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第4話 治療師として
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「シルヴァード……。治療師殿を困らせるな」
「ラティウス、悪かった。僕は、治療を受けるよ」
シルヴァード様は、そう言って笑みを浮かべた。わたしと騎士様の目が、同時に見開かれる。
「治療を受けるってお前、さっきまで散々嫌がってたのに」
「僕が馬鹿だったよ。明らかに僕は異常だから、治療を受ける以外の選択肢はないんだ」
彼はにこにこと、凱旋の時で見たような笑みを浮かべている。しかし間近でよく見てみると、彼の紅い瞳には何の感情も籠っておらず、ただ「笑みの形をした表情」を浮かべているだけだと分かった。
「治療室に行こう」
「……あ、はい。治療室は、こちらです」
どうしてシルヴァード様が突然治療を受けると言い出したのかは分からないが、とりあえず治療を優先すべきだと判断した。わたしは彼と騎士様を連れて、治療室に移動した。
(今は、全て忘れるのです。シルヴァード様は、戦場で沢山辛い思いをされたのでしょうから、それを癒すことを第一に考えましょう)
今のわたしは治療師だ。患者さんの健康を、第一に考えるべきである。
治療室に着いて、扉を開けた。見慣れた部屋が目に入る。
「どうぞ、お座りください」
シルヴァード様がわたしの対面に座り、彼の隣には騎士様が腰かけた。ここで飲み物を出してもいいのだが、それは患者さんにわたしのことを確実に信用してもらってからの方がいい。
わたしはまっすぐとシルヴァード様の紅い瞳を見て、優しく笑みを浮かべた。彼が素直に治療を受けることを決めてくれた理由はまだ分からないが、正体の分からないわたしを警戒していたのは事実だ。まずは、わたしが安全な存在であることを認識してもらわないと。
「改めまして、わたしはセレフィアと申します。わたしのことは、好きに呼んでくださって構いません。再度お伝えしますが、わたしは絶対にあなたを傷つけません。わたしは治療師です。あなたが負った傷を癒すために、ここにいます」
「じゃあ、セレフィアって呼ぶね」
にこり、とシルヴァード様は笑う。不自然に貼り付けられたような、不気味なほど完璧な笑顔だ。その裏に、どんな感情が秘められているのだろう。
「今日は、あなたが話したいことを話してください。過去のことからでも、今の気持ちでも構いません。何も話したくなければ、それでもいい。わたしはただ、ここにいます」
「うん」
シルヴァード様は抵抗感なく頷いた。わたしは少し考えて、口を開く。
「まずは、あなたのことについて、教えていただけませんか?」
「僕のこと? 僕はシルヴァード・ヴォルテクス。魔導騎士で、第二騎士団隊長だ」
わたしが知っているシルヴァード様の情報と食い違いはない。
「あなたは今、何か困っていることはありますか?」
「なにもないよ」
にこにこと、言葉が返ってくる。本人の自覚がない可能性が高い。
「そうですね……。例えば、夜に眠れないといったことはありませんか?」
「ちゃんと寝てるよ」
「嘘つけ。お前、二時間も寝てないじゃないか」
「……」
騎士様の言葉に、シルヴァード様は黙り込む。どうやら彼は睡眠障害を抱えているようだ。戦争に参加した兵士たちが睡眠障害を抱えることは多い。
「最近、何か夢を見ましたか?」
「見たよ」
「どんな内容だったか、覚えていますか?」
「……覚えていない」
シルヴァード様の目が、一瞬だけ暗さを帯びた。彼が見ているのは悪夢の可能性がある。内容を知ることができたら彼がとんなことで苦しんでいるのか分かるのだが……無理に聞き出すのはよくない。
「ラティウス、悪かった。僕は、治療を受けるよ」
シルヴァード様は、そう言って笑みを浮かべた。わたしと騎士様の目が、同時に見開かれる。
「治療を受けるってお前、さっきまで散々嫌がってたのに」
「僕が馬鹿だったよ。明らかに僕は異常だから、治療を受ける以外の選択肢はないんだ」
彼はにこにこと、凱旋の時で見たような笑みを浮かべている。しかし間近でよく見てみると、彼の紅い瞳には何の感情も籠っておらず、ただ「笑みの形をした表情」を浮かべているだけだと分かった。
「治療室に行こう」
「……あ、はい。治療室は、こちらです」
どうしてシルヴァード様が突然治療を受けると言い出したのかは分からないが、とりあえず治療を優先すべきだと判断した。わたしは彼と騎士様を連れて、治療室に移動した。
(今は、全て忘れるのです。シルヴァード様は、戦場で沢山辛い思いをされたのでしょうから、それを癒すことを第一に考えましょう)
今のわたしは治療師だ。患者さんの健康を、第一に考えるべきである。
治療室に着いて、扉を開けた。見慣れた部屋が目に入る。
「どうぞ、お座りください」
シルヴァード様がわたしの対面に座り、彼の隣には騎士様が腰かけた。ここで飲み物を出してもいいのだが、それは患者さんにわたしのことを確実に信用してもらってからの方がいい。
わたしはまっすぐとシルヴァード様の紅い瞳を見て、優しく笑みを浮かべた。彼が素直に治療を受けることを決めてくれた理由はまだ分からないが、正体の分からないわたしを警戒していたのは事実だ。まずは、わたしが安全な存在であることを認識してもらわないと。
「改めまして、わたしはセレフィアと申します。わたしのことは、好きに呼んでくださって構いません。再度お伝えしますが、わたしは絶対にあなたを傷つけません。わたしは治療師です。あなたが負った傷を癒すために、ここにいます」
「じゃあ、セレフィアって呼ぶね」
にこり、とシルヴァード様は笑う。不自然に貼り付けられたような、不気味なほど完璧な笑顔だ。その裏に、どんな感情が秘められているのだろう。
「今日は、あなたが話したいことを話してください。過去のことからでも、今の気持ちでも構いません。何も話したくなければ、それでもいい。わたしはただ、ここにいます」
「うん」
シルヴァード様は抵抗感なく頷いた。わたしは少し考えて、口を開く。
「まずは、あなたのことについて、教えていただけませんか?」
「僕のこと? 僕はシルヴァード・ヴォルテクス。魔導騎士で、第二騎士団隊長だ」
わたしが知っているシルヴァード様の情報と食い違いはない。
「あなたは今、何か困っていることはありますか?」
「なにもないよ」
にこにこと、言葉が返ってくる。本人の自覚がない可能性が高い。
「そうですね……。例えば、夜に眠れないといったことはありませんか?」
「ちゃんと寝てるよ」
「嘘つけ。お前、二時間も寝てないじゃないか」
「……」
騎士様の言葉に、シルヴァード様は黙り込む。どうやら彼は睡眠障害を抱えているようだ。戦争に参加した兵士たちが睡眠障害を抱えることは多い。
「最近、何か夢を見ましたか?」
「見たよ」
「どんな内容だったか、覚えていますか?」
「……覚えていない」
シルヴァード様の目が、一瞬だけ暗さを帯びた。彼が見ているのは悪夢の可能性がある。内容を知ることができたら彼がとんなことで苦しんでいるのか分かるのだが……無理に聞き出すのはよくない。
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