母校に就職したら指導教官が大好きだった先生でした

風花鳴海

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5 飛び込む勇気

努力は必ず報われる?

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さっきから、多分里見先生は泣いている。
「もー。本当に愛莉ったら面白すぎでしょ」
廣瀬先生がニヤニヤしている。なんだろう。何があったのか。
たしか、夏の合宿研修に向けて、道徳の指導案を作っているらしいのに、何がそんなに泣けるのか。
「だって、良い話じゃないですかー」
「だからって、泣くほど良い話でもないでしょうに」
指導案を作る前に、高校生がこれまでどんな道徳教育を受けてきたのか、それを知るために中学までの教科書を一気読みして、感動して泣いていた。らしい。実に里見先生らしいが。なんだかその。ここはちょっと、と思っていたら、廣瀬先生が真面目な顔で切り出した。
「愛莉、あんたが感動するのは、まあ、想定内だとしてだけどね。生徒も感動して泣いたとは限らないからね」
そう。特に思春期は、偽善に敏感だ。作り話は作り話で、本当ではないことくらいすぐに見抜く。それが生徒というもの。
「あとさ。わたし、本当は道徳の教科書って、ねらいどおり教えてちゃダメだと思ってるんだよね」
おっ?
道徳の教科書のねらい。努力すれば必ず報われる。よい行いを積むことは良いことだ。しかし、世の中そうとは限らない。努力しても叶わない夢はあるし、自分が良いことだと思って行った行為が人を傷つけることもある。
「みんな優勝するのを夢見て甲子園行くんだよね。誰もが努力したら夢叶うんなら、全員甲子園行けなきゃいけないし、優勝しなくちゃおかしい。でも、もうこれ以上頑張れないとこまで頑張って練習したって、味方のエラーで予選で負けちゃうことだってあるじゃない」
廣瀬先生、良いこと言う。
「あ、それ。わたしも考えてたことあって」
ポツポツと里見先生が語り始める。
「努力したら夢は叶うって言うのって、なんか、あの」
言葉を探して探して。ゆっくり里見先生が話そうとするのを2人で待つ。
「夢の立て方がまちがってるんじゃないかなって。優勝ってどうしても相手があって果たす夢ですよね。自分の力でなんとか出来ることは夢に出来るけど、出来ないことは出来ないって言うか」
話しながら考えをまとめている。まとまるのを静かに待つ。
「夢の立て方。指導案は、夢の立て方で作りたいです」
一呼吸おいて。
「多分、とても難しいテーマですけれど、だからこそチャレンジする意義のある、良い授業テーマだと思います。合宿までに模擬授業やっても良いですね」
里見先生の夢ってなんだろう。どんな夢を持って教師になったのだろう。指導案が楽しみだ。
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