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恐ろしい組み合わせ
しおりを挟む「誰だ!」
真夜中過ぎ、一人用の狭いテントの中で、上半身を起こし騎士モーシャスは枕元の剣を構えた。
「んーっ」
テントの入り口から這って侵入してきたのは、同期で好敵手でもある女騎士のキアナだった。
森の奥でトイレを済ませた彼女の、瞼は開いておらず、ふらりと重心が傾く。今にも寝落ちしそうで、かなり寝ぼけていた。
「キアナか?……お前のテントは、隣だ。間違えたな」
魔物ではなく、知り合いの侵入に抜きかけた剣を置いた。
周りから次期副隊長候補と囁かれ、何かと比べられる二人。
好敵手でも、自分はしがない子爵貴族の次男坊。偉大な竜殺しの前将軍を祖父にもつ、コイツに命を狙われる理由はないだろう。
「ふにゃ、お祖父様?」
キアナは焦点の合わない瞳で、モーシャスを見上げた。
いつもの新人に激を飛ばす気の強い、つり目の紺碧の瞳が甘えるように垂れ下がり幼い印象を与えた。
頭にきつく結んだ髪は寝るために垂らされ、肩にさらりと靡く。
ボーッとだらしなく開いた口、涎の跡さえ見えた。腰に剣を佩いてもいない。無防備な様子にモーシャスは顔をしかめた。
キアナらしくないな……と。
疲労と寝不足+お酒ほど恐ろしい組み合わせはない。
それらは、モーシャスやキアナを含むガイデル騎士団員の冷静な判断力と危機管理能力を奪い去っていた。
森の国ガイデルはその名の通り、前国土の3/2が森を占める。自然豊かな森は資材、食料、鉱石等々人々の生活に恩恵をもたらす一方で、危険な魔物の住みかにもなっていた。
その危険な魔物の数を減らし、主街路から遠ざけるため、ガイダル騎士団は一年の一度の掃討作戦を行っていた。
モーシャスとキアナの属する第3師団は森の東側を任されていた。
掃討作戦は、順調に進み3週間後には、主要道路から細い奥地に繋がる、ササマナ街道まで到達した。
街道には小さいながらもブナン宿場町があり奥地のエルフの国との中継地として、中々栄えていた。
先行部隊がブナンの北側の小高い丘に陣取るハイオークの群れを発見し、第3師団は騒然となった。
ブナン宿場町を蹂躙する計画なのか?
それとも……暮らしやすいこの地に集落でも作るつもりなのか。
どちらにしても、周辺の村の人間を惨殺し食料に、女は拐い犯され、子を産まされるだろう。
こん棒を振りかざし宿場町を目指す様子に、一刻の猶予もないと判断した師団長ラパスは、本部に援軍を要請するとハイオークの群れに奇襲を掛けた。英断だった。
第3師団一丸となり、文字通り死闘を繰り広げた。駆けつけた援軍も加わり1日がかりでハイオークの群れを殲滅させたのだった。
オーク殲滅に泣いて感謝したブナン宿場町人一同は、オークの血で汚れた騎士団にお風呂を用意し、食事、お酒を提供した。
町長は宿泊も勧めてくれたが、これ以上は他の宿泊客の迷惑になるからと辞退した。
団員たちは町の明かりが見える範囲の木々の間に、それぞれ一人用のテントを張り就寝した。
テントが各自一人用なのは、その昔大勢で巨大なテントで雑魚寝をしていたさい、魔法を使える魔物の精神攻撃により、テント内で殺し合いになった経験からである。
魔物避けのお香を焚くことも忘れず、余力のある援軍から見張りをたててもらった。
3週間に及ぶ掃討作戦と、1日がかりのオーク討伐。精魂つきた第3師団の騎士たちは泥のように深い眠りについたのだった。
一部……起きてしまった者を除いて。
モーシャスのテントの中で、寝惚けたままのキアナは、モーシャスの股関を見て一言囁いた。
「お祖父様、久しぶりにふかふかキンタ枕をしてください」
そう言うとモーシャスの大事な場所に頭をぽてっと乗せたのだった。
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