月華の王子様と『玩具』の愛姫 ~ヤンデレな王子様からは逃げられない~

ラム猫

文字の大きさ
139 / 164
第四章 神の傀儡

戦い(4)


 しかし、渦巻いている神様の力は四人で吸収してもなかなかなくなることはない。隣に立つユイナート様の顔を盗み見したら、彼の口元は微笑んでいたが、その額には汗が浮かんでいた。それはシェンド様とセシリオ様も同じだ。人間にとって、この力は強大すぎるのだろう。

 何度も意識が遠のきそうになるがそのたびに唇を強く噛みしめ、倒れないように足に力を込める。

 その時だった。

「……っ、こんな時に!」

 誰の声かは分からなかったけれど、その言葉の意味は分かる。突如足元の影が、まるで生きているかのように蠢き出したのだ。足元に影が絡みつこうとしたが、神様の力が強すぎるせいか触れる前には消滅した。

 それでも、安心はできない。影は足元からだけではなく礼拝堂内の様々な所から出現している。

「厄介だな。ユイト、お前が相手してくれ」
「……分かりました。神力は任せましたよ」

 シェンド様の言葉に頷き、ユイナート様は手を下ろして後ろを向いた。シェンド様はそれを見て、安心したかのように頷いている。もしかしたら彼も、ユイナート様のことが心配だったのかもしれない。

 今頃気づいたが、ユイナート様はシェンド様から受け取った剣をいつのまにか帯剣していたようだ。そして彼は、鞘から剣を抜き放つ。氷のように透き通った刀身が、光を反射して輝いた。

「邪魔はさせません」

 そこからの彼の動きは、目で追うことがやっとなほどに速かった。近づいてくる影を一刀両断し、遠くの影も魔法で同時に鎮める。流れるような動作で、まるで剣舞を披露しているかのように美しい。神様の力を抑えることに集中すべきだとわかっているのに、彼の剣技を見たいと何度も思っていたからつい目で追ってしまう。

 彼が剣を振るたびに氷の結晶が周囲を舞う。影は切っても意味はないように思えるが、彼はどうやら氷の魔法を使用しているようで、切られた瞬間に影が氷へと変わるのだ。氷になった影は、もう動くことはない。

「……元締はどこでしょう。このままだと、キリがない」
「俺達が手一杯になる時を狙っていたんだろうな。だが、もう吸収も完了しそうだぞ!」

 シェンド様の言葉通り、目の前の渦はかなり収まってきていた。目の前がチカチカしていて正確なことは分からないけど、シェンド様が言うならもう少しで終わるのだろう。

 それでも、かなり危険な状態であることには変わりない。この場で教皇様に攻撃されたら、神様の力のせいでかなり痛手を負ったシェンド様たちは先ほどまでのようには戦えないだろう。それに、万が一にもセシリオ様が彼の手に渡ったら、圧倒的にわたしたちが不利になる。

「……ボスが近くにいる気配はない。僕達を抑える良い機会なのに、どうしてだろう」
「それは確かか? あいつの目的はよく分からんが……来ないなら来ないに越したことはない」

 教皇様の目的は、わたしを神様に捧げること、だっただろうか。わたしは自分自身にそれほど価値を見出だせないので、どうしてこんなにも色んな人から自分が求められるのかが分からない。ユイナート様たちを除いた人たちは、わたしをシェルミカとしてではなくただのものだと思っているとすぐに分かってしまうので、全く嬉しいことではない。

 ……この光が収まったら、わたしたちは元の世界に帰れるのだろうか。そして、神様は何が目的で、わたしたちをこの世界に連れてきたのだろう。

『――汝が望む世界は?』

 そう。この問いかけから始まった。突然頭の中に声が響いてきて、気がついたら目の前が真っ白になったのだ。この声が神様の声だということで間違いはないと思う。

 わたしが望むことはユイナート様たちを助けることで、ユイナート様が望むことはセシリオ様を救うことで、セシリオ様が望むことはわたしを彼のものにすること(改めてわたし自身が振り返るには恥ずかしい⋯⋯)で、シェンド様が望むことは2人を助けること。

