36 / 96
第4章 ルシアの攻勢
7 迎撃準備
しおりを挟む
日ノ本鉄軌道株式会社
「軍の移動が最優先だ。急げ。」
「蒸気車が足りない。生産計画を前倒ししろ。」
「越後方面軍から鉄軌道の延長要請がありました。松本から善光寺までの突貫工事要請です。」
「何?鉄軌道は軍の異動で手一杯だぞ。」
「敷設工事は最優先で構わないそうです。」
「何、そうか。東海道を作業中の工事蒸気車を信州へまわせ。そうだ、全部だ。」
ルシア新潟上陸軍司令官ウラジーミル・アガペーエフ大将
10万を皇太弟より預かっている。新潟上陸が成功したため、残り半分を率いるアーネン・ニコライが朝鮮半島を北上し、ウラジオストックから新潟へ上陸するべく急いでいる。制海権をルシアが握った結果、上陸地点は思いのままだった。朝鮮半島の大軍は皇国を欺くための囮だった。アーネン・ニコライもいるし、釜山から博多に侵攻すると思わせるためだ。実は皇国は皇太弟の所在を掴んでいなかったので、実際はアーネン・ニコライが新潟上陸に参加していても何も問題はなかった。ただ皇国は大軍が朝鮮にいるという事実は掴んでいたので、牽制は成功していた。
今砲を陸揚げ中である。持って来た砲は100門。中世的な平城(平地に築かれた城)は、アーネンの作り出した、馬車で牽引する軽砲の前には無力である。馬で城門の前まで砲を持っていき、城門を吹き飛ばすだけだ。山城は万を越す軍勢がこもるもの以外は無視されている。戦力の分散を嫌って新潟の守備兵力以外はまとめて運用しろとアーネン・ニコライから厳命されている。越後平野にルシア軍があふれかえる。
本隊到着まで動かないようにアーネンから命令されていたアガペーエフだったが、進めば無抵抗に占領出来る土地が続くため止まるふんぎりがつかなかった。あわよくば武功をあげたいという野心もある。
越後春日山城上杉景勝
「殿、越後方面軍から命令です。『戦力を温存して越後方面軍に合流せよ。』以上です。」
「・・・わかった。」
実際、博多に戦力提供しているために国元には1万5千しかいない。これで10万にぶつかっても負けるだけだ。戦が成立するのは双方の指揮官ともが勝てると思うからだ。勝てないと思えば逃げる。従って戦力が互角に近くなければ普通合戦は発生しない。土地は大事だが自分の命ほどではないからだ。
信州松本城越後方面軍司令部
「北陸・奥州・関東の諸将に抵抗するなと触れを出せ。信州松本に集合せよ。」
このとき参謀本部の人員だけは先に松本に到着していたが、軍勢はまだ移動途中であった。手元にあるのは真田軍1万、上杉軍1万5千のみ。真田と上杉が一緒に戦うのはこれが初めてである。
「敵はどこまで来ている?」
「越後をほぼ手中におさめ、国境を越えようとしております。信州に向けて進軍中。」
「鉄軌道の敷設状況は?」
「はっ、松本から善光寺に向けて工事中。ただ今、筑北村・麻績村を抜けてようやく善光寺平(平野のこと)に出たところです。」
繁信、しばらく考えて石田司令官に確認をとる。
「石田閣下、千曲川のほとりでルシアを迎え撃ちたいと思います。鉄軌道工事は一旦中止、野戦陣地の構築に入ります。」
「うむ、よかろう。」
陸軍大将石田治部大輔三良(いしだ じぶ たいふ みつよし)、大輔だから正五位上だ。あの石田三成の嫡男だ。
父親に似て、能吏である。父親に似て、戦がヘタである。本人も自覚している。基本、参謀長にお任せである。
「砲兵司令はおるか?当初の予定通り工兵隊と協力して砲兵陣地の構築にかかれ。」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
信州辰野兵器廠砲兵隊新型砲受領班
権蔵は1年前の権蔵ではない。大陸にいる間はみんなと読み書きソロバンを騎馬士官から徹底的に教え込まれた。皇国本土に帰ると皇国砲兵隊に正式に採用された。曹長として。
大陸帰りの砲兵は他の砲兵たちから一目置かれた。実戦経験者として。しかも繁信と一緒に戦って、ルシアを打ち破ったのだ。(実際は逃げ回っていただけだったが)
受領班の班長は湯船少佐、これから受領した大砲を鉄軌道に載せて陣地まで運ぶ。この戦いの帰趨は砲兵隊にかかっていると言っても過言ではない。
善光寺平ルシア第3師団ダミアン少将
例によってルビンスキ少将と轡を並べて進軍している。
「順調だな。抵抗が全くない。」
「ええ、調子に乗って信州まで入ってしまいましたね。」
「皇太弟殿下が来られないうちに、こんなに奥深く入り込んでいいのかな?」
「将軍連中、気がはやっていますから抵抗がないと前へ前へ進んじゃいますね。」
「このオレ、ダミアンとしてはアガペーエフ大将が止めるべきだと思うんだ。信州はほら、アレだ、マジックシゲノブの地元だろ?」
結局、アガペーエフ大将の停止命令がないまま、ルシア軍はズルズルと進軍することになる。
「軍の移動が最優先だ。急げ。」
「蒸気車が足りない。生産計画を前倒ししろ。」
「越後方面軍から鉄軌道の延長要請がありました。松本から善光寺までの突貫工事要請です。」
「何?鉄軌道は軍の異動で手一杯だぞ。」
「敷設工事は最優先で構わないそうです。」
「何、そうか。東海道を作業中の工事蒸気車を信州へまわせ。そうだ、全部だ。」
ルシア新潟上陸軍司令官ウラジーミル・アガペーエフ大将
10万を皇太弟より預かっている。新潟上陸が成功したため、残り半分を率いるアーネン・ニコライが朝鮮半島を北上し、ウラジオストックから新潟へ上陸するべく急いでいる。制海権をルシアが握った結果、上陸地点は思いのままだった。朝鮮半島の大軍は皇国を欺くための囮だった。アーネン・ニコライもいるし、釜山から博多に侵攻すると思わせるためだ。実は皇国は皇太弟の所在を掴んでいなかったので、実際はアーネン・ニコライが新潟上陸に参加していても何も問題はなかった。ただ皇国は大軍が朝鮮にいるという事実は掴んでいたので、牽制は成功していた。
今砲を陸揚げ中である。持って来た砲は100門。中世的な平城(平地に築かれた城)は、アーネンの作り出した、馬車で牽引する軽砲の前には無力である。馬で城門の前まで砲を持っていき、城門を吹き飛ばすだけだ。山城は万を越す軍勢がこもるもの以外は無視されている。戦力の分散を嫌って新潟の守備兵力以外はまとめて運用しろとアーネン・ニコライから厳命されている。越後平野にルシア軍があふれかえる。
本隊到着まで動かないようにアーネンから命令されていたアガペーエフだったが、進めば無抵抗に占領出来る土地が続くため止まるふんぎりがつかなかった。あわよくば武功をあげたいという野心もある。
越後春日山城上杉景勝
「殿、越後方面軍から命令です。『戦力を温存して越後方面軍に合流せよ。』以上です。」
「・・・わかった。」
実際、博多に戦力提供しているために国元には1万5千しかいない。これで10万にぶつかっても負けるだけだ。戦が成立するのは双方の指揮官ともが勝てると思うからだ。勝てないと思えば逃げる。従って戦力が互角に近くなければ普通合戦は発生しない。土地は大事だが自分の命ほどではないからだ。
信州松本城越後方面軍司令部
「北陸・奥州・関東の諸将に抵抗するなと触れを出せ。信州松本に集合せよ。」
このとき参謀本部の人員だけは先に松本に到着していたが、軍勢はまだ移動途中であった。手元にあるのは真田軍1万、上杉軍1万5千のみ。真田と上杉が一緒に戦うのはこれが初めてである。
「敵はどこまで来ている?」
「越後をほぼ手中におさめ、国境を越えようとしております。信州に向けて進軍中。」
「鉄軌道の敷設状況は?」
「はっ、松本から善光寺に向けて工事中。ただ今、筑北村・麻績村を抜けてようやく善光寺平(平野のこと)に出たところです。」
繁信、しばらく考えて石田司令官に確認をとる。
「石田閣下、千曲川のほとりでルシアを迎え撃ちたいと思います。鉄軌道工事は一旦中止、野戦陣地の構築に入ります。」
「うむ、よかろう。」
陸軍大将石田治部大輔三良(いしだ じぶ たいふ みつよし)、大輔だから正五位上だ。あの石田三成の嫡男だ。
父親に似て、能吏である。父親に似て、戦がヘタである。本人も自覚している。基本、参謀長にお任せである。
「砲兵司令はおるか?当初の予定通り工兵隊と協力して砲兵陣地の構築にかかれ。」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
信州辰野兵器廠砲兵隊新型砲受領班
権蔵は1年前の権蔵ではない。大陸にいる間はみんなと読み書きソロバンを騎馬士官から徹底的に教え込まれた。皇国本土に帰ると皇国砲兵隊に正式に採用された。曹長として。
大陸帰りの砲兵は他の砲兵たちから一目置かれた。実戦経験者として。しかも繁信と一緒に戦って、ルシアを打ち破ったのだ。(実際は逃げ回っていただけだったが)
受領班の班長は湯船少佐、これから受領した大砲を鉄軌道に載せて陣地まで運ぶ。この戦いの帰趨は砲兵隊にかかっていると言っても過言ではない。
善光寺平ルシア第3師団ダミアン少将
例によってルビンスキ少将と轡を並べて進軍している。
「順調だな。抵抗が全くない。」
「ええ、調子に乗って信州まで入ってしまいましたね。」
「皇太弟殿下が来られないうちに、こんなに奥深く入り込んでいいのかな?」
「将軍連中、気がはやっていますから抵抗がないと前へ前へ進んじゃいますね。」
「このオレ、ダミアンとしてはアガペーエフ大将が止めるべきだと思うんだ。信州はほら、アレだ、マジックシゲノブの地元だろ?」
結局、アガペーエフ大将の停止命令がないまま、ルシア軍はズルズルと進軍することになる。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる