母校に就職したら指導教官が大好きだった先生でした

風花鳴海

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3 ひと皮むけて

廣瀬からのお仕置き

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「水谷先生、今日の特訓なしでも良いですか」
放課後の職員室、水谷先生に声をかける。
「はい。このところ、指導案のストックもだいぶ出来てきましたし、お休みにしても大丈夫です」
「じゃ里見先生、今日、お仕置き決行ね」
かねてからの計画を今日は実行しよう。なんとなく、試験も研究授業も終わった今日が良い。
「廣瀬先生、わかっておられるとは思いますが、体罰は犯罪ですから」
水谷先生が生真面目にわたしに忠告してくる。
「あー。もしかして、わたしが里見先生のお尻をペンペンするとでも思ってらっしゃる?」
「違うんですか」
「違うんですか」
里見先生と声がかぶる。水谷先生はたぶんわたしの冗談に悪ノリしているだけだが、あっちはどうやら、本気で怯えていたようだ。
「人を叩くのは暴行罪、怪我をさせたら傷害罪。そのくらいの常識は弁えてます。わたし、犯罪者になる気はサラサラないんで」
「じゃ、お仕置きってなんですか」
「それ言っちゃうと面白くないじゃないですか。明日、里見先生の報告を待っていてください。じゃ、帰るよ」
「はい」
お先失礼しまーす。2人で肩を並べて出て行く。水谷先生が多少心配そうな顔をしているけれど、大丈夫。大事な妹を傷つけたりはしませんて。

寮の資料倉庫。ここに歴代寮生の反省文が全部保管してあることに気がついたのは、春休みのこと。読んでみると、なかなか示唆に富む内容のものもあり、年代別に箱に入れられているのを、ファイリングしたくなった。
白雪の反省文は、なんらかの不都合があった場合に、その原因を究明し、再発防止につなげるために書くもの。寮生の反省文のほとんどは、同室の者同士のケンカによるもので、ケンカの理由も実にたわいもないものばかり。だが、再発防止策のなかには、人間関係を構築していく上で役に立ちそうなものもあり、なかなか勉強になる。
そして、3年弱の寮生活を送った里見先生も、それなりの量、反省文を残していた。自分の過去の反省文を仕事としてファイリングするなんて、まあ、罰ゲーム以外の何物でもなかろう。そう思って、里見先生には、お仕置きだ、と言っておいたのだが。まさか体罰に怯えていたとは。らしいといえばらしいが、わたしのことどう思ってるのよ、とも思う。
「これを全部、ファイリングするんですかー」
箱を見ながら、どこか愛莉は嬉しそう。あなたは新しいものから、わたしは古いものからファイリングしていこう、と分担を言い渡して、早速作業にかかる。愛莉は多分すぐに自分の過去に当たるはずだ。
「これ、わたしのもあるんですよね。まさか、保管されてるとは思わなかったなあ」
「さっきからなんか嬉しそうだね」
「嬉しいっていうか、懐かしいですね。わたし、片付けが下手でよく同室の先輩に叱られて、反省文書いたんですよ」
「反省しても直らなかったんだね」
つい皮肉を言ってしまう。
「再発防止策がズレてたんでしょうね」
本当に懐かしそうな顔になってきたの見て、つい。2人で里見愛莉の反省文を読んでみることになる。これじゃ、お仕置きじゃなくて、ご褒美だな。
「先輩はいつも、わたしにひどいことを言った件を反省していたんですね。知らなかったなあ」
同室の2人の反省文は、同じ案件としてセットで保管されている。提出前に互いのを見せ合うことはなかったらしい。ひどいことを言った原因は、ついイラッとしてしまったこと。片付けが出来ない原因は、わからない。なるほど。
「今度から里見さんにイラッとしたら、深呼吸をします、だって。これ、水谷先生に教えてあげたら?」
「深呼吸したって鬼度は下がりませんよ。だってあれ、演技ですもん」
はっ?今なんつった?
「水谷先生は、本当はイラッとしてるとか、怒ってるとかじゃないんですよ。わたしがポンコツだから、あえて鬼を演じてわたしを引き締めてるだけで、感情的にガミガミやってるんじゃないんです」
へー。全然気がつかなかった。
「まー、演技でもこっちは本気で怖いですけど」
「ときどき泣いてるもんね。さ、作業しよう」
「はい」
2人で黙々と歴代の反省文にパンチ穴をあけて、ファイリング。今年の分は、どのくらいになるのだろう。
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