大砲と馬と 戦術と戦略の天才が帝国を翻弄する

第３章 富国強兵のとき

３ 真福寺治兵衛

信州伊那辰野平出屋

    大砲鋳物師（いものし）真福寺治兵衛（しんぷくじ    じへえ）、ここ１０数年、ずっと鉄製大砲の鋳造に取り組んできた。１年、２年、３年、脆いものしかできない。鍛鉄、鉄を叩いてなら日本刀のような素晴らしいものができる。鋳物では、なぜできない。鍛鉄で砲身を作るのは無理だ。刀が鍛鉄で製造可能なのは、どこでもハンマーで叩けるからだ。砲口の内側はハンマーでは叩けない。では、縦に半分に切って叩いて貼り合わせる？貼り合わせた面が脆弱さを露呈するのは目に見えてる。フランキ砲が甘い密閉のせいで漏れたり、暴発したりするのと同じことだ。密閉を完全にするには一体鋳造で砲身を作成するしかない。


    ４年、５年、６年、鉄では無理なのか？国内の鉄だけではなく、海外の鉄も試してみた。すると産地によって強度に差が出るではないか。同じ鉄なのに？イヤ、純粋な鉄ではないのだ。混じっているのだ。純粋な鉄だけ抽出できないものか。炉の温度が低すぎるのかも知れない。・・・ダメだ。皇国の製鉄技術ではこれ以上は無理だ。


    ７年、８年、９年、銅製（真鍮）の大砲で研究を進めたほうがいいのではないのか？座光寺繁信様が諦めるなと励まして下される。それと海外産の鉄では例えうまくいってもダメだと言われた。どうすればいいんだ？


    １０年、繁信様がおっしゃるには、発想を変えてはどうかと言われた。炉の温度はこれ以上技術的に上げられないなら、それを前提にするしかない。皇国の鉄で出来ないと、生産するときに困る。思うに産地によって鉄の強度に差が出るのは、他のものが混ざっていると想定して、皇国の鉄には脆さを助長するものがあるのでは？それを探してはどうか？あるいは逆に何かが足りないのでは？

    １１年目、鋳造後の冷却をゆるやかに。
    １２年目、炭を混ぜてみている。鍛冶屋の世界では昔から炭を混ぜると良いらしいと言われている。だが、塩梅が難しい。もう何回目だろう？紙に書いているから枚数を数えれば・・・ああ、そんなことはどうでもいい。鉄に炭を混ぜる。さあ、溶鉱炉に入れ「ごめんください。」チッ、誰だ「は～い、どなた？」

    やっと帰った。さあ炉に入れ・・・アレ、炭入れたっけ？もう一度入れるか。

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    出来たあ！脆くない。脆くないぞおおおおおお。もう１００回発射したが破裂しない。


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    後世の冶金専門家は言う。「当時のたたら製鉄では、低温精錬であり、ケイ素やリンが非常に低く、炭素も低めになりがちであり白銑（断面が白く脆い）になりやすかった。丈夫な鋳鉄を作るコツは・・・。

    １    鋳造後の冷却をゆるやかに
    ２    ケイ素や炭素を多く加える
    ３    ・・・
            ・・・このようにして断面が灰色（ねずみ）の鋳鉄では脆さが軽減される。