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逃の章
第5話 6月7日(逃亡生活五日目)
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「蘭ちゃん、ようやく安土城に着いたね」
「ええ、なんとか……って夜中じゃないですか!」
現在、6月7日に日付が変わった深夜のこと……。
「うーん、これ以上近付いたらさすがに取り押さえられるよね」
「当たり前です! そもそも信長様が、子供達と夕刻近くまで
*石合戦などして遊んでいたからでしょう」
「だって、久々で楽しかったんだもん」
「だってじゃありません!」
成利さんご立腹です。
石合戦とは二手に分かれて戦の真似事で、互いが石をぶつけ合うという
現代では到底考えられない遊びである。
実際、子供の頃の信長はこの遊びが好きだった(らしい)。
「じゃあ、とりあえず明日出直そうか」
「そうですね」
信長と成利はすごすごと安土城を離れ宿を探す事とした。
「こんな遅い時間帯に泊めてくれそうな所ありますかね?」
信長と成利は馬を引きながら歩く。
夜間に馬に乗り走っては不審者と見なされ、捕まるかもしれないからである。
「ん―最悪、野宿だね」
信長はあっけらかんと答えた。
「はあ、またですか……昨日もそうだったし。私はお風呂に入りたいです」
少しべた付く髪を触りながら成利は不服そうにする。
「頑張って探そう!」
気合を入れ直す信長。
少し気になった成利が信長に聞いた。
「時に信長様、その腰からぶら下げている長袋は刀ですか? 一体どこで……」
「ああ、コレね。今日遊んでた子供の父親が商人でね、譲ってもらったんだ。
武器でもないと、からまれた時に危ないでしょ。」
「また小判を使われたのですか?」
「うん、5両で譲ってくれた!」
「ご……5両! たかが、刀一本に5両! 信長様は貨幣の価値お分かりですか?」
信長のあまりにも金遣いの荒い信長に問い質す。
「いや、あんまり……まずかった?」
不安そうな顔で成利を見つめる信長。
「まずいに決まってます。そんな事ではすぐに無一文になってしまいますよ。
そうなれば、どなされるおつもりなんですか?」
成利はさらに信長に詰め寄る。
「う……そんな時は借りればいいかな?」
信長は長らく政務活動や金銭管理を影武者や側近の成利に任せっきりにし、
好き放題生活してきたため、貨幣の価値に無頓着であった。
もしかすると、信長が影武者を立てたのも好きなように自分の生活をしたいため
だけだったのかもしれない。
……成利は少しそう思った。
「典型的なダメ人間の思考ですね……」
成利はそう言うと、信長の懐をあさり小判の入った袋を没収した。
「もう貨幣は私が管理します。何か必要だと思ったら私に相談してください」
成利さんまたもご立腹です。
それからしばらくして、なんとか宿を探し当てた二人はやっと休息に入る。
思いの外疲れていた二人は、昼近くまでぐっすりと熟睡してしまった。
昼前にして
慌てて信長を起こした成利は、急いで身支度を済ませると二人は再度安土城へ向かった。
「ねえ、明智ちゃんいる?」
「馬鹿もの-!」
いきなり馴れ馴れしく門番に話しかける信長の後ろ頭を
成利は勢いよくパカ-ンと叩く。
「イテテ……何するのよ、らんちゃ……むぐっ」
信長の口を塞ぐように押しのけた成利が代わりに門番と話す。
「私、光秀様へ急報の知らせを告げるべく参った伝令の者です。
光秀様は在城でしょうか?」
門番は答えた。
「伝令が来るとは聞いておらぬ。本当に其方、伝令兵の者か?」
明らかに疑いの目を向ける門番。
「何せ急報であるため、突如こうして参った次第でございます」
「して、急報とは」
成利は少し考え答えた。
「えっと、きゅ、急報とは……。は、羽柴秀吉の軍勢が明智様を討伐せんとして
こちらへ向かっております」
苦し紛れに答えた成利の作り話であったが、実はこれが現実となる。
実際、6月7日に明智光秀は、秀吉軍が迫っているとの急報を受ける事となった。
「それは誠であるか? 数は? どの方面からじゃ?」
「詳しくは私めからお話致しまするゆえ、どうかお目通しを」
成利は深く頭を下げた。
「いや、すまぬ。せっかくの急報ありがたいが、明智様は現在坂本城にいらっしゃるのだ。
つい今朝ほどにはこちらにいらっしゃられたのだが……」
「えっ?」
「えっ?」
まさかの痛恨のすれ違いに言葉がかぶる信長と成利。
史実によると、6月7日より明智は居城の坂本城と安土城を行き来し
、政務を行ったとされている。
『三日天下』
続に明智光秀の代名詞となるこの言葉。
明智光秀の天下は実質三日で終わったとよく言われるが、歴史が得意でない人は
三日で明智は殺されてしまったと勘違いする人も多い。
三日天下とは明智光秀が実際に政務を行ったとされる三日間を指す言葉である。
この時、羽柴の強襲を知らない明智は税金免除や調停工作に力を入れていた。
信長と成利は、その後坂本城へ向かうも着いた頃にはまたも夜になっており、
明智と会う目的は果たせずに終わった。
一方その頃……羽柴秀吉は姫路城にて各地の武将に協力要請を行うと共に、兵士達に金銀をばら撒き士気を高めていた。
三日後の戦いに備えて。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
