領主よ。なぜ私とラナの子をザキウ自分の子と偽るのか?」 
  
「……タナトスとラナが厭う呪われた顔の俺がダナウの血を残したいと思うか?……俺は子供は作らない」  
 
「しかしだ、古き始まりの蛇獣人の血が途絶えてしまう……」 
 
「こんな呪われた血は途絶えた方がいい」 
俺は吐き捨てるように言った。 
  
 タナトスが妹を犠牲にしてまで守りたかった領主の血筋を、当人が否定した。タナトスが俺の顔を否定したように……。   
タナトスは俺を虚ろな目で見上げた。
 
「外聞的には、俺の子供は産まれ領主の血筋は続く……問題ない」 
 
「………ないわけが」 
 
「ふん。禁を犯したのはタナトスお前だ。もうお前は英雄じゃない。俺の子供として育てれば、お腹の子を殺す必要も、タナトスの罪も隠蔽出来る」 
 
「……私は……」 
 罪を突きつけられタナトスは呻く。もう清廉潔白な英雄では居られない。  

  
 タナトスは罪を重ね、母と子供を守ることを選んだ。辻褄を合わせる為、急ぎ俺はタナトスの部下の娘と結婚した。そして、直ぐ妊娠したとラナの住む僻地に下がらせた。 
  
 産まれた男子を俺の子と領民に知らせ、タナトスは高齢と俺の子を次期領主として養育する名目で僻地に更迭し、俺は二人を捨てれた。


領主として仕事も問題も山積みだが―――。 
 
重苦しい霧が晴れた……そんな気がした。
 
 
   
 ◇◇◇ 
 
 
 
「ザギウ、今週も来たわけ~?蛇領主は暇々なんだね~?」重苦しい空気を吹き飛ばすかのような、能天気な聖女の声。 
 
「………暇ではない。傷跡が疼くんだ。お前が完璧な治療をしないからだ」 
 
「ヤダー!また私の責任にして、マジ受けるんですけど~!魂まで溶けちゃう瘴気浴びて、生きてるだけでもあざーすーじゃん!」 
 
「あ、ざす?………確か…お前の世界の…感謝の言葉だったか?」 
 
「そうそう!感謝、感謝は大事よ。ザギウも私に感謝することねー!」
   
「……感謝などするか」 
 
「えー!ひどっ!約束の地について私が本気聖女様パワー取り戻したら、凄すぎて腰を抜かすことになるわよ!」 

「フンっ………約束の地。そんな夢物語。獣人を都合よく使うための竜神の戯れ言だ。本当は存在しないのだろう?」 

「はあ?白ちゃんがるって言ったら、在るのよ!」聖女は俺を睨むが、幼い顔立ちの為か怖くない。 
 
「……滑稽な顔で睨むな」 
「こ、滑稽とはなによー!!」  

 言い争そう俺と聖女を唖然と見ていた人間ミサキは緩やかに笑みを浮かべた。 
「あら、意外に…大丈夫そうねラッセル?」 
 
「……そうだな」 
 
「………何が言いたい」 
 俺が舌を出し眼孔鋭く睨んでも、ミサキという人間はもう怯まず、口許に笑みを浮かべたまま俺に言った。  
 
「私、勘違いしてたわ……ザキウさんが、薬を作ったわけじゃないのね?」 
  
「……領主の俺が薬を作れるわけがない。あれはアポロ商会から買ったものだ」俺は睨み続けた。
 
「ザキウ!ミサキを睨むな!」 
 ラッセルは相変わらず人間を庇う。黒豹獣人は単純で羨ましい、たいした寵愛ぶりだ。
 
「ラッセルありがとう、大丈夫よ!……それより聖女様、治療をするんでしょ?」 
 
「聖女よ、夕刻間近だ。」    
 
「ヤダ!もうすぐタイムリミットじゃん、忘れてた~。ミサキ、体借りるわよ!」 
 聖女が人間ミサキに手を伸ばすと、二人は手と手を絡め繋いだ。  
  
 
「――――っ!」    
 触れられないはずの聖女に触れた。俺が驚き息を飲む間に、光とともに聖女の透明な肢体が人間ミサキと合わさり一つになる。

  
 『さぁ、治療を始めるわよ~!!』 
 
  
 暴力的な迄に、神々しい聖女の光。清浄な癒しの光に圧倒される。 
 ミサキの体を借りた聖女の手が俺の傷跡一つ一つに触れ、優しくなぞる。 
 跡など始めから無かったかのように丁寧に、丁寧に治療を施す……。
  

 俺の中に、熱が、欲が蓄積する。 
 もっと、飽きるほど聖女に触れられたい……触れたい。 
 今まで、飲み込んできた狂おしい激情が濁流とかして流れた。 

 俺は手を伸ばし、聖女の頬に触れた。 
  

 
 
 
◆◆◆ 


 
 黄昏時、豪華な調度品の部屋の明かりもつけず少女は一人泣き続ける。 
 ベッドの上で体を丸めてうずくまれば、満月のように膨らんだ産み月のお腹が見えた。 

――いや。 
―――いやだ、獣人の子なんて、卵なんか産みたくない。
 
帰りたいよ……。 
ママ、パパ会いたいよ。 
私、竜の背になんか来たくなかった。

彼女は、絶望に震える。  

 幼い彼女を保護した領主は、姿はおぞましかったが兄のように、優しく接してくれた。 
  
 彼女が納得するまで待つと約束したのに……子を熱望する周囲が其を許してくれなかった。無理やり体を開かれた、恐怖を屈辱を彼女は忘れないだろう。
  
 泣き続ける彼女の後ろに、黒い霧が表れた。霧はだんだん濃くなり人の形を模した。禍々しい黒い塊。それは黒いローブを纏った魔術師のようにも見えた。 

「……ひっ!」 
「ソナタの絶望は心地良い」  

 魔術師は、恐怖に悲鳴すらあげられない彼女を飲み込んだ。  
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