10 / 112
1 はじまり
模擬授業
しおりを挟む
「せっかくだから、平井先生にも参加していただきたいのですが」
水谷先生から声がかかる。里見先生がようやく最初の模擬授業をやるらしい。
平井のときに生徒役をしてもらったお返しなのか、お礼なのか。とにかく平井と2人で参加する、と返事をする。
里見先生はどうも随分不器用なタイプのようだ。数学の模擬授業のときの態度を見ていてもまあそれはわかるし、水谷先生も何かと手を焼いているとか。
それに反して、平井はとにかく器用なやつ。最初からなんでもソツなくこなしていく。挫折を知らず、常に良い成績をおさめてきた優等生。こういうのは、何かあったときに、ポキンといきやすくて、実は要注意なのだ。
そう思って、頭を小突いてみたり、重箱の隅をつつくように細かいミスを指摘しては叱りつけたり。だが、こっちの思惑など、平井にはすっかりお見通しで、むしろうまく誘導されているのは、自分のような気さえする、抜け目のなさがとても心配だ。
早いうちに自分の弱さを知り、それをさらしてもいい相手を見つけて、甘えるべきときには甘えられるようにしてやりたいと思っているのに、うまくいかないもんだ。
「里見先生、どんな授業するんすかね」
「お前、その言葉遣いもっとなんとかならんのか」
「どんなお授業なさるのでしょうか」
「ふざけてんのか」
頭を小突いてやる。今も、ワザと小突かれてやったと思っているんじゃないか。そんな疑いを持ってしまう自分に少し苛立つ。
「お忙しいのに、御参加くださって、ありがとうございます」
水谷先生がきれいなお辞儀で迎えてくれる。この先生はいつも言葉遣いも、立ち居振る舞いも美しい。なんでも出来る優等生といえば、この人に右に出る者はいない。なのに、ときに過剰とさえ見えるほど教頭から叱られているのが不可解だ。確かめるすべはないが、俺が平井を無理やり叱りつけているのと、理由は同じなのかもしれない。
「それでは、授業を始めます」
「もっと大きな声を出してください」
たしかに声は小さいが、途中で注意したら、萎縮するだろうに。
優等生水谷先生の弱点は、後輩指導なのか?というより、里見先生に対してやたら厳しくないか?パワハラとまではいかなくても、もうその辺で許してやったらどうか、とたった一週間の間に二度も止めに入ったというのは、何か尋常でないものを感じる。
授業の腰を折られた里見先生だがその後は、心配していたほど萎縮するでもなく、声のボリュームをほどよく上げて、進めていく。思っていたより。というより、随分落ち着いていて、わかりやすい授業だ。
「では、麦の秋の季語の季節はなんだと思いますか?鈴木さん」
俺を指すなとは言わなかったが、まさか当ててくるとは。苦笑いしつつ、ここは
「すみません。聞いてませんでした」
平井と水谷先生が噴き出す。
「あ、あのえっと、教科書23ページは開いてますか?」
「はい」
なんだ、一覧表になってるのか。
そのあとも淡々と授業は進む。だが淡々と、だな。メリハリの付け方を会得すれば多分グンと良くなるだろう。
きっちり五分前に終えて、反省会。これは、平井の模擬授業のときには出来なかった配慮だ。おそらく、できる男、水谷先生の差配だろう。
「まず、ここまで下がって黒板を見てください」
「あ」
「気がつきましたか。この書き方では、何が要点かどこを覚えて欲しいのかが全くわかりません。文字の大きさ、高さを変える。それとチョークの色を変えるときには、法則性を持たせる。赤と黄色とでは、どっちがより・・・」
随分細かく厳しいダメ出しがどんどん出て来る。里見、負けんな。
なに?平井が手を挙げている。
「せっかく最初に出させたのに、国語便覧使わなかったですよね、なんでですか」
お前がダメ出しすんな。
「あの、忘れました」
水谷先生もそんな怖い顔しないで。
「鈴木先生なにかありませんか?」
「淡々と、し過ぎてたかもなあ」
あ、フォロー入れてあげるつもりだったんだけど、ごめんな、里見。
でも、こういう研修中あんまり良くなかった奴ほど、あとで大化けするから、教師って面白いなと思う。まあ、水谷先生みたいに、最初からできて、今もできる奴もままいるけど。
「では、模擬授業を終わります。鈴木先生、平井先生、貴重なお時間ありがとうございました」
「ありがとうございました」
里見・水谷コンビに見送られて、廊下に出ると、すぐに説教が聞こえてくる。
「思ってたより、良かったっすよね、今の。なんであんな怒るんだろ」
お前何様だ。平井を小突きながら、念だけ送る。
里見、負けんな。
水谷先生から声がかかる。里見先生がようやく最初の模擬授業をやるらしい。
平井のときに生徒役をしてもらったお返しなのか、お礼なのか。とにかく平井と2人で参加する、と返事をする。
里見先生はどうも随分不器用なタイプのようだ。数学の模擬授業のときの態度を見ていてもまあそれはわかるし、水谷先生も何かと手を焼いているとか。
