母校に就職したら指導教官が大好きだった先生でした

風花鳴海

文字の大きさ
21 / 112
2 新年度スタート

平井の秘密

しおりを挟む
あれ?電気ついてる。
「ただいま」
「おかえりー」
「先輩、今日早いっすね」
「うん。先生にたまには早く帰れって、研究室追い出されちゃった」
大学入学から住んでる、超オンボロアパートは、築60年の2DKで、家賃月4万円。古いし、煤けた畳敷きだけど、二部屋あるし、広さが気に入って、今年7年目になった。
そして、この4月から大学院の先輩とルームシェアしている。
先輩は俺の一コ上。学部3年の春、初めて研究室に入ったら、先輩がホワイトボードに数式を一心に書き付けていた。
きれいな数式
見とれてただ、突っ立ってたら、
「3年生?先生なら講義だよ」
俺に背中を向けて数式を書きながら言った。
「あ、えっと、誰かいるから、研究室の使い方聞いてもいいって言われて」
「ごめん。ちょっと今いいとこなんで」
そのまま2人とも何も言わず。でも、俺は先輩の書くホワイトボードから目が離せなかった。
もともと数学しか得意なものがなくて、大学を選ぶときに数学科を受験した。なんとなく大学に通い、人並みに彼女つくって遊んで、でもちゃっかり単位は取って、一番人気のゼミに入れるだけの成績はとれていた。
「うーん」
大きく伸びをして、先輩が振り返る。
「いたの?」
「はい」
「この辺からなんか違うような気はしてるんだけど」
またホワイトボードを向いてしまう。
「ね、ここ、どう思う?」
「えっ。俺わかんねっす」
「先生早く帰ってこないかなあ」
一瞬しか見れなかったけど、かわいい。すげーかわいい顔して、あんな問題解くんだ。
さっき話しかけてくれたんだから、俺がいることに気付いているはず。なのに、まるで無視して数式だけを見ている。
その横顔と、先輩の書いた美しい数式に、俺は一目惚れしてしまった。
ときどき研究室で会うけど、いつも、先輩の目には数式しかなくて。でも俺は、先輩と、先輩の手が生み出す数式をずっと見ていたくて、研究室に入り浸った。
先輩が就活してないことに気付いたのは5月くらいか。
「わたし院行くから、就活はしないの」
俺は、先輩と先輩の数式を眺める毎日を続けたくて、院に進んだ。
ところが。
院に進んですぐ、4月の初め頃。いつものように研究室に現れた俺に、先生が万札を渡して
「平井くん、すまんがこれでケーキ買ってきて。人数分ね」
「わー。今日のおやつ豪華っすね」
「おやつじゃないよ。藤原さんの就職内定のお祝いだ」
先輩は、いつものフレアスカートじゃなく、ちょっとタイトな黒いスカートをはいて。これって、リクルートスーツってやつだよなあ。
先輩が就活してたこと、俺は全然知らなかった。博士課程に進んで、昨日と同じように、先輩と先輩の数式を眺める生活が続くと思っていたのに、先輩は、結構大手のIT企業から内定をもぎ取っていた。
それから、毎日俺は、先輩を説得した。
俺は先輩が書く数式ほど美しい数式を見たことがない。先輩ほどの才能の人が、研究を続けないなんて、世界の数学界の損失だ。
何度も何度も言ったけど、先輩は、相変わらずホワイトボードを向いたまま、
「気持ちは嬉しいけど、」
決して先輩は、博士課程に進むとは言ってくれない。
研究室に先生と二人きりになったある日、俺はつい先生に文句を言った。
「藤原さんみたいな才能の持ち主をなんで就職させるんすか?」
先生は、コーヒーを一口、ゆっくり飲んでから言った。
「そりゃ、僕だってもったいないと思ってるよ。でも、経済的理由だと言われてしまうと、もう」
経済的理由なのか。
俺は、先輩に研究を続けてもらうために、ある作戦を立てた。
俺のアパートでルームシェア作戦である。
絶対に手を出しません。先輩が嫌がることはしません。だから、俺とルームシェアしてください。そしたら、家賃たったの月2万だし。
顔を合わせるたびに言うと、ストーカーっぽいかも、と思って、ときどき。ときには冗談っぽく、ときには真剣に俺はこの提案を繰り返して、先輩から毎回断られ続けた。
そしてとうとう、ある日ケンカになった。
「そんなこと言ったって、平井くんだって親のスネカジリじゃない」
「じゃ、一年待っててください。そしたら俺就職して、ちゃんと自分で家賃払います。それだったらルームシェアしてくれるんですね」
不思議とそれにもう先輩は反論せず、でも、3月には卒業して、社会人になってしまった。
修士2年の夏、俺は就活に成功して聖白雪の教師になることが決まった。先輩にそれを伝えて、とうとう、ルームシェアに同意を取り付けたのだ。
絶対に先輩に手を出さない
俺も研究を続ける
家賃、高熱水費、食費は折半
鉄の掟を決めて、ようやく俺たちはシェアメイトになり、先輩は4月に博士課程に進んだ。

「煮物でよかったら、一緒に食べない?」
「もちろん食います。あざーっす」
先輩は、めちゃくちゃ料理が上手い。煮物とか特に。
「先輩、俺ら婚姻届出しません?」
「は?なに言ってんの」
「住所は一緒だし、届出せば、扶養手当もらえるじゃないすか。そしたら、先輩バイトもっと減らして、研究に打ち込めるんじゃないかって思って」
「そんなの、詐欺じゃない。ダメよ」
「いや、ほら、ほとんど愛情とかない仮面夫婦みたいなんでも、扶養手当ては出るんだから、一緒じゃないすか」
「平井くん」
今日はここが退き際。
「ごめんなさい、ごめんなさい。もう言いません」
俺は頑張ってふざけて、話を無理やり終わりにする。
俺はズルい。好きとか付き合いたいとか、一回も告ってないから、先輩は俺を振ることが出来ない。それがわかってて、ときどき揺さぶっている。
でも、マジな話になって、先輩に本気で断られるのが、とにかく怖くて、俺はずっとふざけている。
本当は、本当の意味で結婚したい、とおもっているのに。

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

兄様達の愛が止まりません!

恋愛
五歳の時、私と兄は父の兄である叔父に助けられた。 そう、私達の両親がニ歳の時事故で亡くなった途端、親類に屋敷を乗っ取られて、離れに閉じ込められた。 屋敷に勤めてくれていた者達はほぼ全員解雇され、一部残された者が密かに私達を庇ってくれていたのだ。 やがて、領内や屋敷周辺に魔物や魔獣被害が出だし、私と兄、そして唯一の保護をしてくれた侍女のみとなり、死の危険性があると心配した者が叔父に助けを求めてくれた。 無事に保護された私達は、叔父が全力で守るからと連れ出し、養子にしてくれたのだ。 叔父の家には二人の兄がいた。 そこで、私は思い出したんだ。双子の兄が時折話していた不思議な話と、何故か自分に映像に流れて来た不思議な世界を、そして、私は…

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。

処理中です...