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第四章 神の傀儡
戦い(3)
「ぅ、ぐぁあああ!!」
突然、教会長が苦しみ出した。彼の身体から靄が膨れ出て、その靄は竜巻のように勢いを増していく。
「ユイト様、大変です! このままだと……」
「彼は呑まれるでしょうね。完全に自業自得なので、貴女が気に病む必要はありませんよ。面倒なのは、溢れ出した神力をどう片づけるか……」
そう言いながら、ユイナート様はわたしの耳元に顔を寄せた。
「……貴女だけに言いますけれど、セシリオがすべての神力を請け負うことだけは避けたいのです」
わたしにだけ聞こえるように囁かれた声。息が耳に触れて少しくすぐったいが、そんなことを感じている場合ではない。彼がわたしだけに大切なことを言ってくれたことが嬉しいと思うが、わたしの感情よりも彼の言葉について考える方が重要だ。
ユイナート様が望んでいることは、セシリオ様を助けること。彼が以前話してくださったことを思い出してみると、わたしを守るためにセシリオ様がすべての神様の力を吸収してその後苦しむことになったのだった。ユイナート様は、自身が何もできなかったことを悔やんでいる……という風なことをシェンド様が少し言っていた。一番無力だったのは、間違いなくわたしなのだけれど。だから今度こそ、わたしにも何かできないだろうか。
そう思っている間にも、靄は光を増していく。教会長の悲鳴に似た声は段々と小さくなり、やがて完全に聞こえなくなる。彼の身体から溢れ出た力はぐるぐるとその場を旋回し、大きな渦となり、そのまま波のように押し寄せてきた。
わたしの方へ。
「……っ!」
「シェルミカ、僕の後ろへ。ですが離れすぎないようにしてください」
ユイナート様はそっと手を放してわたしの前に立った。でも彼にとって神様の力は毒みたいなもので、こんなに大量の神様の力を浴びてしまうと大変なことになるのではないだろうか。耐性があるというセシリオ様ですら、耐え難い痛みに襲われたというなら……ユイナート様は、それ以上の痛みを感じてしまうのだろうか。
そんな苦しい思いをしてほしくない。わたしは、ユイナート様たちをできる限り支えたいのだから。
「ユイト様。わたしも力になりたいです。何か、わたしにできることはありませんか?」
「貴女が無事であることが何よりの支えです。危険ですから、僕に任せてください」
ユイナート様は振り向いて、にこりと笑みを深めた。何もするな、と言われている気分になってしまう彼の笑み。だけどわたしには、なんだかとても悲しく見えた。
力の波が押し寄せてくる。それでも一切動じることなく、ユイナート様はゆっくりと手を前に出した。
光の渦が彼の手に吸い込まれ始める。その勢いは凄まじく、光に包まれる彼の姿はこんな時だけどとても美しかった。
「おい、お前ユイト!! 馬鹿、何やってんだ!」
シェンド様が慌てたように駆け寄ってきて、同じように手を出す。
「馬鹿野郎、一人で全部吸収したらセオの二の舞じゃないか。早まるなよ、馬鹿。俺達の中ではお前が一番神力に弱いんだから、無理するなよ」
「そう何度も馬鹿と言わないでください。……しかし、そうですね。神力を分けて吸収することが最善の選択かもしれません」
ユイナート様とシェンド様がいつもと変わらない声色で話している間に、セシリオ様がやってきた。彼はしばらく躊躇するように目を伏せていたが、やがて顔を上げて二人と同じように手を出す。
「……シェルミカのためだから」
「十分だ、ありがとう、セオ。だがまあ何だ、すごいな、これは。すごい量の神力だ」
「神力に毒されて馬鹿になりましたか?」
彼らは何ということもない風に話をしているが、それは余裕そうに振舞っているだけだと思う。直接触れていないわたしですら、くらくらしそうなほどの圧を感じるのだ。
このまますべてを彼らに任せておくことなどできるはずもない。わたしはユイナート様の隣に立って、手を伸ばした。
「っ、シェルミカ! 下がっていてください」
「ユイト様たちにすべてを任せるわけにはいきません。わたしは心から、貴方様をお救いしたいのです。全員の望みを叶える必要があるのなら、わたしも……」
わたしは見様見真似で手のひらを光に向けて、力を込めてみた。すると、強大な力が手を通して身体に入ってくる。その力が全身を巡るたびに痛みが走り、意識が飛びそうになるが、歯を食いしばって堪えた。わたしよりも彼らの方が苦しい思いをしているだろうから、わたしなんかが弱音を言っていられない。
「シェミ、無理はするな。痛かったらすぐに離れるんだぞ」
「シェルミカ……ちょっとだけでいいからね。君に何かあったら、とても悲しいから」
シェンド様とセシリオ様の言葉が温かい。力が湧いてくる心地がする。
「……ありがとうございます、シェルミカ」
最後にはユイナート様も折れてくださって、四人で神様の力を吸収し始める。内側から刃で貫かれているかのように痛いけれど、そばにユイナート様たちがいると考えたら気がしっかりと持てるのだ。
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