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第4章 ルシアの攻勢
8 火力の楽園
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善光寺平に入ったルシア軍は千曲川の西を進軍して行く。善光寺平がくの字に折れ曲がる部分で皇国軍は待ち構えていた。
くの字に折れ曲がる部分を西と東で挟む形の小坂山と有明山。その山の上に苦労して新型砲を設置した。その上で巧妙に秘匿している。特に小坂山の方は位置的に孤立しているため、多めに守りの兵を配置している。千曲川の両岸、川の西の八幡と東の打沢に防御陣を敷いている。八幡が司令部だ。今回は新しい試みとして砲陣地の前面に塹壕を掘って銃兵を入れている。更にその前方には鉄条網。塹壕も鉄条網も初めて使用するもので、反対論も出たが繁信の「使える」の一言で採用された。ただ今回は火力の楽園が強烈すぎて出番がなかった。既に偵察隊を追い返しているので、皇国軍の存在は知られている。
ルシア軍アガペーエフ大将
新潟の守備に2万を残し、総勢8万。ここに至ってルシアも槍兵は1人もいない。銃兵・騎馬・砲兵の3兵編成だ。師団長はこの3兵種をバランス良く、協働させて運用する。
偵察隊が戻ってきた。
「報告!千曲川の両岸、八幡と打沢に敵軍の展開を確認。塹壕に隠れており、推定2万弱。」
「何?それだけか?」
実はアガペーエフ、さすがに引き返すつもりでいた。だがしかし、目の前にいるのは、たった2万。アガペーエフ、勝利の誘惑に目が眩んだ。おまけに繁信が入念に秘匿した両側の山の砲陣地も見逃している。
小坂山皇国砲兵隊小坂山分遣隊最先任曹長 黒田権蔵繁播
小坂山分遣隊、分遣隊長椿大佐。実は平出屋で権蔵の弾道学の先生だった人物だ。人材不足で繁信にかり出された。下士官の親玉、権蔵、全ての下士官を統括する立場だ。鷲巣の実戦経験者権蔵と知識は豊富だが経験不足の椿大佐。とうぜん、椿大佐のそばにはべって助言する。椿大佐、元々は学校の先生だ。平出屋にスカウトされ、軍にスカウトされたというわけだ。長身でヒョロヒョロしている。
「え~、今回は史上初の間接射撃ということで私としても非常に期待しております。まあ、わかりやすく言うと空に向けて撃つ。弾は放物線を描いて敵の頭の上に落ちるわけです。弾は榴弾です。発射時に導火線に点火してありますから、時間が来ると爆発します。優しく飛ばすために弾と装薬の間に緩衝材が仕込んであります。え~、弾は撃ちまくって良いとのことです。」
小坂山分遣隊は位置的に孤立する場所にあるため、補給は優先的に受けている。敵の攻撃を一番受けやすいため、銃兵も付随している。権蔵、兵に向かって怒鳴る。
「ええかあ、小坂山は一番最後に攻撃だあ。それまで隠れとれえ。絶対見つからんようにせい。」
権蔵、ちょっと貫禄ついてきた?
小坂と有明の砲兵隊はルシアとは反対側の山の稜線に配置されている。ルシアからは見えないし、砲兵隊からもルシアは見えない。見えないのにどうやって射撃するのだ?
ルシア軍5個師団8万がゆっくりと前進する。千曲川の西岸を埋め尽くす大軍勢。皇国軍が守る八幡陣地に向かって進軍する。
皇国軍司令部真田繁信
「司令官、観測気球あげます。よろしいですか?」
「うむ。」
「気球上げ~。」
水素気球がスルスルと上げられていく。世界初の気球の軍事使用は繁信の名が刻まれる。4名乗り組み、1名は気球操作兼手旗信号係、残り3名は砲撃観測班である。自力では動かない。ロープで固定してある。
手旗信号
地上{ミエルカ?}
気球{ミエル}
地上{イマカラ、シシャスル}
信号弾部隊
《アリアケ・ウテ・イッパツ》
有明山皇国砲兵分遣隊山頂信号弾観測班
「司令部より信号弾、内容読み上げます。」
《アリアケ・ウテ・イッパツ》
分遣隊司令官林大佐が号令する。
「ルシア軍に向け、試射せよ。」
「はっ。」
皇国の新型砲【治兵衛13】
治兵衛が研究を始めて13年目に実物が出来たので【治兵衛13】
こういうところは繁信、発明者の栄誉を讃えることは忘れない。
鉄製大砲・砲弾3キロ・射程5キロ
有明山と小坂山との間は4キロほどしかない。つまり、射程5キロあればすっぽりと範囲におさまる。
ドーン!
