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1 はじまり
初めての週末(水谷編)
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洗濯機をまわして、布団を干し、部屋に掃除機をかける。母が教頭兼寮監になった中学生のときから、週末の家事メニューは変わらない。
その間、母は台所に立って、一週間の夕食を作り置き。冷凍庫から出してレンチンして、器に盛り付けるだけで済むように、週末一気に仕込んでしまう。
「冴子さん、今日は映画でも見に行きませんか」
「まあ、午後からで良いですか?」
父が母を誘っている。いくつになっても恋人同士のような2人だから、当時学園の理事長だった祖父が、新人教師同士だった2人を勝手に結婚相手だと決めた、と聞いたときには心底驚いた。
「お二人で外でランチしてきてください。僕は自分で適当に済ませますから」
「潤もそろそろデートのお相手を見つけたらどうだ」
「お義父さまみたいに、あなたがお決めになったら?」
「もうそんな時代じゃないだろう。今、あれをやったら、ただのパワハラだな」
僕そっちのけで、2人の会話になっている。まあ、よろしくやってください。
学校は、存外出会いの少ない職場だ。学校と家との往復の毎日に出会いがあるはずもない。
世の中の恋愛結婚のなかの多くの割合を占めているのは、職場結婚だそうだ。理事長と教頭が夫婦だからなのか、うちの学校には、他に職場結婚カップルが3組もいるが、おそらく他の学校では、考えられないことだろう。
洗濯物を干して、布団を裏返す。母が多忙な分、うちは男性陣も家事をこなす。父も実は一通りの家事が出来て、レンチンする母の料理にあう付け合わせをパパッと作って出してくれることもある。
昼は蕎麦でも茹でるか。鍋を2つ出して、まず出汁を作る。3月初めはまだ肌寒く、温かい物が食べたい。
鈴木先生から昨日言われたことを考えてみる。
「平井はね、本当は水谷先生に似てると思うんだよ。何でも出来て、隙がない。だから心配なんだ。自分の弱さを出せるようにしてやりたいんだけど、ガードが鉄壁で、難攻不落だ」
「僕が何でも出来るとは思いませんが、平井先生はたしかに、ちょっとガードが高そうではありますね」
「逆に里見ちゃんは、ガードが低すぎる。自己評価が低すぎるんだな。水谷先生、ちゃんと褒めて育ててる?」
「なんでかな。生徒相手なら、出来るのに。里見ちゃんは、褒められて伸びる子だよ、もっと褒めてあげないと」
この一週間、里見先生を指導してきて、どうしても叱りすぎてしまう自分に気付いてはいた。なぜか苛立つ自分の気持ちを抑えきれないのだ。里見さんならもっと出来るはずだ。心の中で思っているのに、なぜか怒りに似た感情が沸き起こって、やり直し。の一言だけで返してしまう。この不思議な苛立ちに、自分で対処しきれていないのだ。
蕎麦のゆで汁がふきこぼれて、我に帰る。次の週はもっと褒めてやろう。
その間、母は台所に立って、一週間の夕食を作り置き。冷凍庫から出してレンチンして、器に盛り付けるだけで済むように、週末一気に仕込んでしまう。
「冴子さん、今日は映画でも見に行きませんか」
「まあ、午後からで良いですか?」
父が母を誘っている。いくつになっても恋人同士のような2人だから、当時学園の理事長だった祖父が、新人教師同士だった2人を勝手に結婚相手だと決めた、と聞いたときには心底驚いた。
「お二人で外でランチしてきてください。僕は自分で適当に済ませますから」
「潤もそろそろデートのお相手を見つけたらどうだ」
「お義父さまみたいに、あなたがお決めになったら?」
「もうそんな時代じゃないだろう。今、あれをやったら、ただのパワハラだな」
僕そっちのけで、2人の会話になっている。まあ、よろしくやってください。
学校は、存外出会いの少ない職場だ。学校と家との往復の毎日に出会いがあるはずもない。
世の中の恋愛結婚のなかの多くの割合を占めているのは、職場結婚だそうだ。理事長と教頭が夫婦だからなのか、うちの学校には、他に職場結婚カップルが3組もいるが、おそらく他の学校では、考えられないことだろう。
洗濯物を干して、布団を裏返す。母が多忙な分、うちは男性陣も家事をこなす。父も実は一通りの家事が出来て、レンチンする母の料理にあう付け合わせをパパッと作って出してくれることもある。
昼は蕎麦でも茹でるか。鍋を2つ出して、まず出汁を作る。3月初めはまだ肌寒く、温かい物が食べたい。
鈴木先生から昨日言われたことを考えてみる。
「平井はね、本当は水谷先生に似てると思うんだよ。何でも出来て、隙がない。だから心配なんだ。自分の弱さを出せるようにしてやりたいんだけど、ガードが鉄壁で、難攻不落だ」
「僕が何でも出来るとは思いませんが、平井先生はたしかに、ちょっとガードが高そうではありますね」
「逆に里見ちゃんは、ガードが低すぎる。自己評価が低すぎるんだな。水谷先生、ちゃんと褒めて育ててる?」
「なんでかな。生徒相手なら、出来るのに。里見ちゃんは、褒められて伸びる子だよ、もっと褒めてあげないと」
この一週間、里見先生を指導してきて、どうしても叱りすぎてしまう自分に気付いてはいた。なぜか苛立つ自分の気持ちを抑えきれないのだ。里見さんならもっと出来るはずだ。心の中で思っているのに、なぜか怒りに似た感情が沸き起こって、やり直し。の一言だけで返してしまう。この不思議な苛立ちに、自分で対処しきれていないのだ。
蕎麦のゆで汁がふきこぼれて、我に帰る。次の週はもっと褒めてやろう。
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