母校に就職したら指導教官が大好きだった先生でした

風花鳴海

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7 乗り越えられる

水谷と里見

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帰宅して少しホッとする時間。ダイニングのテーブルで紅茶を飲むこの数十分で、僕は教師の仮面を脱ぐ。
里見先生から電話だ。
「すみません。里見です。あの、少しお時間よろしいですか?」
「はい。今、自宅ですからどうぞ」
たった2泊3日の出張。その間は相棒である榊先生とコミュニケーションを密にとるよう、僕に相談したいことは、榊先生に相談するように。そう注意したはずだが。なのだが。
正直に言うと、かかってきたことが嬉しいと自分が感じていることに気がつき、恥ずかしくなる。
「あの。明日、安宅さんのところに伺うので」
「そうでしたね。よろしくお伝えください」
「安宅さん自身のことをお聞きしていなかったな、と思いまして」
明日、里見先生が訪ねるのは、僕の大学時代の先輩。旅行先の博物館で学芸員をしている女性だ。博物館は、その土地の文化財について調査研究をする機関。修学旅行で生徒にその地の文化財に触れて欲しいと思い、下見で安宅さんを訪ねて、アドバイスをもらうことにしていたのだ。
「とても、優しい方ですし、里見先生だけで行くことになったことは、僕からも連絡してありますから」
「はい。あの、先生は、何をお聞きになりたいと思っていらっしゃいましたか?」
今日の里見先生は、随分言葉を選びながら話す。何か他に気にかかることでもあるのだろうか。
「里見先生。あなたは、僕の代わりではないんですよ」
「えっ」
「あなたの感性で知りたいこと、聞きたいことを聞いてきてください」
「でも」
「里見先生、大丈夫です。僕はあなたが、きちんと仕事をする教師に育ったと思っていますから」
しばらく無言の時間。
「体調は?」
無言に耐えきれず、こちらから沈黙を破る。
「あ、それは大丈夫です」
「もし、少しでもつらかったら、ちゃんと榊先生に相談してください」
「はい。わかりました」
また少し無言になる。
「先生」
また無言。
「はい。なんですか?」
やはり、沈黙に耐えられないのは、僕。
「電話しない約束だったのに、破ってしまって、すみませんでした」
「いいですよ。榊先生ともちゃんと相談してください。その上でなら」
そんなことが言いたいわけではないが。
「ありがとうございました。失礼します」
「はい」
電話は僕から切った。
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