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第1章 魔女と仲間達
第15話 魔女 VS 悪性魔物
しおりを挟む地を這うような唸り声を上げているグリズリーベアに向け、光の魔力を凝縮した魔弾を放つ。光弾は奴の分厚い皮膚に直撃し、焦げ焼けるような異音が響いて黒い煙が上がった。しかし、その体はすぐに黒い魔力で覆い直され、奴は地面を叩いて突進してきた。その爪には黒い力がまとわりつき、一瞬にして地面を腐敗させながらこちらに迫る。
通常の魔法であれば、悪性魔力に吸収されてしまう。そのため、純粋な光の魔力が最も効果的だ。構築していた魔法を一気に放つ。雷鳴にも似た轟音と共に、白銀の交戦が一直線に奴の巨体へ向かった。光線は奴の脇腹、最も悪性魔力が強く脈動している黒い水晶の突起群に直撃する。
まるで熱した鉄板に水をかけたように奴の体から黒い煙が激しく吹き上がり、嫌悪感を催すような耳障りな甲高い悲鳴が森に響き渡る。光が当たった黒い突起は、瞬時に白く焼け焦げ、内部から崩壊した。悪性魔力の供給が一瞬遅れる今が最も弱体化しているので、その隙を逃さずに風魔法でその首を落とし、とどめをさした。
『す、すごい……。ラーシェ、しゅっと指を動かすだけであいつを倒しちゃったよ』
悪性魔物は討伐したが、悪性魔力が消えるわけではない。別の悪性魔物が生まれないように、簡単にここ一帯を光魔法で浄化しておこう。だが、その前に……。
「大丈夫ですか?」
先程魔物を相手にしていた男性の元に歩み、声をかける。瀕死状態の男性の血止めを行い、応急処置をしていたようだ。彼は私に気が付いて、警戒したような目を向ける。
「あ、あんた。さっきの魔物、一人で倒したのか?」
「ええ、まあ。それよりも、そちらの方の治療が最優先ですね」
私は倒れている男性の隣に座り、怪我の状態を見る。悪性魔物に攻撃された影響により、悪性魔力が彼の体を蝕んでいるようだ。私はそれほど医療に精通しているわけではないが、かなり危険な状態だと分かる。
『ラーシェ、治療魔法も使えるの?』
『治療師ほどではないけど、一時的に症状を緩和させることならできるよ。治療魔法を使えない人は、教会に行けば治してもらえる』
肩に乗ったリュビアの問いに答えながら、怪我人の体に手をかざして治療魔法を発動させる。光魔法を基本とした魔法なので、悪性魔力も同時に浄化できるのだ。
「……っ」
魔力を傷口に注ぎ込むと、白い煙が立ち昇って悪性魔力が浄化されていく。彼は汚染が焼き払われる瞬間に、苦痛からか喉を鳴らした。体内の汚染魔力が消滅する際は激痛が走り不快な感覚がするため、それが原因だろう。魔力が染み込むにつれて、深く裂けていた傷口の肉が時間が巻き戻るかのように滑らかに結合していく。黒ずんでいた皮膚の色は健康的な肌色へと戻り、わずかな赤みが残るだけで大きな裂傷は完全に塞がった。
「これで一旦は、大丈夫でしょう。ただ簡単な治療なので、ちゃんと教会で診てもらってください。……あなたも、怪我をしていますね。治療しますよ」
魔物の攻撃を受けたのか、男性の腕から血が出ている。同じように悪性魔力で浄化し、傷を塞ぐ。彼は治療中に顔を顰めたが、声を漏らすことはなかった。強い人なのだろう。なら、さっき悲鳴を上げたのは、大怪我を負っていたこの人か、もしくは犠牲になってしまった人なのかもしれない。
「……感謝する。また今度、お礼をさせてほしい。あんたは冒険者なのか?」
「そうです。お礼は、大丈夫ですよ。あなたのお仲間は……ご愁傷様です。私がもう少し早く着けたら良かったのですが」
「いや。あんたは何も悪くない。それどころか、俺達の恩人だ。本当に、ありがとう」
彼は律儀に頭を下げる。真面目そうな彼のことだから、私が礼はいらないと何度言っても引き下がってくれない気がする。礼が必要か否かと言う前に、彼らを無事に街に送り届けることが最優先だ。
「あなたは、この方を背負いながら街に戻れるだけの魔力が残っていますか?」
「……ほとんど、残っていない」
治療中にも彼の魔力を視させてもらったが、悪性魔力の影響を受けていて今日は魔法を使えないことだろう。軽く治療はしたものの傷を塞いだだけで痛みは残っていると思うので、腕も思うように動かせないはずだ。そんな彼に怪我人を背負わせて、街まで歩けというのはかなり酷だろう。魔物に襲われたら、成す術もなく殺されてしまうかもしれない。奴らは、血の匂いを敏感に嗅ぎ分ける。
そうなると、私が彼らを護衛するのが最も安全だろう。流石に、見て見ぬふりはできない。
「私があなた達を街まで護衛しますね」
「そんな! これ以上、あんたに迷惑をかけるわけには……」
「私に、満身創痍のあなた達を見捨てろと仰るのですか?」
じっと彼の顔を見ながら言うと、彼は言葉を詰まらせた。その瞳が、一瞬だけ左右に動かされる。犠牲になってしまった彼の仲間を見たようだ。彼らも、放置しておくわけにはいかないな。
「大勢の連れがいたなら、彼らのご遺体を運んであげたかったのですが……一人では難しいです。このまま放置して魔物の餌となる前に、荼毘に付しましょうか」
「…………」
葛藤しているのだろう。彼の目には、様々な感情が浮かんでいる。仲間が死んでしまうことはとても辛いことだが……冒険者である限り、覚悟しておかなくてはならないことでもある。
「……ああ。俺も、手伝おう」
彼の声は、今にも消えてしまいそうだった。
怪我人の安全を確保して、犠牲となった人々の遺体を運ぶ。悪性魔力の影響で肌が黒ずんでいて痛々しいので、気休めにしかならないが、浄化しておいた。
『リュビア、大丈夫?』
ずっと黙っているリュビアが心配になって声をかける。彼女は私の肩にずっと乗っているが、ほとんど身動きもしていない。
『……うん。大丈夫。わたし、冒険って楽しいものだと思っていたけど、本当はとても危険なんだなって、痛いほど分かっちゃったよ。彼、辛そうな顔をしてる。わたしだって、こんなこと、絶対に耐えられない』
リュビアの言うことは、私にもよく分かる。仲間だった人達を、自分の手で火葬しなくてはいけないなんて、絶対にやりたいとは思わない。
『それでも、このまま遺体を放置していたら、魔物が寄ってきて食べられてしまう。魔物なんかに、彼らの魔力の一滴も与えたくない。時には残酷な判断も必要なんだ。もっともっと、苦しい決断をする必要に迫られる時も、あるのだから……』
嫌な記憶が蘇ってくる。私は強く目を瞑ってそれを頭から追い出し、小鳥姿のリュビアを見た。
『旅には、沢山の危険が伴う。きっとこれからも、悲惨な場面に遭遇することが何度もあると思う。それでも、これだけは約束するよ。私は、絶対に死なないから』
笑みを浮かべてみせると、水色の小鳥は目から涙を零した。彼女の頭を一撫でして、男性の元に向かう。
嘘は、ついていない。だが、私は————
これが嘘になることを、望んでいる。
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