大砲と馬と 戦術と戦略の天才が帝国を翻弄する

高見信州翁

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第6章 反撃

13 関東の仕置

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    戦に勝ったら勝ったで後始末が大変だ。へへへ、ご主人様、関東を取りましたぜ。褒めてほめて!っていうノリで放っておくと、ろくなことにならない。必ず、「関東をとりかえしたのなら松平様にお返し申すべきである!」なんてのが出てくる。

    松平家光は軍命令違反者だぞ。軍法会議で本人欠席のまま、判決が出ている。銃殺刑だ。

    情報庁を始めとする機関を総動員して監視体制だ。どうせ監視するなら、ちょこっと工作してもいいかな?「真田家の活躍、比類なし!関東あたりにご加増あるべし!」とかなんとか。

   うん、声だけは上げておこう。

    冗談はさておき、関東は直轄化すべきだと考えている。直轄地が発展して今の皇国がある。産業革命も起こった。関東を見て実感する。こここそ自由競争の地にすべきだと。どれだけ発展するだろうか。

    ルシアは関東からは完全に駆逐した。だが追撃戦のノリで越後まで踏み込んだら、痛い目に合いそうだ。アーネン・ニコライを甘く見てはいない。ヤツとの決着は入念に準備した上でないとやられる。

    海軍の予算を陸軍と五分にしたのは伊達(だて)や酔狂(すいきょう)ではない。海軍力で優勢にならないと、アーネン・ニコライを皇国から駆逐出来ないからだ。

    面倒くさいが、いったん京に帰って工作しなければなるまい。ああ、そうそう、家に帰ってのんびりもしたい。京からの帰りに信州に寄ろう。子供たちにお土産も買っておかないとな。

    ああ、錦旗(きんき)のことを忘れていた。【勝てば官軍】などとカッコいいことを言ったが、お上(かみ)から直接お許しのお言葉をいただいておかねば、後々あげつらう輩(やから)が出ることは間違いない。


    石田大将と一緒に行こう。あの人は戦はヘタだが、事務能力は抜群だ。

    「石田大将、相談があります。」

    「なんだろう。」

    「京に戻って関東の仕置(しおき)と錦旗のお許しを得ておく必要があります。」

    「ああ、そうだな。放っておくとマズイ。」

    急ぎ、鉄軌道で京に戻る。早くなった。1日で京に行くことが出来る。もちろん特別列車だが。



京護国省作戦会議室

    豊臣秀安殿下が気さくに出迎えてくれる。

    「よう来た。石田大将、真田中将、大活躍だったな。ええ?2万7千で6万3千を撃破した気分はどうだ?全く、うらやましいぞ。このワシとて、そんな大軍を相手どったことはないぞ。」

    「こやつ、戦術の天才ですな。小官は朝霞でそれを聞いて、驚愕しましたぞ。」

    「前田大将が任せてくれたからですよ。度量のある上司が2人もいて助かりました。」

    「まあ飲め、酒は出せんが珈琲(コーヒー)と言う南蛮の飲み物だ。最近、これにはまっていてな。」

    「苦い・・・。」

    「はっはっは。そうだろう。ワシもな、最初はそうだった。だが、飲んでいるうちに、その苦みがたまらなく良くなる。最初は砂糖を入れて飲むことだな。」

    「なるほど、これなら。」





 「ところで関東の仕置(しおき)ですが、全てお上の直轄地にすべきです。皇国の経済発展の原動力となりましょう。」

    「そうは言うが、松平家だけでなく、旧領主層が返還要求をしてくるぞ。」

    「中途半端に妥協してはなりませぬ。越後方面軍の発した集合命令に従わなかったヤツらです。領地が召し上げられて当然。いちはやく、関東直轄化を宣言してしまうのです。先に言ったもの勝ちです。」

    「うう~む、そうか。」

    「それとお上に根回しをして味方になってもらわねばなりませぬ。」

    タイアップという言葉は当時なかったが、まあそういうことだ。

    「お上も内証(ないしょう   本来は仏教用語だがここでは家計のこと)が良くなり、皇国も税収が増えます。」

    殿下に頭を下げる。

    「お上には殿下から事前に根回しのほど、よろしくお願いします。」






御所鳳凰の間

     関白殿下がいつもの通り前振りしてくれる。     

   「お上、従四位下左衛門督(さえもんのかみ)を賜りました真田辰一郎繁信がお礼に参内いたしております。」

    「おお、そうか直答(じきとう)許す。」

    「ははあ、繁信、直答が許されたぞ。御下問(ごかもん)にお答えするように。」

    「ははあ。今回は官位を3つも上げていただき、恐悦至極でございます。」

    「繁信、久しいの。千曲や箱根のおりは官位を上げる間もない、戦陣続きだったからの。まとめただけじゃ。」

    「今日はお上にお許しをいただきに参りました。」

    「何のことじゃ。」

    「ははっ、川越の戦において勝手に錦の御旗を使いましたること、なにとぞお許しいただきたく思います。」

    「おお、良い良い。今後も使ってくれてかまわんぞ。いや、使ってやってくれ。朕(ちん    皇帝の一人称)も兵と一緒に戦っていることになり、嬉しい。」

    「ははあっ、ありがたき幸せ。」

    よし、これで後々このことをあげつらわれずに済む。

    関白殿下がここで言上される。

    「つきましては、それらの戦の功に鑑(かんが)み、真田繁信に関東において百万石を加増する。」

    「お待ち下さい。慎(つつし)んで辞退させていただきます。関東は全てお上の直轄地にするべきです。」

    「なんと!」

    「皇国の未来のため、御国の発展のため役立てて下さい。真田繁信、官位だけで満足しておりまする。」

     あらかじめ、打ち合わせがされていた内容通りである。

    真田繁信の二つ名に【百万石を捨てた漢(おとこ)】が加わった。


    即日、真田繁信の官位が左衛門督のまま従四位上となった。
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