大砲と馬と 戦術と戦略の天才が帝国を翻弄する

高見信州翁

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第4章 ルシアの攻勢

7 迎撃準備

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日ノ本鉄軌道株式会社

    「軍の移動が最優先だ。急げ。」

    「蒸気車が足りない。生産計画を前倒ししろ。」

    「越後方面軍から鉄軌道の延長要請がありました。松本から善光寺までの突貫工事要請です。」

    「何?鉄軌道は軍の異動で手一杯だぞ。」

    「敷設工事は最優先で構わないそうです。」

    「何、そうか。東海道を作業中の工事蒸気車を信州へまわせ。そうだ、全部だ。」



ルシア新潟上陸軍司令官ウラジーミル・アガペーエフ大将

    10万を皇太弟より預かっている。新潟上陸が成功したため、残り半分を率いるアーネン・ニコライが朝鮮半島を北上し、ウラジオストックから新潟へ上陸するべく急いでいる。制海権をルシアが握った結果、上陸地点は思いのままだった。朝鮮半島の大軍は皇国を欺くための囮だった。アーネン・ニコライもいるし、釜山から博多に侵攻すると思わせるためだ。実は皇国は皇太弟の所在を掴んでいなかったので、実際はアーネン・ニコライが新潟上陸に参加していても何も問題はなかった。ただ皇国は大軍が朝鮮にいるという事実は掴んでいたので、牽制は成功していた。

    今砲を陸揚げ中である。持って来た砲は100門。中世的な平城(平地に築かれた城)は、アーネンの作り出した、馬車で牽引する軽砲の前には無力である。馬で城門の前まで砲を持っていき、城門を吹き飛ばすだけだ。山城は万を越す軍勢がこもるもの以外は無視されている。戦力の分散を嫌って新潟の守備兵力以外はまとめて運用しろとアーネン・ニコライから厳命されている。越後平野にルシア軍があふれかえる。

    本隊到着まで動かないようにアーネンから命令されていたアガペーエフだったが、進めば無抵抗に占領出来る土地が続くため止まるふんぎりがつかなかった。あわよくば武功をあげたいという野心もある。


越後春日山城上杉景勝

    「殿、越後方面軍から命令です。『戦力を温存して越後方面軍に合流せよ。』以上です。」

    「・・・わかった。」

    実際、博多に戦力提供しているために国元には1万5千しかいない。これで10万にぶつかっても負けるだけだ。戦が成立するのは双方の指揮官ともが勝てると思うからだ。勝てないと思えば逃げる。従って戦力が互角に近くなければ普通合戦は発生しない。土地は大事だが自分の命ほどではないからだ。


信州松本城越後方面軍司令部

    「北陸・奥州・関東の諸将に抵抗するなと触れを出せ。信州松本に集合せよ。」

    このとき参謀本部の人員だけは先に松本に到着していたが、軍勢はまだ移動途中であった。手元にあるのは真田軍1万、上杉軍1万5千のみ。真田と上杉が一緒に戦うのはこれが初めてである。

    「敵はどこまで来ている?」

    「越後をほぼ手中におさめ、国境を越えようとしております。信州に向けて進軍中。」

    「鉄軌道の敷設状況は?」

    「はっ、松本から善光寺に向けて工事中。ただ今、筑北村・麻績村を抜けてようやく善光寺平(平野のこと)に出たところです。」

    繁信、しばらく考えて石田司令官に確認をとる。

    「石田閣下、千曲川のほとりでルシアを迎え撃ちたいと思います。鉄軌道工事は一旦中止、野戦陣地の構築に入ります。」

    「うむ、よかろう。」

    陸軍大将石田治部大輔三良(いしだ    じぶ    たいふ    みつよし)、大輔だから正五位上だ。あの石田三成の嫡男だ。
父親に似て、能吏である。父親に似て、戦がヘタである。本人も自覚している。基本、参謀長にお任せである。

    「砲兵司令はおるか?当初の予定通り工兵隊と協力して砲兵陣地の構築にかかれ。」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


信州辰野兵器廠砲兵隊新型砲受領班

    権蔵は1年前の権蔵ではない。大陸にいる間はみんなと読み書きソロバンを騎馬士官から徹底的に教え込まれた。皇国本土に帰ると皇国砲兵隊に正式に採用された。曹長として。

    大陸帰りの砲兵は他の砲兵たちから一目置かれた。実戦経験者として。しかも繁信と一緒に戦って、ルシアを打ち破ったのだ。(実際は逃げ回っていただけだったが)

    受領班の班長は湯船少佐、これから受領した大砲を鉄軌道に載せて陣地まで運ぶ。この戦いの帰趨は砲兵隊にかかっていると言っても過言ではない。



善光寺平ルシア第3師団ダミアン少将

    例によってルビンスキ少将と轡を並べて進軍している。

    「順調だな。抵抗が全くない。」

    「ええ、調子に乗って信州まで入ってしまいましたね。」

    「皇太弟殿下が来られないうちに、こんなに奥深く入り込んでいいのかな?」

    「将軍連中、気がはやっていますから抵抗がないと前へ前へ進んじゃいますね。」

    「このオレ、ダミアンとしてはアガペーエフ大将が止めるべきだと思うんだ。信州はほら、アレだ、マジックシゲノブの地元だろ?」

    結局、アガペーエフ大将の停止命令がないまま、ルシア軍はズルズルと進軍することになる。
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