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第一章 まさかの幽霊

はぐれ精霊(3)

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 場所を移動しさっきまで少年――ホムラ君が座っていた木に来た。
 
『アマムラに神力をやってもいいぞ?』
『マジですか! ん? アマムラ?』
『お前の名では無いか』

 ははあ。さてはこの世界での名前って、ファーストネーム・ファミリーネームになるのかな? そしてカタカナかな?

『ごめんね、間違えた。この世界ではレイカ・アマムラだ』
『じゃあレイカか。で、どうなんだ?』
『欲しいです! とりあえず今は実体化したくてたまらないんで!』

 ホムラ君は首を傾げる。

『どうして実体化したいんだ?』
『んんっと、それはね……。世界を旅したいんだ!』
『旅?』

 ホムラ君はまた首を傾げる。

『旅なら霊体でもできるではないか』
『でも霊体だったらご飯食べれないじゃん? 触れないし。ご飯を食べれないand何にも触れない旅なんて旅じゃない!』
『そ、そうなのか』
 
 ホムラ君。異常者を見るような目で見ないでくれたまえ。悲しくなるぞ。
 話をそらせ。そうだ、気になることが。

『どうしてホムラ君はこの木の下に座っていたの?』

 そう尋ねると、ホムラ君は少し悲しそうな顔を見せた。
 やっちまったか!? 聞いちゃいけないことだった? 不躾だった?
 冷や汗ダラダラな私。

『……僕ははぐれ精霊なんだ』

 ホムラ君はボソリと呟いて、木の下に座った。木を慈しむように撫でている。

『はぐれ精霊?』
『精霊界からはみ出した精霊の事だ。僕は小さな頃に精霊界からはみ出てしまって、ずっとこの木から神力を受けっていたんだ。だからこの木は僕にとっての宿り木だよ』

 ホムラ君はか弱く微笑んだ。その笑顔が悲しげで、でもその事実を受け止めているようにも見えた。
 改めて木を見上げると、風に煽られサラサラと優雅に揺れている。

『精霊界には戻れないの?』
『無理だ。はぐれ精霊は精霊にとっていわば汚点になる。戻ろうとしても相手にされやしない』

 汚点? なにそれ。ホムラ君は急に一人になっちゃって、悲しくて苦しくてたまらなかったと思うのに。普通同じ種族どうしで協力するものじゃないの?
 私は他の精霊に対して少し怒りを覚えた。そんな私の怒りを見透かしたのか、ホムラ君は目を細める。

『精霊に攻撃しちゃダメだからね』 

 釘を刺された。攻撃しないよ。少なくとも今は。喧嘩を売るなら力をつけてからだ。
 口には出さないけど。

『ホムラ君はこれから何をするの?』
『このままここで過ごすつもり。やることも無いしね……』

 えっ。ずっとこのままってこと!? 
 そんなの勿体ない。せっかく生きているなら楽しいことしないとね!
 と、いうことでホムラ君に一つ提案。

『ねえホムラ君。私と一緒に旅をしない?』
『えっ』

 ホムラ君、フリーズ。
 私は彼に微笑みかけた。

『世界は広いんだよ。私、幽霊になって実感したの。こんなに広い世界、楽しまないなんて勿体ないよ! でも一人旅ってちょっと寂しいじゃん。ホムラ君がいてくれたら、それだけで嬉しいな』

 ホムラ君は元々大きな目をもっと大きくしてまん丸にした。
 ぱちぱちと、瞬きをする。

『僕がいたら、嬉しい?』
『うん。嬉しい』

 すると、ホムラ君がお山座りをして、顔を隠してしまった。
 どうしたんだろう。そっとしておいた方がいいのかな?
 …………。
 そのまま時間が経つ。
 ホムラ君がゆっくり顔を上げて、腰を上げた。そして、私と向き合う。

『僕も、旅に連れて行ってくれる?』
『勿論! 私からお願いしたいくらい』
『……ありがとう、レイカ』

 ホムラ君は顔を少し赤く染め、目を逸らしてボソリとそう呟いた。
 あら可愛い。頭を撫でてあげたいわ。
 すり抜けるから無理だけど。
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