一発目が発射される。上に向けて撃つ曲射だ。もちろん、1番の腕っこきが撃っている。
進軍するルシア軍の手前に落ちる。・・・爆発する。黄色い煙が立ち上る。
皇国気球観測隊
{ミジカイ、3ノバセ}
皇国信号隊
《ミジカイ、3ノバセ》
有明山分遣隊司令官林大佐
「短い。仰角3度下げ。」
「りょうか~い、仰角3度さげ~。」
ドーン!
2発目が発射される。
どかーん!
今度はルシア軍の真中で爆発した。無数の鉄片が兵士を殺傷する。
皇国気球観測隊
{イチヨシ、コウリョクシャ、セヨ}
皇国信号隊
《イチヨシ、コウリョクシャ、セヨ》
有明山分遣隊司令官林大佐
「位置よし。ただ今より効力射開始。」
「りょうか~い、ただ今よりこうおりょお~くしゃ。」
ドドドドドーン!
有明山砲兵隊の砲400門、ルシア軍から見えない山の影から発射される。もはや轟音だ。
ドドドドドカーン!
ルシア軍の陣列に無数の花火が広がる。
八幡皇国軍司令部真田少将
「石田大将、有明山効力射始まりました。続いて小坂山、発砲開始します。」
今度は小坂山の砲兵隊が試射から始める。試射する砲を指揮するのは最先任曹長の権蔵だ。平出屋の弾道学の権威にしごかれた成果だ。今では弾道が放物線を描くことも理解している。同じ手順で諸元が得られると小坂山でも効力射(力の限り撃ちまくること)が始まる。小坂山も400門。八幡100門、打沢100門、合計1000門。実に千門。しかも平射ではなく、山の影から撃つ曲射。弾は丸い実体弾ではなく、時限(火縄)で爆発する榴弾を使用している。丸い弾丸は平射するから威力を発揮する。水平に発射してこそ、弾の通り道にいる兵士をなぎ倒すことができる。跳弾射撃を得意とする砲兵もいる。池に平たい石を投げて跳ねさせる、アレだ。曲射した場合は弾が上から落ちるのでなぎ倒すことが出来ない。爆発させないと効率が悪いのだ。小坂山の爆発は有明山の黄色に対して赤だ。気球観測がしやすいように色分けされている。火薬に染料を混ぜたのだ。
史上初の見えないところからの間接射撃をして見せた。千門という圧倒的な火力をもって。しかも3方向からの十字砲火である。
そこは火力の楽園だった。
くの字に折れ曲がる部分を西と東で挟む形の小坂山と有明山。その山の上に苦労して新型砲を設置した。その上で巧妙に秘匿している。特に小坂山の方は位置的に孤立しているため、多めに守りの兵を配置している。千曲川の両岸、川の西の八幡と東の打沢に防御陣を敷いている。八幡が司令部だ。今回は新しい試みとして砲陣地の前面に塹壕を掘って銃兵を入れている。更にその前方には鉄条網。塹壕も鉄条網も初めて使用するもので、反対論も出たが繁信の「使える」の一言で採用された。ただ今回は火力の楽園が強烈すぎて出番がなかった。既に偵察隊を追い返しているので、皇国軍の存在は知られている。
ルシア軍アガペーエフ大将
新潟の守備に2万を残し、総勢8万。ここに至ってルシアも槍兵は1人もいない。銃兵・騎馬・砲兵の3兵編成だ。師団長はこの3兵種をバランス良く、協働させて運用する。
偵察隊が戻ってきた。
「報告!千曲川の両岸、八幡と打沢に敵軍の展開を確認。塹壕に隠れており、推定2万弱。」
「何?それだけか?」
実はアガペーエフ、さすがに引き返すつもりでいた。だがしかし、目の前にいるのは、たった2万。アガペーエフ、勝利の誘惑に目が眩んだ。おまけに繁信が入念に秘匿した両側の山の砲陣地も見逃している。
小坂山皇国砲兵隊小坂山分遣隊最先任曹長 黒田権蔵繁播
小坂山分遣隊、分遣隊長椿大佐。実は平出屋で権蔵の弾道学の先生だった人物だ。人材不足で繁信にかり出された。下士官の親玉、権蔵、全ての下士官を統括する立場だ。鷲巣の実戦経験者権蔵と知識は豊富だが経験不足の椿大佐。とうぜん、椿大佐のそばにはべって助言する。椿大佐、元々は学校の先生だ。平出屋にスカウトされ、軍にスカウトされたというわけだ。長身でヒョロヒョロしている。
「え~、今回は史上初の間接射撃ということで私としても非常に期待しております。まあ、わかりやすく言うと空に向けて撃つ。弾は放物線を描いて敵の頭の上に落ちるわけです。弾は榴弾です。発射時に導火線に点火してありますから、時間が来ると爆発します。優しく飛ばすために弾と装薬の間に緩衝材が仕込んであります。え~、弾は撃ちまくって良いとのことです。」
小坂山分遣隊は位置的に孤立する場所にあるため、補給は優先的に受けている。敵の攻撃を一番受けやすいため、銃兵も付随している。権蔵、兵に向かって怒鳴る。
「ええかあ、小坂山は一番最後に攻撃だあ。それまで隠れとれえ。絶対見つからんようにせい。」
権蔵、ちょっと貫禄ついてきた?