 全ての元凶は暴れている神様の力で、これを収めることでわたしたち全員の望みが叶う。その時に、この世界に来た時のように目の前が真っ白になるのだろうか。

『汝が望むものは』

 わたしが望むものは、ユイナート様たちの幸せ。わたしは何だかんだ彼らのことを大切に思っていて、そのためならわたし自身を差し出したとしても……。

 ……本当に、これがわたしの望みなのだろうか。自由に好きなところに行けて、自由に好きなことをして、自由に好きな時に眠って……。そんな日常が、恋しく思っていた時もあった気がする。
感想 0

あなたにおすすめの小説

彼氏がスパダリでヤンデレすぎてしんどいくらい好き

恋文春奈
恋愛
スパダリでヤンデレな溺愛彼氏に愛されすぎる!! モテモテな二人はどうなる!? 運命の人と激甘同居生活が始まる…!! スパダリでヤンデレな溺愛彼氏 朝霧奏多(28) 色気が半端ない みれあにだけ愛が重い×ピュアな美人彼女 二瀬みれあ(22) 芯はあるが素直すぎて無自覚な時がある 奏多しか見えてない

生贄は囚われの愛を乞う~棄てられ令嬢と狼将軍~

マチバリ
恋愛
美しい見た目ゆえ、領主の養女となったレナ。 有用な道具に仕立てとする厳しい教育や義兄の異常な執着にうんざりしながらも何もかもを諦めて生きていた。 だが、その運命は悪政を働く領主一家を捕えに来た<狼将軍>と呼ばれる男の登場により激変する。

心が読める私に一目惚れした彼の溺愛はややヤンデレ気味です。

三月べに
恋愛
古川七羽(こがわななは)は、自分のあか抜けない子どもっぽいところがコンプレックスだった。 新たに人の心を読める能力が開花してしまったが、それなりに上手く生きていたつもり。 ひょんなことから出会った竜ヶ崎数斗(りゅうがざきかずと)は、紳士的で優しいのだが、心の中で一目惚れしたと言っていて、七羽にグイグイとくる! 実は御曹司でもあるハイスペックイケメンの彼に押し負ける形で、彼の親友である田中新一(たなかしんいち)と戸田真樹(とだまき)と楽しく過ごしていく。 新一と真樹は、七羽を天使と称して、妹分として可愛がってくれて、数斗も大切にしてくれる。 しかし、起きる修羅場に、数斗の心の声はなかなか物騒。 ややヤンデレな心の声!? それでも――――。 七羽だけに向けられるのは、いつも優しい声だった。 『俺、失恋で、死んじゃうな……』 自分とは釣り合わないとわかりきっていても、キッパリと拒めない。二の足を踏む、じれじれな恋愛模様。 傷だらけの天使だなんて呼ばれちゃう心が読める能力を密かに持つ七羽は、ややヤンデレ気味に溺愛してくる数斗の優しい愛に癒される? 【心が読める私に一目惚れした彼の溺愛はややヤンデレ気味です。】『なろうにも掲載』

ヤンデレ旦那さまに溺愛されてるけど思い出せない

斧名田マニマニ
恋愛
待って待って、どういうこと。 襲い掛かってきた超絶美形が、これから僕たち新婚初夜だよとかいうけれど、全く覚えてない……! この人本当に旦那さま? って疑ってたら、なんか病みはじめちゃった……!

