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第十一話
しおりを挟む「……エル様」
「ごめんね、エレア。僕は勘違いをしていたようだ」
「婚約を破棄してください」
「……は?」
わたくしは想いがこぼれないように俯きながら、言葉を続けました。こんな時に、エルンスト様の素の声が聞けたことが嬉しいと感じている自分が腹立たしいです。
「その話はもう終わったよね?」
「エル様はカタリナのことが好きなのでしょう? わたくし、以前言ったように、エル様が他の方を好いているのに、婚約者のままであり続けたくないのです! そんなの、とても辛くて……わたくしには、耐えられません」
目頭が熱くなってきます。わたくしは惨めに涙をこぼさないように、ぐっと強く手を握りました。
「え。エレアノール嬢、勘違いも行き過ぎていない?」
「しっ、クラウス様! 今はいいところです。そっと様子を見ておきましょう」
クラウス様とセルナが何やら話していましたが、彼らの会話はわたくしの耳には入ってきませんでした。
エルンスト様の顔を見ることができず、俯いていると、頬に手が添えられました。
「エレアノール」
低音の声が体に響きます。自分の恋を自覚した今、その声を聞くだけで心が高鳴ります。
エルンスト様に強く握りしめていた手を取られ、そのまま甲に口づけされました。思わず顔を上げると、にこりと微笑んだ彼の赤い瞳と目が合いました。その笑みがやけに甘くて、顔に熱が集まります。
「エレアノール。僕は貴女を愛しています」
——わたくしは今、夢を見ているのでしょうか。
そう思ってしまうほど、エルンスト様の赤い瞳には燃えるような感情が込められていて、彼の目にはわたくしだけが映っていないようでした。
「君は何か勘違いしているようだけど、この前僕がカタリナから赤いバラを貰ったのは、君と同じような理由だよ」
エルンスト様は懐から赤いバラを取り出して、クラウス様に差し出しました。
「なかなかいい機会がなくて渡せていませんでしたが、カタリナ嬢から兄上にこのバラを渡してほしいと預かっていたのです」
……まあ。カタリナは、本当はクラウス様のことを好いていたということでしょうか。
「カタリナ嬢から僕に……」
赤いバラを受け取ったクラウス様は、幸せそうに笑みを零しました。カタリナとクラウス様は、実は両想いだったということになるのでしょうか。
彼の様子を見ていたわたくしは、視界をエルンスト様の体で覆われました。
「兄上はさっさとカタリナ嬢に会いに行ってください。このバラも、自分から渡したらどうです?」
エルンスト様に持っていた青いバラを取られ、そのバラはクラウス様の手に戻りました。クラウス様は何度か頷いて、太陽のように輝く笑みを浮かべました。
「ああ、そうするよ! エレアノール嬢、相談に乗ってくれて本当にありがとう」
「わたくしも失礼しますわ。ここはお二人でお幸せに……」
クラウス様に続いて、セルナも部屋を出ました。彼女はすました顔をしていましたが、口元がによによと動いていたのは隠せていなかったです。
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