坂本城-安土城は、約80km程度です。(ルートにもよりますが……)
「ええ、なんとか……って夜中じゃないですか!」
現在、6月7日に日付が変わった深夜のこと……。
「うーん、これ以上近付いたらさすがに取り押さえられるよね」
「当たり前です! そもそも信長様が、子供達と夕刻近くまで
*石合戦などして遊んでいたからでしょう」
「だって、久々で楽しかったんだもん」
「だってじゃありません!」
成利さんご立腹です。
石合戦とは二手に分かれて戦の真似事で、互いが石をぶつけ合うという
現代では到底考えられない遊びである。
実際、子供の頃の信長はこの遊びが好きだった(らしい)。
「じゃあ、とりあえず明日出直そうか」
「そうですね」
信長と成利はすごすごと安土城を離れ宿を探す事とした。
「こんな遅い時間帯に泊めてくれそうな所ありますかね?」
信長と成利は馬を引きながら歩く。
夜間に馬に乗り走っては不審者と見なされ、捕まるかもしれないからである。
「ん―最悪、野宿だね」
信長はあっけらかんと答えた。
「はあ、またですか……昨日もそうだったし。私はお風呂に入りたいです」
少しべた付く髪を触りながら成利は不服そうにする。
「頑張って探そう!」
気合を入れ直す信長。
少し気になった成利が信長に聞いた。
「時に信長様、その腰からぶら下げている長袋は刀ですか? 一体どこで……」
「ああ、コレね。今日遊んでた子供の父親が商人でね、譲ってもらったんだ。
武器でもないと、からまれた時に危ないでしょ。」
「また小判を使われたのですか?」
「うん、5両で譲ってくれた!」
「ご……5両! たかが、刀一本に5両! 信長様は貨幣の価値お分かりですか?」
信長のあまりにも金遣いの荒い信長に問い質す。
「いや、あんまり……まずかった?」
不安そうな顔で成利を見つめる信長。
「まずいに決まってます。そんな事ではすぐに無一文になってしまいますよ。
そうなれば、どなされるおつもりなんですか?」
成利はさらに信長に詰め寄る。
「う……そんな時は借りればいいかな?」
信長は長らく政務活動や金銭管理を影武者や側近の成利に任せっきりにし、
好き放題生活してきたため、貨幣の価値に無頓着であった。
もしかすると、信長が影武者を立てたのも好きなように自分の生活をしたいため
だけだったのかもしれない。
……成利は少しそう思った。
「典型的なダメ人間の思考ですね……」
成利はそう言うと、信長の懐をあさり小判の入った袋を没収した。
「もう貨幣は私が管理します。何か必要だと思ったら私に相談してください」
成利さんまたもご立腹です。
それからしばらくして、なんとか宿を探し当てた二人はやっと休息に入る。
思いの外疲れていた二人は、昼近くまでぐっすりと熟睡してしまった。
昼前にして
慌てて信長を起こした成利は、急いで身支度を済ませると二人は再度安土城へ向かった。
「ねえ、明智ちゃんいる?」
「馬鹿もの-!」
いきなり馴れ馴れしく門番に話しかける信長の後ろ頭を
成利は勢いよくパカ-ンと叩く。
「イテテ……何するのよ、らんちゃ……むぐっ」
信長の口を塞ぐように押しのけた成利が代わりに門番と話す。
「私、光秀様へ急報の知らせを告げるべく参った伝令の者です。
光秀様は在城でしょうか?」
門番は答えた。
「伝令が来るとは聞いておらぬ。本当に其方、伝令兵の者か?」
明らかに疑いの目を向ける門番。
「何せ急報であるため、突如こうして参った次第でございます」
「して、急報とは」
成利は少し考え答えた。
「えっと、きゅ、急報とは……。は、羽柴秀吉の軍勢が明智様を討伐せんとして
こちらへ向かっております」
苦し紛れに答えた成利の作り話であったが、実はこれが現実となる。
実際、6月7日に明智光秀は、秀吉軍が迫っているとの急報を受ける事となった。
「それは誠であるか? 数は? どの方面からじゃ?」
「詳しくは私めからお話致しまするゆえ、どうかお目通しを」
成利は深く頭を下げた。
「いや、すまぬ。せっかくの急報ありがたいが、明智様は現在坂本城にいらっしゃるのだ。
つい今朝ほどにはこちらにいらっしゃられたのだが……」
「えっ?」
「えっ?」
まさかの痛恨のすれ違いに言葉がかぶる信長と成利。
史実によると、6月7日より明智は居城の坂本城と安土城を行き来し
、政務を行ったとされている。
『三日天下』
続に明智光秀の代名詞となるこの言葉。
明智光秀の天下は実質三日で終わったとよく言われるが、歴史が得意でない人は
三日で明智は殺されてしまったと勘違いする人も多い。
三日天下とは明智光秀が実際に政務を行ったとされる三日間を指す言葉である。
この時、羽柴の強襲を知らない明智は税金免除や調停工作に力を入れていた。
信長と成利は、その後坂本城へ向かうも着いた頃にはまたも夜になっており、
明智と会う目的は果たせずに終わった。
一方その頃……羽柴秀吉は姫路城にて各地の武将に協力要請を行うと共に、兵士達に金銀をばら撒き士気を高めていた。
三日後の戦いに備えて。
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坂本城-安土城は、約80km程度です。(ルートにもよりますが……)
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