母校に就職したら指導教官が大好きだった先生でした

風花鳴海

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1 はじまり

模擬授業

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「せっかくだから、平井先生にも参加していただきたいのですが」
水谷先生から声がかかる。里見先生がようやく最初の模擬授業をやるらしい。
平井のときに生徒役をしてもらったお返しなのか、お礼なのか。とにかく平井と2人で参加する、と返事をする。
里見先生はどうも随分不器用なタイプのようだ。数学の模擬授業のときの態度を見ていてもまあそれはわかるし、水谷先生も何かと手を焼いているとか。
それに反して、平井はとにかく器用なやつ。最初からなんでもソツなくこなしていく。挫折を知らず、常に良い成績をおさめてきた優等生。こういうのは、何かあったときに、ポキンといきやすくて、実は要注意なのだ。
そう思って、頭を小突いてみたり、重箱の隅をつつくように細かいミスを指摘しては叱りつけたり。だが、こっちの思惑など、平井にはすっかりお見通しで、むしろうまく誘導されているのは、自分のような気さえする、抜け目のなさがとても心配だ。
早いうちに自分の弱さを知り、それをさらしてもいい相手を見つけて、甘えるべきときには甘えられるようにしてやりたいと思っているのに、うまくいかないもんだ。
「里見先生、どんな授業するんすかね」
「お前、その言葉遣いもっとなんとかならんのか」
「どんなお授業なさるのでしょうか」
「ふざけてんのか」
頭を小突いてやる。今も、ワザと小突かれてやったと思っているんじゃないか。そんな疑いを持ってしまう自分に少し苛立つ。
「お忙しいのに、御参加くださって、ありがとうございます」
水谷先生がきれいなお辞儀で迎えてくれる。この先生はいつも言葉遣いも、立ち居振る舞いも美しい。なんでも出来る優等生といえば、この人に右に出る者はいない。なのに、ときに過剰とさえ見えるほど教頭から叱られているのが不可解だ。確かめるすべはないが、俺が平井を無理やり叱りつけているのと、理由は同じなのかもしれない。
「それでは、授業を始めます」
「もっと大きな声を出してください」
たしかに声は小さいが、途中で注意したら、萎縮するだろうに。
優等生水谷先生の弱点は、後輩指導なのか?というより、里見先生に対してやたら厳しくないか?パワハラとまではいかなくても、もうその辺で許してやったらどうか、とたった一週間の間に二度も止めに入ったというのは、何か尋常でないものを感じる。
授業の腰を折られた里見先生だがその後は、心配していたほど萎縮するでもなく、声のボリュームをほどよく上げて、進めていく。思っていたより。というより、随分落ち着いていて、わかりやすい授業だ。
「では、麦の秋の季語の季節はなんだと思いますか?鈴木さん」
俺を指すなとは言わなかったが、まさか当ててくるとは。苦笑いしつつ、ここは
「すみません。聞いてませんでした」
平井と水谷先生が噴き出す。
「あ、あのえっと、教科書23ページは開いてますか?」
「はい」
なんだ、一覧表になってるのか。
そのあとも淡々と授業は進む。だが淡々と、だな。メリハリの付け方を会得すれば多分グンと良くなるだろう。
きっちり五分前に終えて、反省会。これは、平井の模擬授業のときには出来なかった配慮だ。おそらく、できる男、水谷先生の差配だろう。
「まず、ここまで下がって黒板を見てください」
「あ」
「気がつきましたか。この書き方では、何が要点かどこを覚えて欲しいのかが全くわかりません。文字の大きさ、高さを変える。それとチョークの色を変えるときには、法則性を持たせる。赤と黄色とでは、どっちがより・・・」
随分細かく厳しいダメ出しがどんどん出て来る。里見、負けんな。
なに?平井が手を挙げている。
「せっかく最初に出させたのに、国語便覧使わなかったですよね、なんでですか」
お前がダメ出しすんな。
「あの、忘れました」
水谷先生もそんな怖い顔しないで。
「鈴木先生なにかありませんか?」
「淡々と、し過ぎてたかもなあ」
あ、フォロー入れてあげるつもりだったんだけど、ごめんな、里見。
でも、こういう研修中あんまり良くなかった奴ほど、あとで大化けするから、教師って面白いなと思う。まあ、水谷先生みたいに、最初からできて、今もできる奴もままいるけど。
「では、模擬授業を終わります。鈴木先生、平井先生、貴重なお時間ありがとうございました」
「ありがとうございました」
里見・水谷コンビに見送られて、廊下に出ると、すぐに説教が聞こえてくる。
「思ってたより、良かったっすよね、今の。なんであんな怒るんだろ」
お前何様だ。平井を小突きながら、念だけ送る。
里見、負けんな。
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