母校に就職したら指導教官が大好きだった先生でした

風花鳴海

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3 ひと皮むけて

榊の叱り方

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珍しく榊先生が職員室で生徒を指導している。
「俺は授業中に内職されると、すごく凹む。だから、二度としないで欲しい」
「はい」
「じゃ、反省文提出な」
原稿用紙を数えて生徒に渡す。生徒は一礼して職員室を出て行った。ちょうど入ってきた廣瀬先生が
「ごめん、榊。今のわたしのクラスの子だよね」
あわてた様子で声をかける。
「うん。今日の五限目、数学やってたんで、文句言わせてもらいました」
「わー。わたしからも叱っとく。本当に申し訳ない」
「いや、いいよ。さっきので、たぶんわかってくれたと思うし。同じことを二人がかりでガミガミ言うの、よそう」
「そう?でも本当にごめんなさい」
廣瀬先生が深々と頭を下げる。榊先生は、うんと言いながらも、手元の書類に目を落としたまま手を振る。
「何かあったんですか?」
席に戻ってきた廣瀬先生に聞くと、なぜか落ち込んだ様子。
「うちのクラスの子が、榊の授業中、数学の内職してたみたいで」
すると、平井先生がこっちに来た。
「あの。榊先生には聞きづらかったんで、質問いいですか?」
「なに?」
廣瀬先生が不思議そうな顔で答える。
「さっきの、授業中内職してた生徒の指導なんですけど、榊先生なんか叱ってないっていうか」
「あー、先生モチベーション下がるからやめて、とかなんとか」
「はい。たしか凹むからやめて、つってました」
「なんでそんなこと言うかは、榊にしかわからない。わたしなら、授業中に、ほらそこ!内職しない!って注意して終わるし」
「はあ」
平井先生はあまり納得してないようす。
「内職してた生徒に、なんていうかを職員間で決めてるとかじゃないってことですか?」
「ていうか、生徒がこうしてたら、こう指導しましょう、みたいな通達、今までにあった?」
2人でフルフルっと首を横に振る。
「生徒への指導は、相手の生徒によって変わるのが当たり前だから、そこをマニュアル化するのは難しいですね」
水谷先生が横から。
「ですね」
と、平井先生が席に戻っていく。せっかくだからわたしも、榊先生に聞いてみたい。
「榊先生」
2人で一緒に声をかける。
「んー?なにー?」
パソコンに、ワンフレーズ打ち終えたタイミングで、顔を上げてくれる。
「なんか2人で用事?」
「あの、さっき、授業中内職してた生徒に、なんていうか、説教するのかなって思ったのに、そうじゃなかったんで、なんでかな、と思って」
平井先生、えらくストレートな。
「あー。俺さ、授業中寝られると、ごめん、俺の授業つまんないよね、って思うし、内職されると、俺の授業必要ないんだ、って思って凹むんだよね」
それは、まあ、わたしもそう思うけど。
「だから、生徒にはそう言うことにしてるだけ。寝てたけどつまんないよね、ごめんね、とか、凹むから内職しないで、とか」
「でも、あ、俺高校んとき、一回国語の授業中に英語の宿題しててすんげー怒られたことあって」
平井先生、突然の体験談。
「そんとき、今授業を聞かないとお前が損をする。授業中は、授業に集中しなさい、って叱られたんですよ」
榊先生は、苦笑いで。
「あるよなーそういうの。お前のために俺言ってやってんだ系の説教。俺、あれ超苦手」
コーヒーを一口飲んで、続ける。
「俺も新任のころは、そんな感じのこと言ってたんだけど、なんか違うなって思って。俺の授業聞くより大事だ、って生徒が思ってるんなら、やっぱりそれは、俺の授業が悪いんだなって思うし」
榊先生、すごく真面目。
「でも、生徒が世の中に出たときにさ、例えば会社の研修とかで、内職してたらそりゃマズいわけで、俺はなんでそれがマズいのかを教えることはしないとダメかなとは思うわけ。初めは、マナーとして、とか言ってたんだけど、でもそれって、なんか違うなって気がして。だって、俺は凹むからやめて欲しいわけで。だったら、素直にそう言おうかなって」
ピュアすぎる。榊先生、なに、乙女?
「俺、生徒指導するときは、ストレートに俺がこう感じたから、こうして欲しいって言うようにしてる。生徒のほうも、こうするべきだから、こうしなさい、って指導するより、素直に聞いてくれるような気もしてる」
なんか、とっても勉強になった。



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