母校に就職したら指導教官が大好きだった先生でした

風花鳴海

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3 ひと皮むけて

廣瀬と榊

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「朝から騒がしいですねえ。あっちの新人たちは」
「今日は、珍しく榊先生まで騒がしいですね」
にこやかではあるけど、こっちは常に冷静。クールでおなじみ水谷先生は今日もまたお静かでいらっしゃる。
「で、里見先生はなぜ遅れているのですか?」
「夕べから、寮生に熱があって、病院に付き添ってます」
「そういう大事なことは、もっと早く教えていただきたかったですね」
「申し訳ありません」
水谷先生は音もなく動いて、もう教科主任と相談を始めている。さすがだ。授業に穴があくなら、フォローしないと。水谷先生の頭のなかはいつも、生徒第一。
にしても。なんでわたしが水谷先生に叱られなあかんのか。愛莉め。学校には自分で電話するって言ったくせに、結局忘れたな、あのド天然バカ。
水谷先生が、席に戻ってくる。
「里見先生には、欠勤や遅刻の連絡は本人がするものだと指導したはずでしたが」
「朝は自分で電話すると言ってましたから、単純に忘れたのではないかと」
「忘れるようなことでしょうか」
はあ、あきれた。とでも言うように溜め息をつく。愛莉が着いたらぜひ、その鬼のような冷たい目で、大いに叱りつけてやってくださいな。
「ところで、廣瀬先生は、いつまで寮監続けられるのですか」
何を急に?
「特にいつまで、とは決めてませんが」
「そうですか?来年御結婚されると伺いましたので」
あきらかに。あきらかにそのネタ元、榊だな。
朝のミーティングが始まり、里見先生はまだ到着しない。熱出した寮生と2人にするの、ちょっと心配だったけど、まあ、あの子も子どもじゃないんだし。
ミーティングが終わり、教室に向かう。目の前に榊がいる。
追い抜きざま、
「榊、放課後時間ある?」
と声をかける。
「ん?あるけどー?」
「じゃ、放課後、話ある」
「了解」

榊とわたしは、同期。大学も同じで、わたしが付き合ってる征吾と榊は友達。
征吾からプロポーズされたのは、この日曜日だから、さては、征吾、榊に相談してからプロポーズしたな?

「話ってなによ」
榊がジュース手渡しながら聞く。
「わたし、まだ征吾に返事してないけど。なんで水谷先生のなかで結婚することになっているのでしょうか」
「え。でも結婚するっしょ」
「だから、まだ決めてないって」
「何が問題なわけ?征吾、ちゃんと内定出たじゃん」
博士課程後期を出て、博士号をとっても、誰もが就職できるわけではない。いつからこの国は、学問にこんなにも薄情になったのか。
征吾は、このまま順調にいけば、博士号をとる。そして、とること前提で某研究所に正規の研究員として就職する内定が出た。こんな幸運を手に入れるなんて、征吾はめちゃくちゃ運がいい。そのタイミングでプロポーズしてきたのだ。
「仕事、続けたいんだ」
某研究所は、ここからずっと遠くにある。通える距離ではない。
征吾が、この近くで就職先を見つけようと、努力していたことは知ってる。でも、それは叶わず、やっと手にした職場がそこだった。
「なんで。お前が仕事辞めてついてくればいいじゃん」
征吾が言った一言に、わたしは多分傷ついた。
修士を出て、5年。寮監と、生徒指導部と、物理の授業。積み重ねてきたわたしの仕事を、辞めればいいじゃん、なんて軽い言葉で言ってほしくなかったのだ。
「征吾とケンカでもしたの?」
榊は優しい。新人の平井先生のことも、すごくよく面倒をみてやってる。
「廣瀬なら、あっち行って再就職って手もあるんじゃない?」
「わたしは、白雪で仕事を続けたいの」
榊が、もしかしたら初めてじゃないかな。すごく困った顔でわたしを見ている。
「俺は征吾のかわりじゃない」
立ち上がって、行ってしまう。わかってるよ。そんなこと。


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