小坂と有明の砲兵隊はルシアとは反対側の山の稜線に配置されている。ルシアからは見えないし、砲兵隊からもルシアは見えない。見えないのにどうやって射撃するのだ?
ルシア軍5個師団8万がゆっくりと前進する。千曲川の西岸を埋め尽くす大軍勢。皇国軍が守る八幡陣地に向かって進軍する。
皇国軍司令部真田繁信
「司令官、観測気球あげます。よろしいですか?」
「うむ。」
「気球上げ~。」
水素気球がスルスルと上げられていく。世界初の気球の軍事使用は繁信の名が刻まれる。4名乗り組み、1名は気球操作兼手旗信号係、残り3名は砲撃観測班である。自力では動かない。ロープで固定してある。
手旗信号
地上{ミエルカ?}
気球{ミエル}
地上{イマカラ、シシャスル}
信号弾部隊
《アリアケ・ウテ・イッパツ》
有明山皇国砲兵分遣隊山頂信号弾観測班
「司令部より信号弾、内容読み上げます。」
《アリアケ・ウテ・イッパツ》
分遣隊司令官林大佐が号令する。
「ルシア軍に向け、試射せよ。」
「はっ。」
皇国の新型砲【治兵衛13】
治兵衛が研究を始めて13年目に実物が出来たので【治兵衛13】
こういうところは繁信、発明者の栄誉を讃えることは忘れない。
鉄製大砲・砲弾3キロ・射程5キロ
有明山と小坂山との間は4キロほどしかない。つまり、射程5キロあればすっぽりと範囲におさまる。
ドーン!
一発目が発射される。上に向けて撃つ曲射だ。もちろん、1番の腕っこきが撃っている。
進軍するルシア軍の手前に落ちる。・・・爆発する。黄色い煙が立ち上る。
皇国気球観測隊
{ミジカイ、3ノバセ}
皇国信号隊
《ミジカイ、3ノバセ》
有明山分遣隊司令官林大佐
「短い。仰角3度下げ。」
「りょうか~い、仰角3度さげ~。」
ドーン!
2発目が発射される。
どかーん!
今度はルシア軍の真中で爆発した。無数の鉄片が兵士を殺傷する。
皇国気球観測隊
{イチヨシ、コウリョクシャ、セヨ}
皇国信号隊
《イチヨシ、コウリョクシャ、セヨ》
有明山分遣隊司令官林大佐
「位置よし。ただ今より効力射開始。」
「りょうか~い、ただ今よりこうおりょお~くしゃ。」
ドドドドドーン!
有明山砲兵隊の砲400門、ルシア軍から見えない山の影から発射される。もはや轟音だ。
ドドドドドカーン!
ルシア軍の陣列に無数の花火が広がる。
八幡皇国軍司令部真田少将
「石田大将、有明山効力射始まりました。続いて小坂山、発砲開始します。」
今度は小坂山の砲兵隊が試射から始める。試射する砲を指揮するのは最先任曹長の権蔵だ。平出屋の弾道学の権威にしごかれた成果だ。今では弾道が放物線を描くことも理解している。同じ手順で諸元が得られると小坂山でも効力射(力の限り撃ちまくること)が始まる。小坂山も400門。八幡100門、打沢100門、合計1000門。実に千門。しかも平射ではなく、山の影から撃つ曲射。弾は丸い実体弾ではなく、時限(火縄)で爆発する榴弾を使用している。丸い弾丸は平射するから威力を発揮する。水平に発射してこそ、弾の通り道にいる兵士をなぎ倒すことができる。跳弾射撃を得意とする砲兵もいる。池に平たい石を投げて跳ねさせる、アレだ。曲射した場合は弾が上から落ちるのでなぎ倒すことが出来ない。爆発させないと効率が悪いのだ。小坂山の爆発は有明山の黄色に対して赤だ。気球観測がしやすいように色分けされている。火薬に染料を混ぜたのだ。
史上初の見えないところからの間接射撃をして見せた。千門という圧倒的な火力をもって。しかも3方向からの十字砲火である。
そこは火力の楽園だった。
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