母校に就職したら指導教官が大好きだった先生でした

風花鳴海

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1 はじまり

初めての職員会議

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「里見先生、大会議室ってどこ?」
「あ、会議の準備なら、一緒に行きます」
昨日、一般入試の合格発表があり、新年度にむけて、準備が急ピッチで進み出す。今日はその、キックオフミーティング的な会議、らしい。
平井先生とわたしの研修生コンビは、今朝、会議室の会場づくりを命じられたところだ。
平井先生とわたしは、新年度1年生の副担任に入ることが決まっている。大会議室は、新1年生の学年会議の会場だ。人生初の会議だ。
「席は10人分で、四角く机を並べる」
平井先生がマニュアルを読み上げる。マニュアルにしたがって机を並べ、椅子を2人で置いていく。
この学校では、新人は副担任を持つ以外の校務分掌は持たないことになっている。部活動の顧問もしない。授業に集中するための配慮だ。したがって、会議には、教員全員が対象となる全員会議と、学年ごとの担任副担任が集まる学年会議の2つにだけ出席することになる。
並べ終えた机を拭こうと、掃除用具入れに向かう。雑巾を出していると
「なんか、そういうとこ、先越されてんなって思う」
平井先生が唐突に言う。
「卒業生だと、どこに何があるのかとか、誰にも習わなくてもわかるんだよな、そこは正直、うらやましい」
あんなに授業がうまくて、わたしのうんと先を進んでいる平井先生にそんなことを言われ、戸惑う。
机も拭き終わり、手持ち無沙汰。でも、2人ともどこに座って良いかがわからず、とりあえず会議室の隅に並んで立つ。
「ところで、赤点の個人面談って何?」
「なんですか?急に」
「いやこないだ、模擬授業のあとに、数学は赤点とって個人面談してたとか言ってなかったっけ?」
言ったかも??
「中間テストとか期末テストで、赤点を一個でも取ると、担任に呼ばれて、個人面談をするんです。次のテストで赤点取らないためには、どうしたらいいかを2人で話し合うのが目的で」
「教科担任じゃなくて、クラス担任なの?」
「そうなんです。例えば、数学と世界史が赤点でも、面談はクラス担任1人が相手」
「つまり、クラス担任の方が生徒にとって合理的なわけか」
なるほど、と小さな声でつぶやいて、
「クラス担任って、責任重大なんだね」
意外にも、真面目なことを考えていて、ちょっと感心する。水谷先生がクラス担任だったのは、2年生の一年間だけだが、国語はずっと水谷先生だった。
水谷先生の国語の授業は、とにかく面白かった。といっても、笑える方の面白いではなく。言葉遣いは丁寧で、淡々と話すのに、この作品がどのように素晴らしいのかを話すときには、顔が赤くなるほど熱心に訴える。
中学時代は好きでも嫌いでもなかった国語がどんどん好きになったのは、教えるのが水谷先生だったから、だと思っている。
そして、水谷先生の授業が面白いのは、しっかりした教材研究に基づいているからで、今のわたしは、それに近づきたくてただ、もがいているところ。
「おー、きれいに会場出来てるなあ」
学年主任の相沢先生が入ってきた。続いて廣瀬先生、鈴木先生、水谷先生も。
「今年の一年生は、5クラス編成になります。1組は水谷先生、2組は鈴木先生、3組は廣瀬先生、4組は榊先生、5組は山下先生。副担任は、1組が米田先生、2組が島川先生、3組が里見先生、4組が平井先生、5組に相沢が入ります」
担任と副担任とは、別の教科の教員同士で組むことになっているので、指導教官のクラスの副担任には入らないのだ。
そこからクラス編成についての話し合いになる。学力や、スポーツの出来具合、出身中学、性格が明るい、おとなしい、クラスのリーダー格、控えめだがしっかりしているなどなど。入試のときに中学校から提出された内申書は、こういう場面で使うのだ。
担任たちの半ば生徒争奪戦のような話し合いを経て、新年度のクラスが決まっていく。偏りなく、どのクラスも似た力になるようにこうして話し合いで決めるのに、一月も経つと、クラスごとに個性が出てくるのは、なんとも不思議だ。
「じゃ、クラス編成が終わったので、今日の会議は終わります。平井先生と里見先生は、会場の片付けお願いしますね」
「はい」
「あ、それから里見先生は、片付けが終わったら、水谷先生と廣瀬先生と一緒に教頭先生のところへお願いします」
「えー、わたしもですか?」
廣瀬先生が不服そうな声を挙げる。
「そんな声出さない。あなた、里見先生のシスターなんでしょ」
「そうですけど、なんだろう。教頭先生に呼ばれるようなこと何もしてないんですけど」
「生徒じゃないんだから、説教ってことはないでしょう」
先生たちがドッと笑いながら、会議室を出て行く。椅子と机の片付けは、水谷先生と廣瀬先生も手伝ってくれて早く終わり、一緒に職員室に向かう。
「教頭先生、水谷、廣瀬、里見です」
机に向かって書き物をしている教頭先生に、水谷先生が声をかける。
「ありがとう。こちらへ」
面談室に4人で入る。生徒にとっては、個人面談の部屋。ここは教員たちのミーティングブースでもある。
「里見先生に、寮監をお願いできないかしら」
なぜか水谷先生が間髪入れずに
「ちょっと待ってください。新人は副担任以外の校務分掌を持たないはずですが」
反対らしい。
「ええ。ですが、里見先生は寮生出身ですし、今、独り暮らしだから、寮を住まいにしていただいても良いかもと思って」
「寮監だと、朝食、夕食は出るし、寮費も安いし、わたしも寮監だし、良いんじゃない?」
シスター廣瀬先生が手を握らんばかりの勢いですすめてくる。寮費が安い、はたしかに魅力的である。しかし
「あの、わたしに寮監が務まるでしょうか」
今、寮監は廣瀬先生と中西先生の2人が務めている。寮監はたしか二人体制だから、過剰人員では?とも思う。
「実はね、中西先生が今年御結婚を控えてらして、6月には寮監を辞めたいとおっしゃっているの。その後任についてほしいのよ」
「最初2ヶ月は引き継ぎ期間ということですか?」
なぜかこの話に乗り気でなさそうな水谷先生が聞く。
「2ヶ月の引き継ぎ期間のあとは、シスター廣瀬がちゃんと指導します。それに消灯時間まで、いろいろ何でも相談し放題ですよ」
「わかりました。僕はもう、反対しません」
水谷先生が賛成しなかったら、わたし、寮監になれないの??と不思議に思うけれど、
「教頭先生、わたし、寮監やってみます」
「そう。良かった。じゃあ、引っ越しの準備にかからないとね」
「無理してはダメですよ。荷造りとか、焦らないで」
「水谷先生、なんか過保護ですね」
廣瀬先生がからかうと、顔を赤くしてうつむいた。水谷先生にわたし、過保護にされてるのか。



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