母校に就職したら指導教官が大好きだった先生でした

風花鳴海

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1 はじまり

初めての週末

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研修が始まって初めての週末。アパートの契約は月末までだから、とりあえず当面の衣類と、化粧道具だけキャリーケースに詰め込んで、寮に持って行くことにする。本格的な引っ越しは、再来週に予約が取れている。
寮監になると、朝食、夕食は寮食が出るから、調理道具はいらなくなるし、部屋には家具もついてたから、この際いろいろ捨ててしまおう。
大学の4年間を過ごしたこのアパート。家電や机、ベッド、タンスは部屋の付属品だったからこのままだし、今、段ボールにつめている、本、衣類だけが荷物。今日中に荷造りは終われそうだ。
中学から聖白雪に入って、中学の三年間は親もこっちに住んでたから自宅生、高校1年の二学期に父が転勤になってからは、寮生。親が転勤族なおかげで、モノはあまり持たず、いつでも引っ越しできるように暮らしていたのが、今になって役立っている。
白雪の寮は、女子校の寮らしく門限があって、事前の届け出がないときには18時、届け出があれば19時。学校を出て寮までの間には寄り道するようなお店もないので、真っ直ぐ帰るしかなく、さほど厳しいとは思っていなかった。したがって、門限破りをしたことはなかったし、破った人を見たこともない。
一応寮則はあって、破ると一週間掃除当番とか、給食当番とか、バツも決まってたらしいけど、わたしが在寮してたころは、みんな真面目だったし、罰当番している人も見たことがない。そもそもどんな規則があったのか、忘れてしまった。
親元を離れて暮らす寮生のために、と、寮監たちが誕生日とか、クリスマスとか、夏祭りとか。ときどきいろんなパーティーを開いてくれて、楽しませてくれていた。
それと、落ち込んで帰った日、熱っぽい朝。家族みたいにどうしたの?って声をかけてくれて。悩んでいるときには、こっちから何も言わないのに、ちょっとお話ししよっか、って声をかけてくれた。あんなふうに、一人一人の生徒を見られるだろうか。わたしに生徒のケアができるだろうか。
水谷先生との個人面談で泣いてしまったあの日。寮監の中西先生は、わたしが落ち着くまでずっと背中をさすってくれた。中西先生にだけ、本当はこんなひどい成績とって、水谷先生に嫌われるんじゃないかと思ったら悲しくなって泣いた、なんて本当のことを打ち明けてしまったけど、それくらい先生のことを、信頼してたんだろうな。
水谷先生は、今のこんなわたしじゃ寮監は無理だと思って反対したんだろうな。たしかに、すごいポンコツだもん。
この一週間。水谷先生の笑った顔って、平井先生の模擬授業を受ける前の、すごく意地悪なやつしか見てない気がする。
高校時代の先生は、どちらかというと、いつも微笑んでいて、顔を見るだけで安心できたのに、今は怒ったような顔しか見せてくれない。それだけわたしの出来が悪いってことなんだろう。結局まだ一回しか模擬授業にたどり着いてないし、それだってダメ出しの嵐だったし。
部屋を片付けながら、思考がマイナスに向いていることに気付く。頭を軽く振って、気持ちを切り替える。
「この週末は、何か予定があるのですか?」
「来週から寮で暮らして良いそうなので、当面の荷物を取りにアパートに行くつもりです。引っ越しの荷造りもしようかと」
「それは土曜日にしてください。土曜日から寮に泊まれるよう僕からお願いしておきますから、日曜日は1日ゆっくりして、しっかり休んでください」
急になんの話だろう?昨日の研修終わり際、水谷先生からこう言われた。
「一週間、慣れないことばかりしていたので、自分が思っている以上に疲れがたまっています。この先ずっと教師生活は続きますから、上手に疲れをとることも覚えていってください」
険のない顔でふんわり言われると、なんだか戸惑う。
「返事は?」
「あ、はい」
「では、研修第一週を終わります。お疲れ様でした」
「ありがとうございました」
最後はいつもの鬼教官。きりっと引き締まった顔に戻って昨日は終わった。
この一週間、その前までの人生で叱られた回数以上に叱られたんじゃないかと思う。自分がダメダメなことはわかっているけど、さすがに凹む。おまけに、同期の平井先生はどんどん先に行ってしまうし。
研修最終日は、理事長や教頭も交えての模擬授業。うーん。頑張ろっと。



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