それに反して、平井はとにかく器用なやつ。最初からなんでもソツなくこなしていく。挫折を知らず、常に良い成績をおさめてきた優等生。こういうのは、何かあったときに、ポキンといきやすくて、実は要注意なのだ。
そう思って、頭を小突いてみたり、重箱の隅をつつくように細かいミスを指摘しては叱りつけたり。だが、こっちの思惑など、平井にはすっかりお見通しで、むしろうまく誘導されているのは、自分のような気さえする、抜け目のなさがとても心配だ。
早いうちに自分の弱さを知り、それをさらしてもいい相手を見つけて、甘えるべきときには甘えられるようにしてやりたいと思っているのに、うまくいかないもんだ。
「里見先生、どんな授業するんすかね」
「お前、その言葉遣いもっとなんとかならんのか」
「どんなお授業なさるのでしょうか」
「ふざけてんのか」
頭を小突いてやる。今も、ワザと小突かれてやったと思っているんじゃないか。そんな疑いを持ってしまう自分に少し苛立つ。
「お忙しいのに、御参加くださって、ありがとうございます」
水谷先生がきれいなお辞儀で迎えてくれる。この先生はいつも言葉遣いも、立ち居振る舞いも美しい。なんでも出来る優等生といえば、この人に右に出る者はいない。なのに、ときに過剰とさえ見えるほど教頭から叱られているのが不可解だ。確かめるすべはないが、俺が平井を無理やり叱りつけているのと、理由は同じなのかもしれない。
「それでは、授業を始めます」
「もっと大きな声を出してください」
たしかに声は小さいが、途中で注意したら、萎縮するだろうに。
優等生水谷先生の弱点は、後輩指導なのか?というより、里見先生に対してやたら厳しくないか?パワハラとまではいかなくても、もうその辺で許してやったらどうか、とたった一週間の間に二度も止めに入ったというのは、何か尋常でないものを感じる。
授業の腰を折られた里見先生だがその後は、心配していたほど萎縮するでもなく、声のボリュームをほどよく上げて、進めていく。思っていたより。というより、随分落ち着いていて、わかりやすい授業だ。
「では、麦の秋の季語の季節はなんだと思いますか?鈴木さん」
俺を指すなとは言わなかったが、まさか当ててくるとは。苦笑いしつつ、ここは
「すみません。聞いてませんでした」
平井と水谷先生が噴き出す。
「あ、あのえっと、教科書23ページは開いてますか?」
「はい」
なんだ、一覧表になってるのか。
そのあとも淡々と授業は進む。だが淡々と、だな。メリハリの付け方を会得すれば多分グンと良くなるだろう。
きっちり五分前に終えて、反省会。これは、平井の模擬授業のときには出来なかった配慮だ。おそらく、できる男、水谷先生の差配だろう。
「まず、ここまで下がって黒板を見てください」
「あ」
「気がつきましたか。この書き方では、何が要点かどこを覚えて欲しいのかが全くわかりません。文字の大きさ、高さを変える。それとチョークの色を変えるときには、法則性を持たせる。赤と黄色とでは、どっちがより・・・」
随分細かく厳しいダメ出しがどんどん出て来る。里見、負けんな。
なに?平井が手を挙げている。
「せっかく最初に出させたのに、国語便覧使わなかったですよね、なんでですか」
お前がダメ出しすんな。
「あの、忘れました」
水谷先生もそんな怖い顔しないで。
「鈴木先生なにかありませんか?」
「淡々と、し過ぎてたかもなあ」
あ、フォロー入れてあげるつもりだったんだけど、ごめんな、里見。
でも、こういう研修中あんまり良くなかった奴ほど、あとで大化けするから、教師って面白いなと思う。まあ、水谷先生みたいに、最初からできて、今もできる奴もままいるけど。
「では、模擬授業を終わります。鈴木先生、平井先生、貴重なお時間ありがとうございました」
「ありがとうございました」
里見・水谷コンビに見送られて、廊下に出ると、すぐに説教が聞こえてくる。
「思ってたより、良かったっすよね、今の。なんであんな怒るんだろ」
お前何様だ。平井を小突きながら、念だけ送る。
里見、負けんな。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
兄様達の愛が止まりません!
桜
恋愛
五歳の時、私と兄は父の兄である叔父に助けられた。
そう、私達の両親がニ歳の時事故で亡くなった途端、親類に屋敷を乗っ取られて、離れに閉じ込められた。
屋敷に勤めてくれていた者達はほぼ全員解雇され、一部残された者が密かに私達を庇ってくれていたのだ。
やがて、領内や屋敷周辺に魔物や魔獣被害が出だし、私と兄、そして唯一の保護をしてくれた侍女のみとなり、死の危険性があると心配した者が叔父に助けを求めてくれた。
無事に保護された私達は、叔父が全力で守るからと連れ出し、養子にしてくれたのだ。
叔父の家には二人の兄がいた。
そこで、私は思い出したんだ。双子の兄が時折話していた不思議な話と、何故か自分に映像に流れて来た不思議な世界を、そして、私は…
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる