元奴隷で暗殺者のあたしは閨の見守り係

豆丸

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思い違いの行き着く先は?

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 あたしは手に入れた青い細工のナイフをうっとり眺め、枕元に置いてうたた寝をした。夕方の勤務時には姫に見せてあげられる。 
 口淫した顎がまだ痛く、眠りは浅かった。ジェリコの陰茎は大きすぎた。はた迷惑なことに。

 
 西日が傾き始めた夕刻。
 身支度を整え姫の侍女仕事に加わろうと優雅に廊下を急ぐ。あたしの姫は今のこの時間帯、カーティス王と来月開かれる友好国との晩餐会の最終打ち合わせをしている。 

 会議室の扉を小さく叩き、お許しを頂いてから入室した。机の上には会場図が置かれ、それを挟んであたしの姫とカーティス様が談笑していた。
 涼しい青紫の目に銀糸のさらりとした髪を一つに束ねた。胡散臭い髭を蓄えた見目麗しい美丈夫であらせられるカーティス様。本当に似合わない髭、会うたびに姫の為にむしりとりたい衝動に刈られる。
 
 その後ろには仏頂面の近衛騎士ジェリコが佇む。

「まあ、キーファ。遅くまで休憩して頂いて大丈夫でしたのに、寝不足でしょう?」 
 あたしの優しい姫はたおやかに微笑む。 
 ああ、姫。なんてお優しい。天使。

「お気遣いありがとうございます」 
 あたしは寝不足をおくびにも出さず侍女の微笑みを浮かべた。 

 その時、カーティス様の後ろに控えていたジェリコがかつかつと歩き出すと、あたしの前に立ち塞がった。凄みのかかった顔であたしを見下ろす。姫とカーティス様が驚き、あたしとジェリコを交互に見た。

「ハ、ハルトマン様?どうされましたか?」 
 唐突な行動にあたしも驚いた。内心の動揺を隠しつつ尋ねた。

「大変だ!隈が出来てる。直ちに医務室に連れていく」ジェリコはそう言うと、あたしの手首を掴んだ。手首が折れそうな位、力強い握力で。

「い、痛いですわ。ハルトマン様、私は大丈夫です。お離しください!」 
 
「大丈夫じゃない!俺の責任だ!俺が無理をさせた」 
 ジェリコは顔に後悔を滲ませて、とんでもない台詞を口走った。
 この木偶の坊、口外しないと言う約束はどうしたと言うのか?今すぐ襟首掴んで問いただしたい。 

「まあ!もしかしてキーファとジェリコ様は責任を取る関係ですの?わたくし少しも知りませんでしたわ!第三部の主人公期待できますの?」  
 姫は、可愛らしい頬をぽっと薔薇色に染めた。

「打診はしていたが、おまえたちいつの間にそんな深い仲になっていたんだ?」  
 カーティス様は髭を撫で、腹がたつほどにやけた顔をした。  

「ハルトマン様、お二人が勘違いしているようですわ」 
 手を振り払い鋭く睨むと、ジェリコははっとした顔をした。  

「御前で取り乱し、誠に申し訳ありません」 
 律儀なジェリコは騎士の礼を取った。 

「いいよ、気にするな幼馴染みよ…で、何があったんだ?」  
 カーティス様は、にやけ顔はそのままに逃がさないのばかりにジェリコに質問した。姫は期待に瞳を輝かせる。
 あたしには口止めされ、カーティス様には虚偽を報告したくないジェリコはただ押し黙る。 

「私とハルトマン様が深い仲など有り得ませんわ。お二人が期待するようなことは何もありませんでした」何も言えないジェリコの代わりにあたしがカーティス様に答える。 

 「ほう……何もなかったね?」   
 カーティス様は胡散臭い笑みを深め、じとりとあたしを見つめた。全てを見透かすようなこの目が苦手だわ。
 
「ええ、何もございません」 
 控えめに微笑む。
 カーティス様はあたしの主人じゃない。嘘をついても良心は痛まない。  

「……何もないと、キーファは言っているが?ジェリコからことの詳細を聞かせてくれ、お前は俺の片腕だ。てっきり俺の真意を汲んで先回りしてくれたと思っていたが違うのか?」 
 獲物を狙った蛇のような狡猾さでジェリコを問い詰める。 

 僅かな沈黙のあと。

「……俺とキーファは……深い仲ではありません…」 
 下を向き、苦しそうにジェリコは言葉を紡ぐ。
 
 そうよ、あたしたちはそんな関係じゃないわ。口淫したのはナイフの為だもの。あたしはジェリコの答えに頷き肯定した。 

「……まだ」 

 えっ?まだ? 

「今は……浅い仲ですが、いずれ深い仲に成れるよう王の期待に添えるよう努力します」深々とジェリコは頭を下げた。 

 ーーなっ! 
 あ、浅い中ってなに? 
 確かに口止めした内容は一つも話してはいないけど、あたしとジェリコの関係を否定していないじゃない!!あたしは心のなかで盛大に頭を抱えた。 


「わたくし急ぎすぎていましたわ。キーファとジェリコ様はこれから、ゆっくり愛を育んでいくのですね!」姫はうっとりとした顔をした。 

「まだ、浅い仲と言うのが堅物のお前らしいが、二人の婚姻、話を進めてよいのだな?」 
 満足そうに髭を撫でるカーティス王。 

「はい!俺自身を望み、一番だと言ってくれたキーファとなら共に歩んで行けそうです」  
 ジェリコが真剣な顔で大きくて頷いた。 

「キーファが幸せならわたくしは大賛成ですわ」 
 あたしの姫が微笑む。

「ちょっと、お待ちになってください。婚姻と言うのは、どなたとどなたですか?」  

 嘘よね?
 話の流れ的には理解していたが、脳が処理してくれない。恐る恐る聞く。 

「俺とキーファのだ」 
 当たり前とばかりにジェリコはきっぱり言った。

「お前たちが婚姻して二人に子が産まれれば、問題だった正妃の乳母探しも解決し、次世代を担う忠臣の育成も出来る。良いことつくしだな~」 
 カーティス様の場違いな高笑いが聞こえた。 

「まあ、キーファが乳母に成ってくださるなんて夢のようですわ!念願の第三部主人公にも会えますし、ハッピーエンド!ハッピーエンドですわ!」  
 よほど嬉しいのか、姫はあたし両手を握るとその場で跳び跳ねた。喜ぶ姫はこの上なく可愛らしかった。  

 のちにカーティス様は、あたしとジェリコをくっつけようと閨の見守り係に任命したことを誇らし気に語っていたという。

 王の思惑通りで悔しいが、あたしは仕事に理解のある優しい旦那様とたくさんの子宝に恵まれた。姫の乳母として、ずっとお側に長く仕えることが出来た。 

終わり
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