母校に就職したら指導教官が大好きだった先生でした

風花鳴海

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3 ひと皮むけて

鬼の研究会議?

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もしかしたら。史上初、無風の会議になるんじゃないか。
平井の授業がうまいのは、まあ知っていたけれど、里見があそこまでうまくなってるとは予想外。水谷先生が特訓したとはいえ、徐々に里見も、持ち味を出せるようになってきている。
「水谷先生、里見、うまくなりましたね」
「メリハリ、つきました?」
研修の模擬授業のこと、覚えてるのか。たしかに要点が際立っていたし、なにより、生徒が良い目をしていた。
「あんまり言うと、会議で言うことなくなっちゃうんで」
「そうですね」
ロの字に組まれた会議机。黒板を背にした中央の机には、平井と里見が並んで座り、平井の隣に俺、里見の隣には水谷先生が座る。会議の仕切りは教頭だ。
「お集まりの先生方、只今より研究会議を始めます」
ピリッと空気が引き締まる。
「研究授業を受けて、ご発言を」
ぱっと手を挙げたのは、国語科主任。
「お二人とも良いお授業でした」
ニッコリ2人を見る。
「特に、平井先生のゲームで始まる授業は、本校では初めての試みだと思います。生徒が本当に楽しんで授業に向かう姿勢が出来ていたと思います。ナイスアイデアです」
「ありがとうございます」
食い気味に平井がお礼を言って、ドッと笑いが起きる。
「あれ、発言しちゃだめなんですか?」
困惑した顔をして小さな声で平井が聞いてくる。
「いや。いいよ。普通にしゃべれ」
「里見先生も、良いお授業でした。特に、俳諧が産まれた時代背景、文学史的流れの説明があると、俳句というものに興味がわきますね。」
「はい。ありがとうございます」
里見もとても嬉しそうだ。里見はあの無邪気さが良い。
概ね誉め言葉ばかりが出て来る。たしかに2人の授業は誉めるべきポイントが非常に多かったが、少し締めるところもないと。
「司会からよろしいでしょうか」
教頭が発言するのは珍しい。みんな、どうぞ、と頷く。
「里見先生、平井先生ともに、とても良い授業でした。ただ、ここはプラスしてほしい、ここは修正してほしい、というところもぜひ見つけてください」
ちらほらと、ひねり出したような意見が出る。たまには、手放しで誉めて終わる日があってもいいんじゃないか。そう思ったそのとき。
「はい」
里見が手を挙げる。
「里見先生、どうぞ」
「あの。わたしの授業を聞いて、生徒は俳句を好きになってくれたでしょうか」
意外な質問に会議室が笑いに包まれる。笑われて顔を赤くしながら、里見が続ける。
「俳句って、高価な道具がいるわけでもないし、好きになったら一生楽しんでいける、一番お手軽な文学だと思うんです。それでいて、奥が深くて、一生かけても誰もが名人になれるわけではないし。そういう素晴らしい文学だ、っていうことに生徒に気づいてもらいたいなって思うんですけど、そこはわたしの授業で出来ていましたか」
意外なまでに深い質問に一堂シンとする。
「はい」
え。平井、お前大丈夫か。
「俺、一回授業聞いただけじゃそこまでは無理じゃないかと思います」
生意気に厳しいこと言う。
「でも、里見先生が俳句好きなんだな、ってのは、すごく伝わってました」
お前は生徒かっ。案の定、ドッと笑いが起こる。
「僕からでもいいですか?」
水谷先生が手を挙げている。どうぞ、と促されて立ち上がる。
「生徒が俳句を好きになったかどうかは、生徒に聞くしかないと思います。作品の鑑賞法や、句をつくる上でのルールについてはきちんと伝わる授業になっていたので、評価の段階で、それをはかる工夫をしてみたらいいんじゃないかと思います」
「はい」
前代未聞、白雪史上初の、痛烈なダメ出しのない会議が終わった。
「里見先生、平井先生、今夜はご褒美の焼き肉だな」
「はい。もう、嬉しくて」
里見が、本当に嬉しそうに言う。それを見て、水谷先生はニコニコしている。
里見と平井が会議室の片付けを始めたので、水谷先生を廊下にそっと誘い出す。
「デートのお邪魔じゃなかったか?」
「は?」
「焼き肉。本当はデートじゃなかったのか?」
「いえ。このところ、頑張ったご褒美です。平井先生も誘えて良かったですよ」
芝居でも皮肉でも何でもなさそう。なので、廣瀬に頼まれていた件を、ここできちんと言うことにする。
「水谷先生、女性と2人で食事に行くのには、それなりの覚悟をしてください」
「覚悟ですか?」
「焼き肉デートって、かなり親しい男女がするもんなんですよ」
「そうなんですか?」
かなり驚いている様子。
「里見にもそういう意識はなさそうなので、今回はお邪魔しましたが。もし、2人で焼き肉しているところを生徒が見たら、誤解しか産まない、と」
「申し訳ありません」
いつものキッチリとしたお辞儀で謝られるが、若干顔が赤い。
「廣瀬がとにかく、廣瀬が気にしてましたんで、お伝えしました」
片付けの手伝いに会議室に入ると、水谷先生も慌ててついてくる。本当に、2人きりで行きたかったわけじゃないよな。俺は、馬に蹴られて死にたくはない。
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