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証拠
しおりを挟む「はあん。もう、嫉妬でお腹一杯ですわ。
二人のお関係は、わたしの想像通りの恋人同士なのですね?」
尋問される僕を鼻息荒く見ていた村長は、勘違いを爆発させた。
「ち、違います!」
瞬時に否定するザビーダ。
「僕は、いつでも恋人になりたいと思っているんですが……ザザは、奥手で全く手を出してくれないんですよ」哀愁を漂わせ、潤んだ瞳でザビーダを見つめた。はっとザビーダが息を飲む。
僕は、きゅっと自分の手首を掴み。触れてくれない切なさに耐える乙女を演じる。
「まあああっ!そうなんですの!
わたしに相談してくださるなら、良い策がありますよ!」
「村長っ!本当ですか?」
「ええっ!!貴方たち今夜泊まる予定の宿は引き払って、わたしの館に宿泊なさい」
「そんなっ!ご迷惑では?」
やった!作戦成功っ!!食い付いてきたぞ。
「迷惑なんてとんでもないですわ。貴方たちを特等席で観賞したいだけですわーっ」
村長は清々しいほど自分の欲に忠実な提案をした。
「ありがとうございます!お言葉に甘えさせて頂きます。
でも、女装祭りの投票を集めたいので一度商店街に戻り、夜に館に泊まりに伺うのでもいいですか?」
「あら?貴方たちの優勝で決まりよ」
村長はにっこりの人の悪い笑顔を浮かべた。
「え?」
「なっ」
僕とザビーダは、顔を見合せた。
成る程ね……投票っていうのは建前で実質は村長の独断と偏見で優勝者を決めているんだね。
「嬉しいです!優勝商品楽しみにしています」
何が言いたそうなザビーダを制し、僕はにっこり微笑んだ。
◇◇◇
「……うーん、あてが外れたね」
村長との晩餐後のお風呂上がり、肩にタオルを巻いたまま、僕は大きなダブルベッドに突っ伏した。ベッドサイドに置かれた水差しから水を飲む。
ああ、生き返るな。かたつむり獣人に水は重要だからね。
今居るのは、村長館の豪華な客間。
そして、着ているのは女性用のヒラヒラネグリジェ。前に小さいボタン。少し透け間があり色は淡いピンク。女装祭りは終わったのに村長に用意された服はこれだった。うん、徹底してるな彼女。
ザビーダは僕と交代でお風呂に案内されてたけど、彼も同じ服なのかな?
面白そう。ザビーダが慌てふためく様を見たいな。
それにしても、てっきり女装祭りの優勝者に『夏の夢華』が贈呈されると思っていたけど違ったね。
夕刻に行われた女装祭りの優勝者は、村長の通達通り僕達だった。
僕達に贈呈されたのは、この町の近くで採れる高価な珍しい魔石と野菜などの特産品。言い逃れ出来ない禁止媚薬の贈呈現場を押さえようと後援部隊を待機させていたのに、徒労に終わってしまった。
そんな簡単にしっぽを出さないね。館に宿泊出来たからな~、ここは気持ちを切り替えて、隙を見て媚薬を探そう。
思案しつつ、ベッドの上をごろりと転がる。
部屋の周囲に見張りは気配はしない。用心しないとなんだけど。
あーっ、疲れた!
ガイダルからフロリアズ村まで強行軍だった。
ふかふかベッドの魅力に瞼が落ちてくる。部屋の周囲に見張りの気配はしない。用心しないだね。
ベッドサイドに置かれた水差しから水を飲もうと頭部から隠していた触覚を伸ばした。
ちゃぷんと触覚を水につけた。
ああ、生き返るな。かたつむり獣人に水は重要だからね。ゆるりと触覚を動かす。2つある触覚のうち小触角は、においを感じる感覚器、大触角は、味を感じる感覚器がある。
僕の優秀な触覚は、僅かに感じる甘味と花のような匂いを察知した。
………水に何か混ぜられてる。
慌てて、触覚を水差しから引き抜く。
ほんの少しの摂取だけで……体がカッと火照る。
ふう、暑い。室内は熱くないはずなのに、息苦しい。じとり汗が滲む。下半身がじくじく疼き、陰茎が立ち上がってきた。乳首もびりびりする。
「はあ、んっ」
これは……媚薬?
もしかして、夏の夢華か。
……村長、僕に良い策があるって言ってたのは、このことか!
媚薬で発情して無理矢理思いを遂げろって、強引だよ。ニッチェな趣味の村長は発想がぶっ飛んでるね。
「でも、あっ。す、凄いなぁ」
もどかしく内股を擦り合わせて、硬い陰茎を扱きたい欲望に駆られ、快楽に溺れてしまいたくなる。
僕はくっと、唇を噛むと集中し体内に入った余分な水分(媚薬)をドロリとした粘液と共に体外に排出させた。かたつむり獣人だから出来る解毒方法。
ネグリジェごと、ドロリとした粘液まみれ。ただでさえ薄い布が、肌にぴったり張り付き、うっすら乳首が見える。太ももにくっついた布は立ってしまった陰茎の形を際立たせる。
僕、今、もの凄い、卑猥な状態だよね。誘ってると思われても仕方ない。側に誰も居なくて良かったよ。
まあ、村長が夏の夢華を使用してる物的証拠が手に入ったし、痛みわけかな。
僕はノロノロとかたつむりらしく動くと水差しを持ち上げた。粘液で滑らないよう慎重に。
自分のアイテムボックスの中から似た形、材質の花瓶を持ち出すと媚薬入りの水差しとすり替え収納した。
帰りがけに手が滑ったとわざと割って壊して仕舞えば、些細な違いはわからないだろう。
ザビーダが、お風呂から戻ったら経緯を説明しておこう。帰ってくる前に粘液を落とさないとだから、客間のシャワーでも浴びようかな。
粘液で上手く進めないので床を這って動く。ぬるぬるっ、ペタンと滑り床に頭から突っ伏し、お尻だせ高く上がっている状態に。
我ながら情けない。
まあ、僕かたつむりだし仕方ないね。
「………っ、くっ、先輩っ」
ゆらりと僕の背後にザビーダがいた。這うことに夢中で気づくのが遅れた。
「あっ、ザビーダお帰り」
いつの間にお風呂から帰ってきたのだろう?首だけ後ろを向けて出迎える。濡れて肌の透けるお尻をつき出した、変な姿でごめんよ。
うっっと唸るザビーダは、下を向いたままで顔が伺えない。大木のように立ち尽くしていた。
彼は僕よりしっかりした生地の水色の足首までの長いネグリジェを着ていた。透け間はなく清楚に見える。
そこから覗く、日焼けした首筋や腕が真っ赤に染まり、もうもうと湯気が立ち上っていた。
「……どれだけ長風呂したんだ、体、赤いぞ大丈夫か?……って、お前……」
ザビーダのスカートを押し上げる股間の頂きを見て、僕の視線は固定された。
で、出かい。
「くっ、はっ、先輩ぃ。っ、すいません」
顔を上げた苦しそうなザビーダを見てやっと僕はその可能性に気づいた。
僕が媚薬を盛られたのだ、ザビーダだって盛られるだろうと。
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