完結【強引な略奪婚】冷徹な次期帝は、婚姻間近の姫を夜ごと甘く溶かす

小木楓
恋愛
完結しました✨ タグ&あらすじ変更しました。 略奪された大納言家の香子を待っていたのは、冷徹な次期帝による「狂愛」という名の支配でした。 「泣け、香子。お前をこれほど乱せるのは、世界で私だけだ」 「お前はまだ誰のものでもないな? ならば、私のものだ」 大納言家の姫・香子には、心通わせる穏やかな婚約者がいた。 しかし、そのささやかな幸福は、冷徹と噂される次期帝・彰仁(あきひと)に見初められたことで一変する。 強引な勅命により略奪され、後宮という名の檻に閉じ込められた香子。 夜ごとの契りで身体を繋がれ、元婚約者への想いすら「不義」として塗り潰されていく。 恐怖に震える香子だったが、閉ざされた寝所で待っていたのは、想像を絶するほど重く、激しい寵愛で……? 「痛くはしない。……お前が私のことしか考えられなくなるまで、何度でも教え込もう」 逃げ場のない愛に心が絡め取られていく中、彰仁は香子を守るため、「ある残酷な嘘」を用いて彼女を試す。 それは、愛するがゆえに彼女を嫉妬と絶望で壊し、「帝なしでは息もできない」状態へ作り変えるための、狂気じみた遊戯だった。 「一生、私の腕の中で溺れていろ」 守るために壊し、愛するために縛る。 冷酷な仮面の下に隠された、 一途で異常な執着を知った時、香子の心もまた甘い猛毒に溶かされていく――。 ★最後は極上のハッピーエンドです。 ※AI画像を使用しています。

「つかれてる」と彼氏に拒まれる金曜の夜

唯崎りいち
恋愛
大好きだった彼は、最近私を「つかれてる」と拒絶する。 職場で無視され、家でも冷たく突き放され、ついに私は限界を迎えた。 涙とともに眠りについた、ある金曜日の夜。 変わり果てた二人の関係は、予想もしない結末を迎える。

呪いで毎朝髪が伸びる地味OLは、秘密の美容室で独占欲強めの美容師に心をほどかれる

他力本願寺
恋愛
 朝起きるたび髪が異常に伸びる――そんな秘密を抱えた地味OL・葵。誰にも知られず生きてきた彼女が辿り着いたのは、閉店後だけ会える一席だけの美容室だった。無愛想な美容師・零は、葵の髪を怖がるどころか「一人で切らないで」と言う。彼の指で髪を梳かれるたび、心までほどけていって……。秘密の関係から始まる、独占欲強め美容師×コンプレックス持ちOLのじれ甘溺愛ラブ。 【詳細あらすじ】 早乙女葵、24歳。 地味で目立たないOLの彼女には、誰にも言えない秘密があった。 ――朝起きるたび、髪が異常に伸びてしまうこと。 切っても切っても、また一晩で伸びる髪。 人に知られたら気味悪がられる。迷惑をかけるくらいなら、一人で隠して生きていくしかない。 そう思っていた葵が見つけたのは、閉店後のモデルを募集している一席だけの小さな美容室だった。 店主の橘零は、無愛想なくせに、髪に触れる手だけは驚くほどやさしい。 「次から一人で切らないで」 「その髪、ちゃんと預かるから」 彼の指で髪を梳かれるたび、ほどけていくのは髪だけじゃなく、張りつめていた葵の心のほうで――。 やがて葵は知ってしまう。 自分の髪を“珍しい素材”として見つめる男と、 “守りたいもの”として触れる男の違いを。 これは、呪いで毎朝髪が伸びる地味OLが、 秘密の美容室で独占欲強めの美容師に髪も心もほどかれ、 初めて「必要とされる幸せ」を知るまでの、じれ甘溺愛ラブストーリー。 ※全40話予定 ※毎日朝、夜6時40分更新予定(1日2話)

心を病んだ魔術師さまに執着されてしまった

あーもんど
恋愛
“稀代の天才”と持て囃される魔術師さまの窮地を救ったことで、気に入られてしまった主人公グレイス。 本人は大して気にしていないものの、魔術師さまの言動は常軌を逸していて……? 例えば、子供のようにベッタリ後を付いてきたり…… 異性との距離感やボディタッチについて、制限してきたり…… 名前で呼んでほしい、と懇願してきたり…… とにかく、グレイスを独り占めしたくて堪らない様子。 さすがのグレイスも、仕事や生活に支障をきたすような要求は断ろうとするが…… 「僕のこと、嫌い……?」 「そいつらの方がいいの……?」 「僕は君が居ないと、もう生きていけないのに……」 と、泣き縋られて結局承諾してしまう。 まだ魔術師さまを窮地に追いやったあの事件から日も浅く、かなり情緒不安定だったため。 「────私が魔術師さまをお支えしなければ」 と、グレイスはかなり気負っていた。 ────これはメンタルよわよわなエリート魔術師さまを、主人公がひたすらヨシヨシするお話である。 *小説家になろう様にて、先行公開中*